環境総合展2008     2008年6月29日 寺岡克哉


 先日、「環境総合展2008」というイベントを見に行きました。

 このイベントは、北海道洞爺湖サミットの記念行事として、6月19〜21日
の3日間にわたり、札幌ドームで行われたものです。

 また今回も、割り込みの話になってしまいますが、見聞したことを忘れてしま
わないうちに、まとめて置きたいと思いました。



 イベントには、全国から333社の企業や、団体、大学、政府機関などが参加
しました。そして地球温暖化対策に向けた、最先端の環境技術や、さまざまな
環境製品などを出展していました。

 ちなみに私は札幌在住ですが、野球やサッカーを見に行くことがないので、
このとき初めて札幌ドームの中に入りました。

 ドームの外観にくらべて、中の競技場は「思ったより狭い」というのが印象的
でした。それはグラウンドの周りに、さらに観客席があるからですね。考えてみ
れば当たり前だったのですが、ドームの中に入らなければ分からない実感で
した。



 さて、それでは、とくに私が興味をもった展示について、ご紹介したいと思い
ます。


                 * * * * *


 二酸化炭素の地中貯留

 これはエッセイ239で取り上げていますが、
 石炭火力発電所や製鉄所などの「排気ガス」から、
 二酸化炭素だけを「分離回収」し、
 それを「地中に埋めてしまおう」というものです。

 このようにすると、化石燃料を使ったとしても、二酸化炭素を大気中に排出
しないで済むわけです。

 エッセイ239に書きましたが、日本では「帯水層」とよばれる地層に、二酸化
炭素を封じ込める方法が有力視されています。

 そして新潟県の長岡市において、実際にそのような帯水層への、二酸化炭素
の地中貯留実験が行われました。

 この実験をやったのが、「地球環境産業技術研究機構(RITE: Research
Institute of Innovative Technology for tha Earth)」というところです。その展示
があったので、まず最初に見てきました。

 いろいろと話を聞くことが出来ましたし、研究結果をまとめたパンフレット
も頂いたので、エッセイ239を書いたときよりも具体的なことが良く分かりま
した。



 まずコストですが、現在の技術では、二酸化炭素を1トン処理するのに
7000円〜15000円
ぐらいかかるそうです。

 これは、排気ガスからの二酸化炭素の分離回収、そして帯水層への封入
まで、すべてを含んだコストです。

 その中でもとくに、二酸化炭素の分離回収には、半分以上のコストがかかっ
ています。なので、そこの部分の低コスト化が、これからの重要な研究課題に
なっています。



 また、日本各地の地層データを調べて、一体どれぐらいの帯水層が日本
にあり、全体としてどれぐらいの二酸化炭素が貯留できるのか、その総量が
見積もられていました。

 それによると、日本に存在する帯水層には、1460億9600万トンの二酸化
炭素を貯留できそうです。

 これは、日本全体が出している二酸化炭素(2005年データ)の、113年分
に相当します。



 ところで、エッセイ239でちょっとだけ触れましたが、
 二酸化炭素を帯水層のなかに封じ込めると、
 二酸化炭素と岩石との化学反応(風化作用)により、
 岩盤が弱体化して、二酸化炭素が漏れ出すことも考えられます。

 これについては、「実際の試験データ」をコンピューターで解析することに
より、まず「1000年後までは大丈夫」だという、信頼性の高い予測が可能
になりました。



 また、実験期間中であった2004年10月23日には、実験場から20kmの
地点を震央とする(つまり、すぐ近くで)「新潟県中部地震」が発生しました。

 このとき、地震による停電で、実験施設が自動停止したそうです。

 しかしながら、その後の調査で、二酸化炭素を封じ込めていた「帯水層その
もの」には、異常が無かったと確認されました。




 以上のことから、二酸化炭素の地中貯留技術は、だいぶ信頼性が増し
てきた
と思われます。

 しかしエッセイ239の最後に書きましたが、やはり、この技術は根本的な
解決策ではなく、「緊急避難」としての対策であるのは変わりません。

 また、長岡市郊外の実験場で安全が確認されたとしても、その他の日本
各地にある帯水層では、どうなのかという疑問もあります。




 しかしながら、近年における石油の値上がりや、石油資源の枯渇の問題
から、いま石炭火力発電が増えています。(ちなみに石炭火力は、いちば
ん二酸化炭素をたくさん出す発電方法です。)

 たとえば日本では、発電量全体に占める石炭火力の割合が、1990年では
10%だったのに、2005年では26%に増えています。

 そしてまた、これから中国でも、石炭火力発電所が増えると予測されていま
す。しかもこちらは、日本の比ではありません。

 なので現実問題として、二酸化炭素の地中貯留技術は、絶対に必要
不可欠であり、しかも早急に実用化しなければなりません。



 本当は、石炭火力発電なんか増やさずに、新エネルギーを導入するべき
なのですが・・・


                * * * * *


 太陽電池

 やはり、二酸化炭素問題の根本的な解決策は、「新エネルギー」の開発と
普及です。

 その新エネルギーのなかでも、私がいちばん好ましいと考えているのが
「太陽光発電」です。だから私は、太陽電池にとても興味があり、このサイト
でもエッセイ229、 230、 231と、エッセイ275で取り上げています。

 太陽電池関連では、その方面で有名な「SHARP(シャープ株式会社)」さん
が出展していました。



 ところでエッセイ230に書きましたが、「薄膜太陽電池」の開発と普及が、
太陽光発電の大きなカギになります。

 なぜなら薄膜太陽電池は、シリコン部分の電池本体を作るためのエネル
ギーが、とても少なくて済むからです。むしろ土台となるガラス基盤を作るの
に、全体の7割ほどのエネルギーが使われています。

 だから製造エネルギー的に考えると、薄膜太陽電池が大量生産されるよう
になれば、ふつうの板ガラスより少し高いていどの値段で作れるはずなの
です。

 そのことを、専門の業者さんに聞いて見たいと、つねづね思っていました。



 SHARPの人に話を聞いたところ、
 生産ラインを大規模にすれば(つまり工場を大きくして大量生産すれば)、
 確かに、「ふつうの板ガラスより少し高いていどの値段」までコスト
ダウン出来る
とのことでした。

 もしもそうなったら、屋根板や、壁のタイル代わりに、どんどん太陽電池が
使えるようになるでしょう。

 あるいは道路脇の歩道に、太陽電池で作った、日よけや雨よけの屋根を
つけても良いかも知れません。



 しかしながら、薄膜太陽電池を一般家庭用として大々的に普及させる(つま
り大量生産ができるようにする)には、12%以上の「変換効率」が必要なの
だそうです。

 この「変換効率」というのは、光エネルギーの何パーセントが、電気に変換
できるかという割合です。

 一般家庭用では、屋根の面積が限られているため、どうしても12%ぐらいの
変換効率が必要になるのです。(たとえば、広い敷地に展開している工場など
での「産業用」ならば、いまの薄膜太陽電池でも大丈夫だそうです。)

 SHARPのカタログを見ると、現在製品化されている薄膜太陽電池は、変換
効率が7.4%になっていました。(ちなみに従来型の太陽電池では、変換効率
が9.4〜13.3%でした。)



 変換効率が12%以上の薄膜太陽電池は、いま研究開発中で、将来的には
実現可能になるそうです。

 私はちょっと興奮して、説明係の人に「本当に出来ますか?」と、すこし失礼
な質問をしてしまいました。しかし説明係の人は、「出来ます!」とキッパリ
答えて下さいました。

 変換効率が12%以上の薄膜太陽電池が、

 ふつうの板ガラスよりも、すこし高い値段で作られるようになれば、

 「世の中が激変する!」と私は思います。



                * * * * *


 エコカー

 まずエッセイ266を見ていただくと分かりますが、ガソリンを1リットル使う
と、60ワットのテレビやパソコンを90時間使うのと、おなじ量の二酸化
炭素を出します!


 しかしながら、1台1台の自動車には、上で話したような「二酸化炭素の分離
回収装置」を付けることができません。
 なぜなら二酸化炭素の分離回収装置とは、じつは大規模な「施設」であり、
ある意味では化学工場のようなものだからです。なので、発電所とか製鉄所
とか、そのような「大きな工場」にしか備え付けることが出来ないのです。

 ところで、もしも「電気自動車」を普及させることができれば、火力発電所で
つくった電気を使ったとしても、発電所からでる二酸化炭素ならば、分離回収
することが可能です。
 あるいは、原子力発電所を増やすのは好ましくありませんが、その電気を
使うことも可能でしょう。

 だから「電気自動車」さえ普及すれば、あとは既存の技術で対応することが
できるのです。
 また「燃料電池自動車」も、水の電気分解でつくった水素を使えば、上と同じ
ように対処できます。あるいは、メタンから水素を作る場合でも、発生した二酸
化炭素を分離回収することは可能です。

 これから将来・・・ 発展途上国の人々も、車に乗るようになるでしょう。そう
すれば、自動車の台数が爆発的にふえる恐れもあります。

 なので「二酸化炭素を出さない車」の開発は、絶対に必要不可欠であり、また
急務の問題です。



 さて、環境総合展のイベント会場では、燃料電池自動車、電気自動車、
クリーンディーゼル自動車などの、いわゆる「エコカー」が展示されていま
した。

 その中でも、とくに私の耳に新しかったのは、「超伝導電気自動車」という
ものです。これは、住友電気工業株式会社さんが開発した、世界初の自動車
だそうです。

 思わず近寄っていき、説明係をしていた技術者の方に話を聞きました。



 まず、「どの部分が超伝導なのか?」と質問しました。

 そうしたら、電気モーターの「マグネットの部分」が、超伝導電磁石になって
いるとのことでした。後々は、「回転側のコイル」も、超伝導にする予定なのだ
そうです。

 「超伝導電磁石」にするメリットは、ふつうの磁石にくらべて、「強い磁力」を
生み出せることです。そのため「大トルク」、つまり「大きな力」が得られるの
です。

 なので、バスやトラックなどの大型車や、重機、あるいは船舶など、「大きな
力を必要とするもの」への応用を考えているそうです。

 ちなみに、これは「モーター部分」の開発なので、電気自動車、燃料電池
自動車、ハイブリッド自動車の、どれにでも応用ができるそうです。



 しかし実用化への課題も、まだ残っています。

 たとえば現在のところ、最高時速が85キロで、時速35キロなら連続2時間
の走行が可能という状況です。

 そしてまた、超伝導状態にするためには、−196℃まで冷却しなければなり
ません。しかし、その冷却に使われている「液体窒素」が、3時間で蒸発して
無くなってしまいます。なので、冷却装置を含めたシステム開発が、まだこれ
から必要です。

 しかしながら「大トルク」という、従来の電気モーターの「性能の壁を越え
たこと」
には、大きな意義があると思いました。

 これで、今まで電気モーターが使えなかった分野にも、応用範囲が広がって
行くことでしょう。


                * * * * *


 以上、すべての展示を見ることは出来ませんでしたが、私がとくに興味をもっ
たものについて、紹介させて頂きました。

 私は当初、「わが社も、地球温暖化に気を使っていますよ〜」というような
程度の、企業のイメージアップをアピールするための展示が、ほとんどだろう
と思っていました。

 あるいはビジネスチャンス、つまり地球温暖化にかこつけて、金儲けを企ん
でいる下心が、見え見えなのではないかと・・・


 しかし、実際にイベント会場へ行ってみると、
 「今のまま経済活動をつづけては、地球が破滅する!」というような、
危機意識みたいなものが、私には感じられました。


 説明してくれる人の態度や対応から、そのような空気がひしひしと伝わっ
てくるのです。それが少し意外でもあり、また、たいへん嬉しいことでもありま
した。


 そしてまた、一般の観客でも、高校生などの「若い人」がずいぶん居ました。

 しかも、理系好きな男の子ばかりと言うわけではなく、女の子も同じぐらい
居ました。おそらく学校の方針で、生徒を見学させていたのかも知れません。

 しかし、このようなイベントに若い人が興味をもつのは、将来的にすごく良い
ことです。そのような光景を見ていると、私も、未来に希望をもつことが出来
ます。


 全体の感想としては、そのような印象を受けました。



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