CO増加は化石燃料が原因か? 4
                               2008年6月1日 寺岡克哉


 ここでは、エッセイ325から前回まで話したことの、「要点」をまとめて
みましょう。

 そして最後に、それらの要点を踏まえて、私なりの考えや気持ちを、
お話したいと思います。


                * * * * *


 まず、IPCCの第4次告書によれば、

 「工業化以後における大気中の二酸化炭素濃度上昇の主要な原因
は化石燃料の使用である」
と、あります。



 しかし、地球温暖化への懐疑論者たちは、そのことに異論を唱えてい
ます。
 つまり何らかの原因で、まず気温とともに「海水温」が上昇し、それに
よって「海から二酸化炭素が放出されている」という主張です。

 たとえば、栓のしたビンに入っているビールやサイダーを温くしておき、
いきなり栓を抜くと、「シュワーッ」と炭酸ガス(二酸化炭素)が出てきます。
 これは、水の温度が高くなると、二酸化炭素を溶かせる量が少なくなる
(溶解度が小さくなる)からです。そのため、水に溶けていられなくなった
二酸化炭素が、「シュワーッ」と出てくるわけです。

 これと同じ理由によって、温度が上昇すれば、海水に溶けていた二酸化
炭素がたくさん放出されるようになり、それで大気中の二酸化炭素が増え
ているという「化説」です。
 (ここで私が「仮説」と言ったのは、そのような「観測事実」が存在しな
からです。つまり、大気中の二酸化炭素増加に見合うような大量の、
海からの二酸化炭素放出が観測されていない
からです。)



 私がいつも「観測事実」を強調するのは、「論より証拠」という立場を、
絶対的に重んじているからです。

 つまり単なる「論のみ」によって、現実に起こっている「事実」を
覆(くつがえ)すことは、絶対にできない
からです。

 それで、世界中の(実験)研究者たちは、一生懸命に(人と金と時間を
かけて)「観測」をしているわけです。


               * * * * *


 さて、上で話した懐疑論者たちの「仮説」は、つぎのような複数の
「観測事実」によって、完全に否定されます!




(1) 氷床コアのデータ  (エッセイ325

 南極の氷床コア(氷床を深く掘って取りだした氷のサンプル)を調べると、
過去数10万年にわたっての、「気温」と「二酸化炭素濃度」が分かります。

 その「氷床コア」の研究によれば、すごく寒かった「氷河期」と、現在よりも
さらに気温が高かった「温暖期」が、くりかえし訪れていたことが分かって
います。

 さらには、「ボストーク氷床コア」の分析によって、現在の気温より2〜4℃
高かった温暖期でも、大気中の二酸化炭素が300ppm以下だった
こと
も分かっています。

 なので、「過去の温暖期よりも、現在の気温の方が低いのに、いまの
二酸化炭素が380ppmを超えている」
という事実を、懐疑論者たちの
仮説では説明できません。

 まず、この「観測事実」によって、懐疑論者たちの「仮説」が否定
されます。




 また、同じく「ボストーク氷床コア」のデータによると、およそ10℃の気温
上昇で、100ppmていどの二酸化炭素増加になっています。
 (気温が現在より8℃低かった「氷河期」で、二酸化炭素が180ppm。
現在より2〜4℃高かった「温暖期」で、二酸化炭素は280〜300ppm。)

 だから、大ざっぱな話として、
 産業革命前の280ppmから現在の380ppmまで、100ppmの二酸化
炭素増加を、懐疑論者たちの仮説で説明するには、
 すでに現在の気温が、産業革命前に比べて10℃ぐらい高くなっていなけ
ればなりません。

 しかし現在、そんなことになっていません!

 これらの「事実」から、現在の二酸化炭素が380ppmを超えるほど増加
しているのを、懐疑論者たちの仮説で説明するのは、とうてい不可能
です。


                − − − − −


(2) スエズ効果  エッセイ326

 海水に溶けている二酸化炭素には、全体のおよそ1兆分の1(1.2×
10−12)の比率で、「炭素14(14C)」が含まれています。

 しかし、石炭や石油などの化石燃料には、14Cがまったく含まれていま
せん。

 だから、もしも海から二酸化炭素が放出されているのならば、大気中の
二酸化炭素における、12C と 14C の比率は変わりません。

 しかし、化石燃料の使用によって二酸化炭素が排出されているならば、
その排出量に応じて、12C と 14C の比率が変わってきます。
 つまり化石燃料の使用により、大気中の二酸化炭素が増えれば増える
ほど、それだけ12Cに対する14Cの比率が減って行きます。

 そして事実、大気中の二酸化炭素が増えるに従って、12Cに対する14
の比率が減っています。これは、「木の年輪」などの観測によって明らかに
されており、それを「スエズ効果」といいます。

 この、「スエズ効果」という「観測事実」によっても、懐疑論者たちの
仮説が否定されます。



                − − − − −


(3) 酸素の減少  エッセイ327

 石炭や石油をたくさん燃やすと、当然ながら、「酸素」がたくさん消費され
ます。

 だから「化石燃料の使用」がおもな原因ならば、大気中の二酸化炭素
が増加するにしたがって、酸素が減少するはずです。

 ところが、懐疑論者たちが主張するように、もともと海水に溶けていた
二酸化炭素が放出しているだけなら、酸素の量は変化しないはずです。

 しかし「実際の観測」によれば、大気中における「酸素の減少」が、
明らかに確認されています!

 (たとえば国立環境研究所の観測によると、1999年〜2005年の6年間
に、大気中の酸素が24ppm減少していました。)

 この「観測事実」によっても、懐疑論者たちの仮説が否定されます。


                − − − − −


(4) 海水の酸性化  エッセイ327

 二酸化炭素が水に溶けると、「炭酸」というものになって、弱酸性の性質を
もちます。だから大気中の二酸化炭素が、海にたくさん溶け込むと、海水
が「酸性化」します。


 しかし、もしも懐疑論者たちの仮説のように、二酸化炭素が海から放出
されているのであれば、海水中の炭酸が減らなければなりません。つまり、
海水が「アルカリ化」しなければならないのです。

 ところが「実際の観測」では、海水が「酸性化」しています!
 (産業革命前の二酸化炭素が280ppmだったころは、海水の平均的な
pHが8.17ぐらいでした。しかし二酸化炭素が380ppmを超えた現在
では、海水の平均的なpHが8.06ぐらいまで下がっています。)


 この「観測事実」によっても、懐疑論者たちの仮説が否定されます。


                − − − − −


(5) 海洋における二酸化炭素の増加  
エッセイ327

 もしも懐疑論者たちが言うように、二酸化炭素が海から放出されている
のであれば、それまで海水に溶けていた二酸化炭素が減らなければなり
ません。

 つまり、海洋に蓄積されている二酸化炭素の総量が、減少しなければ
なりません。

 しかし「実際の観測」では、海洋に蓄積されている二酸化炭素が
「増加」しています!


 世界中で行われた観測によると、産業革命後から1990年代の中ごろ
までの間に、海洋に蓄積された二酸化炭素が、およそ4330億トン増え
ました。

 また1990年以降では、1年間に80億トンていどの二酸化炭素が、海洋
に吸収されています。

 この「観測事実」によっても、懐疑論者たちの説が否定されます。



 海は、決して二酸化炭素の放出源ではありません。

 そうではなく、海洋は二酸化炭素の「吸収源」になっていると言うのが、
まぎれもない「事実」なのです。


                  * * * * *


 以上の「観測事実」をふまえて、私なりの考察をまとめると、以下のように
なります。


 まず、「懐疑論者たちの仮説」を否定するだけなら、(5)の事実だけで十分
でしょう。
 なぜなら懐疑論者たちは、二酸化炭素が海から「放出」されていると主張
していますが、しかし実際には、二酸化炭素が海に「吸収」されているから
です。
 この事実を1つ取っただけで、懐疑論者たちの主張がナンセンスである
のは明らかです。

 しかし二酸化炭素の増加が、「おもに化石燃料の使用が原因である」こと
を明確にするには、もうすこし考察が必要です。
 それを明らかにするためには、「酸素の減少」と「スエズ効果」の、両方
が起こっていなければなりません。




 たとえば化石燃料の使用ではなく、「森林破壊」や「砂漠化」などで二酸化
炭素が増加している場合・・・

 この場合でも、「酸素は減少」します。

 が、しかし、「スエズ効果」は起こりません。このことは、エッセイ327で考察
しています。

 そして、同じくエッセイ327で話していますが、そもそも森林などの「陸上
生態系」は、今のところ(かろうじて)二酸化炭素の「吸収源」になっています。

 なので現在のところ、大気中の二酸化炭素を増やしている主な原因
は、森林破壊や砂漠化ではありません。




 ところでまた、「火山の噴火」によっても、二酸化炭素が放出されます。

 しかしながら、たとえば2億5000万年前に起こった「PTの大量絶滅」・・・
(それによって地球に棲んでいた生物の、95%以上の種が絶滅したと言わ
れています。)

 このときにも、二酸化炭素が急激に増えました。その始まりは、当時の
シベリア地方で起こった、とてつもなく大規模な「火山活動」が原因だった
と考えられています。

 そのときシベリアでは、オーストラリア大陸の半分を上回る広い地域で、
60万年〜100万年も噴火がつづきました。その間に、およそ40兆トンの
二酸化炭素が放出されたと見積もられています。それは、現在の大気中に
存在する二酸化炭素の、およそ15倍の量です。

 しかし、そんなにすごい火山活動が起こったときでも、二酸化炭素の増加
は、10年間で0.1ppmぐらいのペースだったでしょう。
 (これは、海洋の吸収などをまったく考えないで、すごく大きめに見積もっ
た値です。)


 ところが今は、二酸化炭素が10年間で20ppmも増加しています。

 つまり現在は、おそろしく激しい火山活動が起こっていたときの、さら
に200倍もの速いペースで、大気中の二酸化炭素が増加しているの
です。


 しかし当然ですが、現在、そんなとてつもない火山活動は起こっていませ
ん。なので、いま起こっている二酸化炭素の増加は、火山活動が原因
ではあり得ません。
 (逆に言えば、現在における二酸化炭素の増加ペースは、それほど凄ま
じく、たいへん恐ろしいことが起こっているのです。)



 一方、「化石燃料の使用」による二酸化炭素の排出量は、

 その、およそ半分が「海洋や森林」に吸収されても、

 いま起こっている大気中の増加を説明するのに十分な大きさです。

 逆に、大気中の二酸化炭素増加が、化石燃料の使用から見積もられる
量よりも小さいので、「海洋の吸収」や「陸上生態系の吸収」が詳しく研究
されているのが真相です。



 以上の話をまとめると、いま起こっている二酸化炭素の増加が、

 「海からの放出」によるものではないこと。

 また主には、「森林破壊」や「砂漠化」によるものでもないこと。

 さらには、「火山活動」によるものでもないこと。

 そして一方、「化石燃料の使用」による排出量は、現在の二酸化炭素増加
を説明するのに十分な大きさであること。さらには、「酸素の減少」と「スエズ
効果」の両方が観測されていること。


 これらから、大気中の二酸化炭素が増えている主な原因は、「化石
燃料の使用」しかありえません!



                * * * * *


 以上のさまざまな「観測事実」から、

 産業革命以後から起こった、大気中における「急激」で「大幅」な
二酸化炭素の増加について話を限れば、

 その主な原因が「化石燃料の使用」であるのは明確であり、

 懐疑論者たちの「仮説」は完全に否定されます!



 だから今後なお、懐疑論者たちが「その仮説」を主張し続けるので
あれば、それは「嘘デタラメである」と言われても仕方がないでしょう。

 この件に関して懐疑論者たちは、自分たちの主張が間違っていた
と素直に認め、それを社会に公表するべきです!


 そうしなければ、やはり一般の人々の中には、騙される者も実際に
少なからずいて、社会的な混乱を招いてしまうでしょう。

 ひいては、「温暖化対策が手遅れになる」ことにも、繋がりかねま
せん。


 そうなってしまったら、もう絶対に取り返しがつかないのです!



      目次へ        トップページへ