尖閣諸島での漁船衝突事件
2010年10月3日 寺岡克哉
近ごろ・・・
日本と中国の関係が、急激に悪化してきました。
その原因は、
沖縄県にある尖閣諸島(せんかくしょとう)の周辺で、
中国の漁船と、日本の海上保安庁の巡視船が、衝突するという
事件が発生したことです。
このサイトのメインテーマになっている、「地球温暖化問題」の
観点から見ても、
温室効果ガスの削減で、中国の国際協調がものすごく重要に
なっている現在、
このような事件が起こることは、遺憾きわまりません!
そんな思いもあって、今回は、
尖閣諸島で起こった事件をめぐる経緯について、一通り見ておく
ことにしました。
* * * * *
さて、
このたび発生した衝突事件と、それに関連した社会的な動きは、
だいたい以下のようです。
9月7日 事件発生。
沖縄県にある尖閣諸島の、久場島北西の日本領海内で、中国籍
の漁船が停船命令を無視して逃走し、日本の海上保安庁の巡視船
に衝突しました。
9月8日。
中国籍漁船の船長を、公務執行妨害で逮捕しました。
9月9日。
那覇地方検察の石垣支部に、中国人船長を送検しました。
9月10日。
石垣簡易裁判所が、中国人船長の10日間の拘置をみとめました。
9月11日。
中国外務省が9月中旬に予定していた、日中両政府の東シナ海
ガス田開発に関する、条約締結交渉の延期を発表しました。
9月12日。
中国の副首相級である戴秉国国務委員が、丹羽宇一郎 駐中国
大使を緊急に呼びだし、漁船と乗員の引き渡しを要求しました。
9月13日。
中国籍漁船の船長を除く、乗組員14人がチャーター機で帰国
しました。
9月18日。
抗日記念日に合わせて、北京の日本大使館前などで、反日デモ
が発生しました。
9月19日。
石垣簡易裁判所が、中国人船長の、10日間の拘置延長を認め
ました。
中国外務省が「強烈な対抗措置をとる」と宣言し、日中間の
閣僚級の交流停止を発表しました。
9月20日。
河北省の軍事管理区域に侵入し、ビデオ撮影をした疑いで、
中国当局が、建設会社フジタと現地法人の、日本人社員4人
を拘束しました。
9月21日。
温家宝首相が、ニューヨークでの在留中国人との会合で、
「釣魚島(尖閣諸島)は中国の神聖な領土だ」と強調。船長の
無条件即時釈放を要求し、日本が応じない場合の新たな対抗措置
を予告しました。
中国外務省の副報道局長が定例会で、中国から日本への観光
旅行者を、当局の指示で制限する可能性を示唆しました。
日本の人気グループ「SMAP」の、上海公演が延期になりました。
9月22日。
仙谷由人 官房長官が、日中双方のハイレベル協議を呼びかけ
ました。しかし中国は、首脳級による対話を拒否する考えを、強く
示しました。
アメリカのニューヨークタイムス紙が、中国政府がこのほど、ハイ
テク製品の製造に不可欠な「レアアース(希土類)」の日本向け
輸出を全面禁止したと報道しました。
9月23日。
中国国家旅行局は、この日までに、中国国内の各市や省の観光
担当部門を通じて、日本旅行の販売と、新聞やインターネットでの
広告を控えるように指示しました。
アメリカのクリントン国務長官が、「尖閣諸島は日米安全保障
条約の適用対象に当たる」と、明言しました。
9月24日。
那覇地方検察が、中国人船長を処分保留のまま釈放すると
発表しました。
9月25日。
中国人船長が帰国しました。
中国外務省は、「中国の領土と主権、中国国民に対する重大
な侵犯行為」と強烈に批判し、日本に謝罪と賠償を求める声明
を発表しました。
日本政府は、外務省報道官談話を発表して、中国政府が求めて
きた謝罪と賠償を拒否しました。
中国外務省の副報道局長は、「中国側は当然、日本側に謝罪と
賠償を求める権利がある」とする談話を、あらためて発表しました。
北京の日本大使館の領事が、拘束されていたフジタの日本人社員
4人と面会し、中国側に対して「人道的な取り扱いと法律に基づいた
適切な手続きを確保してほしい」と要請しました。
中国の商務省は、レアアースの日本向け輸出手続きが滞っている
問題で、「対日輸出を止めるという指示は出していない」と、日本側
に通知しました。
9月26日。
菅直人 首相が、「尖閣諸島は日本固有の領土だ。応じる
つもりは全くない。」と明言し、中国側が求めている謝罪と賠償
を拒否する姿勢を鮮明にしました。
9月27日。
仙谷由人 官房長官が、中国漁船衝突事件で損傷をうけた海上
保安庁の巡視船2隻について、中国側に修理代を要求する考え
を示しました。
中国の漁業監視船が、尖閣諸島の近くを航行していることが明らか
になりました。日本の外務省は、中国側に対して、航行を中止する
ように申し入れをしました。
中国の漁業当局関係者が、尖閣諸島付近の海域において、漁業
監視船による自国漁船の保護とパトロールを、「常態化させる方針」
であることを明らかにしました。
9月28日。
中国外務省の副報道局長が定例会見で、「中国は日中関係を重視
している」と強調した上で、「関係発展には双方による共同の努力と
日本側の誠実で実務的な行動が必要」と述べました。
これに対して前原誠司 外相は、日本テレビの番組で「日本は具体的
行動をとるべき義務は全く負っていない。賠償や謝罪は全く受け入れら
れない」と述べて、反発しました。
アメリカのグレグソン国防次官補は、東京都内のアメリカ大使館で
記者団と懇談し、「完全に日本の立場を支持する。これ以上の新たな
対応は必要ない」との認識を表明しました。
その上で、領有権問題については、「アメリカ政府はどちら側にも
くみしない」と指摘しました。
9月29日。
中国当局が通関手続きを滞らすのを止め、日本に向けてのレア
アースの輸出が再開されました。
9月30日。
中国当局が拘束していた、日本人社員4人のうち、3人が釈放
されました。
* * * * *
以上の動きをみると、日本側が、中国人船長を釈放した9月25日
以降から、中国の態度が軟化してきたように思えます。
この事件については、尖閣諸島が日本固有の領土であるとか、
軍事的な安全保障の問題など、いろいろな観点からの議論がある
ことでしょう。
しかしここでは、地球温暖化問題の観点から、私の思ったことを
話したいと思います。
まず第一に、
中国の二酸化炭素排出量が、2007年には60億トンになり、
アメリカの58億トンを抜いて、世界1位となりました。
その後、中国の排出量は、
2008年には68億トン、2009年では74億トンになり、
2007年からの2年間で、14億トンも増加しています。
ちなみに、
2007年における、日本の二酸化炭素排出量は、12億トンです。
つまり、日本全体の排出量よりも、中国がたった2年間で増加させた
量の方が、多くなっています。
べつの言い方をすると、
たとえ日本の二酸化炭素排出量が、完全にゼロにできた(100%の
削減に成功できた)としても、中国の2年間の増加量だけで、その効果
がチャラになるわけです。
このように、
中国の二酸化炭素排出量は、「破滅的な増加」を続けています!
しかし、エッセイ419で考察しましたように、
中国における「単位GDPあたり」の二酸化炭素排出量を、日本と同じ
レベルまで下げて行けば、
中国は、二酸化炭素の排出をまったく増加させることなく、現在
の5倍(つまり500%)の経済規模まで、成長することができます。
日本の省エネ技術を、どんどん中国に普及させて行けば、そのような
ことが実現可能であり、
地球温暖化問題にたいして、日本が世界に向かって多大な貢献が
できる、ものすごく有力な方法ではないでしょうか。
もしも、これが実現できれば、
世界全体における、温室効果ガスの排出抑制にたいしては、
日本の排出量を、完全にゼロにする(つまり100%削減する)
ことよりも、
さらにずっと大きな効果となるのは、絶対に間違いありません!
ところが・・・
このたび起こった、「中国当局による4人の日本人拘束」は、その
ような技術協力の流れにたいして、
ものすごく深刻なダメージを与えたのではないかと、私はとても
心配しています。
こんな事件(いま現在も残る1人が拘束中)が、とつぜんに起こる
ようでは、
日本人が安心して中国現地に赴き、技術協力をすることが、出来なく
なってしまうからです。
※10月9日に、拘束されていた残る1人も釈放されました。(10月10日
追記)
* * * * *
そして第二に、
日本における「食料自給率」の問題があります。
たとえばエッセイ413で考察しましたように、
もしも日本が、どこの国からも食料が輸入できなくなったら、
おそらく、5000万人くらいの日本人が「餓死」してしまうでしょう。
そんな状況の中、
日本は、中国からの食糧輸入にも、かなり頼っているのが
実情です!
そして一方、このたびの中国との摩擦では、
日本への観光旅行を抑制したり、レアアースの輸出を停止したりと、
日本にたいする圧力を、どんどんエスカレートさせてきました。
もしも日本側が、中国人船長の釈放をあくまでも拒んだならば、
その次は、「食料の輸出制限」も行いかねないような勢いに感じて、
なりませんでした。
ちゃんと道理が通るような、日中関係を築いていくためには、
やはり日本の食料自給率を、もっと高くして行かなければなら
ないと、
つよく感じた次第です。
ところで・・・
これから将来、さらに地球温暖化が進んでいくと、
干ばつ、豪雨、洪水などの、気候変動による災害が甚大になり、
食糧難や、環境難民の流出が、世界中で起こるようになるでしょう。
そして国際関係が、
どんどん緊迫して行くのは、もはや火を見るより明らかです。
このたびの日中の摩擦をとおして、私は実感したのですが・・・
国際社会における「良識ある相互理解」を、もっともっと深くして
行かなければ、
地球温暖化による災害そのものが、本当に深刻になるよりも前に、
紛争や戦争などが世界各地で多発すること(最悪の場合は核戦争
の勃発)によって、
人類社会がメチャクチャになるのではないかと、恐れるばかりです。
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