CO増加は化石燃料が原因か? 2
                              2008年5月18日 寺岡克哉


 地球温暖化への懐疑論者たちは、

 産業革命以後から、大気中の二酸化炭素が「急激で大幅に」増えている
原因として、

 「海水温の上昇により、二酸化炭素が海から放出されるからだ」と、主張
しています。

 あたかも、温くなったビールの栓を抜くと、「シュワーッ」と炭酸ガス(二酸
化炭素)が出てくるのと同じ理由によってです。



 しかしながら、化石燃料の使用によって排出される二酸化炭素には、
じつは「目印」がついています。

 だから、その「目印」を見れば、二酸化炭素が海から放出されたのか、
化石燃料の使用によって排出されたのかが分かります。

 今回は、そのことについてお話したいと思います。


                * * * * *


(2) 大気中の二酸化炭素における、炭素14の比率の減少(スエズ
   効果)



 いま話した、その「目印」とは、炭素14(14C)のことです!

 ふつう炭素の「原子核」は、6つの陽子と、6つの中性子から出来ていま
す。そのような炭素は、両方を足し合わせると12個なので、炭素12(12C)
と言います。

 地球上に存在する炭素のほとんどは、この12Cです。しかし、ごくごく微量
ですが14というのも存在しています。

 これは炭素14と呼ばれるもので、その原子核は、6つの陽子と、8つの
中性子から出来ています。


 この 14Cが、
 大気中の二酸化炭素や、
 生物の体を作っている炭素や、
 海水に溶けている二酸化炭素の中には、
 全体のおよそ1兆分の1(1.2×10−12)の比率で含まれています。

 ところが、石炭や石油などの「化石燃料」には、14Cがまったく含まれて
いません。

 だから、もしも海水から二酸化炭素が放出されているのならば、大気中の
二酸化炭素における、12C と 14C の比率は変わりません。

 が、しかし、化石燃料の使用によって二酸化炭素が排出されているなら
ば、その排出量に応じて、12C と 14C の比率が変わってきます。
 つまり、化石燃料の使用により、大気中の二酸化炭素が増えれば増える
ほど、それだけ12Cに対する14Cの比率が減って行きます。

 そして事実、大気中の二酸化炭素が増えるに従って、12Cに対する
14
Cの比率が減っており、それを「スエズ効果」といいます。


 この「スエズ効果」という観測事実によっても、懐疑論者たちの説は
否定されるのです!




 しかしながら、

 なぜ「海水に溶けている二酸化炭素の中」には、1兆分の1とは言え、微量
14Cが含まれているのでしょう?

 そしてまた、なぜ「化石燃料の中」には、14Cがまったく含まれていないの
でしょう?

 つぎに、そのことについて考えてみたいと思います。


                * * * * *


 話がすこし飛躍しますが・・・

 この大宇宙には、「宇宙線」というのが飛び交っています。

 それは宇宙に存在する「放射線」のことで、その正体は主に、高エネルギー
で飛んでいる「陽子」です。

 とうぜんですが、この宇宙線(高エネルギーの陽子)は、地球にも降りそそ
いでいます。



 地球にやってきた宇宙線は、大気の上層にある、窒素、酸素、アルゴン
などの原子核と衝突し、それらを破壊します。

 そうすると、壊された原子核のいろいろな「破片」が飛び散るのですが、
その破片の一つに「中性子」もあります。

 そのようにして飛び散った中性子のうちで、あるものは、さらに大気中の
「窒素」と衝突
します。

 窒素(14N)の原子核は、7つの陽子と、7つの中性子から出来ています
が、そこに中性子が衝突すると、ある場合によっては(ある確率で)、つぎの
ような反応が起こります。

 つまり中性子が、窒素原子核の中にある陽子の1つと、ちょうど「玉突き
衝突」をします。そして陽子がはじき飛ばされ、その元あった陽子の場所
に、中性子がすっぽりと収まるのです。

 たとえば玉突きのゲーム(ビリヤード)で、玉を真正面から当てると、
当たった玉がはじき飛ばされると同時に、当てた玉がその場所に「ピタッ」
と止まります。それと同じようなイメージです。

 このような反応により、7つの陽子と、7つの中性子をもつ窒素原子核
のうち、陽子が1つぬけて、中性子が新たに1つ入ります。そうすると、6つ
の陽子と、8つの中性子をもつ原子核になりますが、それが炭素14(14C)
というわけです。



 つまり、まず宇宙線(高エネルギーの陽子)が、大気上層にある
原子核と衝突して「中性子」が飛び散り、

 その中性子が、さらに窒素の原子核と衝突して、14Cが出来る
わけです。




 ところが一方、14Cは5730年で、その半分が窒素になります。

 なぜなら14Cの原子核は、6つの陽子と、8つの中性子から出来ています
が、その中性子の1つが、電子とニュートリノを放出して「陽子」に変わって
しまうからです。ちなみに、このような変化を「ベータ崩壊」と言います。

 14Cが持っている中性子のうち、その1つが陽子に変われば、7つの陽子
と、7つの中性子をもつ原子核になります。これがまさに、窒素(14N)の
原子核に他なりません。

 このように14Cは、5730年で半分に減ります。が、しかし、さらに5730年
の時間が経っても、14Cがすべて無くなる訳ではありません。
 そのときは、さらに半分。つまり最初の14Cの、4分の1になります。そし
てさらに5730年経てば、14Cは最初の8分の1になります。

 ちょっと不思議な感じがしますが、14Cはそのような減り方をするのです。
 これは、14Cの減少(つまりベータ崩壊)が、「確率現象」によって起こる
からです。

 たとえば・・・
 100個のコインをすべて表向きにそろえておき、1つずつコインを振って
(コイントスして)、裏向きになったものを取り除きます。そうすると、だいたい
半分の50個ぐらいのコインが残るでしょう。
 つぎに、その残った50個のコインをさらに振って、裏向きになったものを
取り除きます。そうすれば、だいたい25個(最初の4分の1)ぐらいのコイン
が残るでしょう。

 14Cの減り方(ベータ崩壊)も、それと同じような法則に従っているのです。
そして「コインを1回振る」というのが、5730年の時間に相当します。つまり
5730年の時間が経つごとに(その時間のあいだに)、存在している全ての
14Cに対して、2分の1の確率でベータ崩壊が起こるわけです。



 このようにして14Cは、時間が経つと、だんだん数が減って行きます。

 しかしながら、1/2・・・ 1/4・・・ 1/8・・・ 1/16・・・  と、いつまで
経っても14Cが少しは残りつづけ、なかなか「ゼロ」にはなりません。

 その一方で、14Cが宇宙線によって新たに作られ、補充され続けてい
ます。

 なので長い目で見ると、14Cが減少するのと、新しく補充されるのがバラ
ンスして、「つねに一定量に保たれる」ことになります。

 この、14Cが一定にバランスしているところが、炭素全体に対して、
およそ1兆分の1の比率だと言うわけです。



                * * * * *


 ところで・・・

 宇宙線によって作られた14Cは、ただちに酸素と結合して、(14Cを含ん
だ)二酸化炭素となります。そして、地球の大気全体に広がって行きます。

 その(14Cを含んだ)二酸化炭素は、植物の光合成にも使われます。そう
して育った植物は、草食動物に食べられ、さらに草食動物が、肉食動物に
食べられます。

 つまり14Cは、「食物連鎖」を通して、生物全体に広がって行くの
です。


 また、大気中の(14Cを含んだ)二酸化炭素のうちで、あるものは、その
まま海水に溶け込んでいきます。

 この理由で、生きている生物体に含まれる炭素や、海水中の二酸化炭素
には、1兆分の1の比率で14Cが含まれているのです。



 しかしながら、「死んだ生物体」の14Cは、減っていく一方です。

 なぜなら光合成や、食物を取ることによって、14Cを体内に取り込むこと
が出来なくなったからです。

 14Cが新たに取り込まれなくなれば、それが5730年で半分へ、さらに
5730年たてば4分の1へと、一方的にどんどん減っていきます。


 ところで、石炭や石油などの化石燃料はそのほとんどが6500万年前
(中生代白亜紀)よりも昔にできた
と言われています。

 そして14Cは、
 5万7300年たてば、2の10乗分の1(つまり1024分の1)に減り、
 57万3000年たてば、2の100乗分の1(およそ1.3×1030分の1)に、
 そして5730万年たてば、2の1万乗分の1(およそ2×103010分の1)
に減ります。


 そして一方、地球に存在する「すべての化石燃料」は、炭素に換算して
推定10兆トンと言われています。
 これは、炭素原子の数にすると5×1041個になります。そのうち、最初に
含まれていた14Cは、1兆分の1なので5×1029個です。

 地球に存在する化石燃料には、最初からこれだけの14Cしか含まれて
いません。
 それが6500万年以上の時間がたち、2の1万乗分の1以下(つまり2×
103010分の1以下)に減ってしまったら、もはや14Cは1つも残っていない
でしょう。
 上の計算とくらべると、57万3000年でも、化石燃料に含まれる14Cは
無くなってしまいます。

 だから、石炭や石油などの「化石燃料」には、14Cがまったく含まれて
いません!


 このため、化石燃料の使用によって二酸化炭素が大量に排出される
と、大気中の二酸化炭素における14Cの比率が減少するのです。




 ところでまた、「海洋の深層水」にも、たくさんの二酸化炭素が溶けてい
ます。

 これは、プランクトンなどの「生物の屍骸」が海に沈み、その有機物が分解
して出来た二酸化炭素です。

 そして深層水は、「海洋の大循環」によって1000年ぐらい経つと表層に
湧き上がり、そのとき二酸化炭素を放出します。

 しかし、その二酸化炭素は、生物が死んでから1000年ぐらいしか経って
いません。だから14Cは、ほとんど減っていないのです。(大気中の14Cの、
およそ1.1分の1、または0.9倍)

 なのでやはり、海から放出される二酸化炭素によっては、大気中の
二酸化炭素における14Cの比率を、大きく変えることはない
のです。


                 * * * * *


 実際の観測結果を見ると、

 1910年以降、大気中の二酸化炭素における14Cの比率が、急激
に減りつづけています。


 しかもそれは、大気中に増加している二酸化炭素が、おもに化石燃料の
使用によるもの(つまり14Cが含まれていない)としたときの理論値と、傾向
がよく一致しています。

 このことは、「木の年輪」に含まれる14Cの測定から、すでに1970年代
には知られていました。

 それが「スエズ効果」と呼ばれるものです。



 この、スエズ効果という「観測事実」から、大気中の二酸化炭素が
増加しているのは、たしかに「化石燃料の使用」がおもな原因だと
いえます。

 ゆえに、「海からの放出によって、大気中の二酸化炭素が増加して
いる」という、懐疑論者たちの説は否定されるのです。




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