CO2増加は化石燃料が原因か? 1
2008年5月11日 寺岡克哉
さて、今回から、
「大気中の二酸化炭素が増えているのは、ほんとうに化石燃料の
使用が原因なのか?」
について、考えて行きたいと思います。
まず最初の最初に、結論から言ってしまうと、IPCCの第4次報告書に
よれば、「工業化以後における大気中の二酸化炭素濃度上昇の主要
な原因は化石燃料の使用である」と、なっています。
しかし、地球温暖化への懐疑論者たちは、そのことに異議を唱えてい
ます。つまり、彼らの言い分によると、
まずはじめに、何らかの原因で「気温」が上昇し、
それによって「海水温」も上昇し、
その結果として、海からの二酸化炭素の放出が増え、
それが原因となって、大気中の二酸化炭素が増加していると言うの
です。
たとえば、栓のしたビンに入っているビールやサイダーを温くしておき、
いきなり栓を抜くと、「シュワーッ」と炭酸ガス(二酸化炭素)が出てきます。
これは、水の温度が高くなると、二酸化炭素を溶かせる量が少なくなる
(溶解度が小さくなる)からです。なので、水に溶けていられなくなった二酸
化炭素が、「シュワーッ」と出てくるわけです。
それと同じ理由によって、海水温が上昇すれば、海水に溶けていた二酸
化炭素が放出されるという「説」です。
しかし工業化以後の、大幅で急激な二酸化炭素の増加について話
を限れば、上の懐疑論者たちの説は、複数の「観測事実」によって
完全に否定されています!
これから数回にわたり、それらの「観測事実」について、いくつか見て行き
たいと思います。
* * * * *
(1) 氷床コアのデータ
懐疑論者たちの説を否定する、1つめの「観測事実」として、「氷床コアの
データ」を紹介したいと思います。
南極大陸は、平均で2450メートルもの厚い氷、つまり「氷床」に覆われて
います。その中でも、とくに氷の厚い場所では、3500メートル以上になる
でしょう。
このような「氷床」は、雪が降りつもり、固められることによって出来ます。
つまり、上に降りつもった雪の重さにより、下の雪が圧縮されて「氷」になる
のです。
ちなみに、そのとき雪の中にふくまれていた「空気」もいっしょに、気泡と
して氷の中に閉じ込められます。
毎年まいとし、雪が降っては固められ、雪が降っては固められ・・・
そのようなことを何十万年もくり返して、南極の氷床が作られているの
です。
だから南極の氷床は、数十万年前の「氷」や「空気」が保存されている、
タイムカプセルのようなものです。
もちろん、下の深いところになるほど、氷が古くなります。南極大陸におけ
る場所にもよりますが、たとえば「ドームふじ」と呼ばれる場所では、3000
メートルよりも深いところに80万年前の氷があると考えられています。
なので、ボーリング技術(油田や温泉などの「深い穴」を掘る技術)を使っ
て、深いところにある氷を堀りだせば、何十万年もむかしの「氷」と「空気」が
手に入ります。
その、ボーリングによって堀りだした「氷の心棒」のことを、「氷床コア」と
いいます。
世界の研究グループが、いろいろな場所で「氷床コア」を掘りだし、研究
しています。その長さは2500メートル以上もあり、長いものでは3500メー
トルを超えるものまであります。
* * * * *
ところで、その「氷床コア」を詳しく調べると、むかしの大気の「二酸化炭素
濃度」と、むかしの「気温」が分かります。
まず、「むかしの二酸化炭素濃度」ですが、これは、氷の中に閉じ込めら
れている「むかしの空気」を取りだして、その成分を調べれば分かります。
また、空気の「年代」は、その氷があった場所の「深さ」から求めます。
深いところの氷に閉じ込められている空気ほど、年代が古くなります。年代
測定の精度は、ふつうの分析では1000年ぐらいです。
一方、「むかしの気温」を求める原理は、ちょっと複雑です。
まず氷床コアの「氷」は、H2O、つまり化学物質としては「水」のことです。
そして「水」は、化学記号のとおり、2つの水素(H)と、1つの酸素(O)から
出来ています。
ここで、さらに酸素の「原子核」に注目しましょう。
そうすると、ふつう酸素の原子核は、8つの陽子と、8つの中性子から出来
ています。両方を合わせると16なので、そのような酸素は、酸素16(16O)
と言います。
しかしながら、ごくわずかですが、8つの陽子と、10の中性子を持つ酸素
があります。そのような酸素は、酸素18(18O)と呼ばれます。
地球に存在する酸素のうち、ほとんどは16Oなのですが、全体のうちの
0.2%だけ18Oが含まれています。
とうぜん、H2Oとして水を作っている酸素ついても、そのほとんどが16O
ですが、0.2%だけ18Oが含まれています。
ところで16Oよりも、18Oは中性子2つ分だけ「重い」酸素です。なの
で水の場合でも、「16Oを含む水」より、「18Oを含む水」の方が、それだけ
重くなっています。
だから海水が蒸発するとき、16Oを含む水よりも、18Oを含む水の方が
「蒸発しにくく」なっています。つまり18Oを含む水は、重いので空気中に
飛んで行きにくく、海水の中に留まりやすいのです。
事実、海水よりも、一回それが蒸発した水(つまり雨や雪)の方が、18O
の含まれる割合が少なくなっています。しかも、その「少なくなる割合」が、
「気温によって変化」します。
この原理を利用して、「むかしの気温」を求めることが出来るの
です!
つまり気温が高ければ、海水を蒸発させる力が強い(熱エネルギーが
大きい)ので、18Oを含む「重い水」でも蒸発しやすくなります。
その反対に気温が低ければ、海水を蒸発させる力が弱いので、18Oを
含む「重い水」は蒸発しにくくなります。
だから「むかしに降った雪」に含まれる18Oの量、つまりその雪が固まっ
て出来た「氷床コアに含まれる18Oの量」を調べれば、その当時の
気温が分かるのです。
* * * * *
以上のように「氷床コア」を調べると、むかしの「二酸化炭素濃度」と
「気温」を知ることができます。
このため氷床コアは、世界のいろいろな研究グループによって掘りださ
れ、研究されています。(ちなみに日本でも、「ドームふじ」と呼ばれる場所
で氷床コアを掘りだし、精力的な研究を行っています。)
その中でとくに有名なのは、ロシアの「ボストーク基地」がある場所から
掘りだされた氷床コアです。
この「ボストーク氷床コア」により、過去40万年にわたっての、「大気中
の二酸化炭素濃度」と「気温」がわかりました。
その分析結果によると、「二酸化炭素」と「気温」の変化は、とてもよく
一致していたのです!
つまり気温が上がれば、たしかに二酸化炭素が増え、その逆に気温が
下がれば、二酸化炭素は減っていました。
この意味では、懐疑論者たちの言っていることも、あながち的外れでは
ないかも知れません。
が、しかし、現在における「大幅」で「急激」な二酸化炭素の増加は、
それとは全く事態がちがうのです!
なぜなら過去40万年で、現在よりも気温の高かった「温暖期」が4回ほど
ありましたが、しかしそれでも、二酸化炭素は300ppmを超えることが無かっ
たからです。
「ボストーク氷床コア」のデータによると、
気温が現在より8℃低かった「氷河期」で、180ppmの二酸化炭素。
そして気温が現在より2〜4℃高かった「温暖期」で、280〜300ppmの
二酸化炭素となっています。
たしかに、気温の変化によって、二酸化炭素もこれぐらいは変化するので
しょう。しかしながら、もしも気温上昇(による海水温の上昇)が原因で、現在
の380ppmという二酸化炭素になっているのならば、いま現在すでに、
すさまじく気温が上昇していなければなりません!
上で話したボストークのデータによると、およそ10℃の気温上昇で、
100ppmていどの二酸化炭素増加になっています。
だから大ざっぱな話として、産業革命前の280ppmから現在の380ppm
まで100ppmの二酸化炭素増加を、「気温上昇(による海水温の上昇)」で
説明するには、すでに現在の気温が、産業革命前に比べて10℃ぐらい
高くなっていなければなりません。
しかし現在の気温は、そんなことになっていません!
そしてそもそも、現在より気温が2〜4℃高かった温暖期でさえ、
二酸化炭素は300ppm以下だったのです。
ゆえに、現在の二酸化炭素が380ppmにまでも増加しているのを、
気温上昇(による海水温の上昇)で説明するのは、とうてい不可能
です。
というか、そんな説は、この氷床コアの「観測事実」によって否定され
ます!
また、ボストークとはちがう場所ですが、「ドームC」という場所から掘りださ
れた氷床コアがあります。
その氷床コアでは、およそ1万2000年前に起こった「急激な二酸化炭素
の増加」について、くわしく(150年ぐらいの高い時間分解能で)調べられて
います。
それによると、二酸化炭素が20ppmていど増加するのに、1000年ぐら
いの時間がかかっています。自然現象による場合は、二酸化炭素がいちば
ん急激に増加したときでも、これぐらいのペースなのです。
しかし現在は、二酸化炭素が20ppm増加するのに、たった10年しか
かかりません。つまり現在は、自然現象でもっとも急激だったときの、さら
に100倍もの速いペースで二酸化炭素が増加しているのです。
以上から、
現在の「大幅」で「急激」な二酸化炭素増加を、海水温の上昇などの
「自然現象」で説明しようとすれば、「何かとてつもない大異変」がすでに
起こっていなければならないのです。
まず第一に、このことから懐疑論者たちの説が否定されます。
* * * * *
ところで、化石燃料の使用によって排出される二酸化炭素には、じつは
「目印」がついています。
だから、その「目印」を見れば、二酸化炭素が海から放出されたのか、
化石燃料の使用によって排出されたのかが分かります。
次回は、そのことについてお話したいと思います。
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