アメリカのていたらく
                            2010年3月7日 寺岡克哉


 アメリカは、温室効果ガスの排出量を、すぐにでも半分に削減
するべきです!


 アメリカは、中国と違って「先進国」であり、それくらいの技術力は、
すでに持っているはずです。

 アメリカの排出削減が、なかなか進まないのは、「やる気が無い」
からだと、私には思えてなりません。


               * * * * *


 まず、以下のデータを見てください。

 これは2006年における、1人あたりの二酸化炭素排出量です。


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           アメリカ 19.3トン
           日本    9.7トン
           中国    4.3トン

 (出典: EDMC/エネルギー・統計要覧 2009年版)
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 このデータを見れば、すぐに分かりますように、

 アメリカが、日本と同じていどの低炭素技術を導入し、

 アメリカ人が、日本人と同じようなライフスタイルにするだけで、

 二酸化炭素の排出を半分に減らすことなど、わけなく出来るはず
です。



 とくにアメリカは、中国とは異なり、最先端の科学技術をもった先進国
です。

 だから、前回のエッセイ419でお話したように、中国に日本の低炭素
技術を導入させるのに比べたら、

 アメリカが、温室効果ガスを半減することの方が、ずっと簡単でしょう。



 それなのにアメリカが、

 1人あたり1年間に、およそ20トンもの二酸化炭素を、今でもまだ
出し続けているというのは、

 あまりにも、ふざけ過ぎています。



 もしも仮に、中国が、

 「我々にも、1人あたり1年間に、20トンの二酸化炭素を排出する
権利がある!」

 などと主張し出したら、一体どうするつもりでしょう?



 たとえ中国が、そこまで言わなかったとしても、

 アメリカがこんなことでは、

 中国の大幅な排出増加に、十分すぎるほどの口実を与えてしまい
ますし、

 事実そうなっています。


               * * * * *


 そんな状況のなか・・・

 無視できない数のアメリカ人が、

 二酸化炭素を非常識なほど出しているという自覚がないばかりか、

 温室効果ガスの削減にたいして、足を引っぱる動きさえ見せて
います。



 たとえば、

 昨年の4月に、EPA(アメリカ環境保護局)という政府機関が、

 「温室効果ガスは、人の健康を危険にさらす汚染物質である!」

 という見解を発表し、

 「大気汚染法」という法律に基づいて、温室効果ガスの排出規制を
強化しようとしました。



 ところが!

 アメリカの、石油・石炭関連の企業や、その支援団体。そしてアラバマ、
テキサス、バージニアの3州が、

 「温室効果ガスは汚染物質である」という、EPA(アメリカ環境保護局)
の見解にたいして、

 「異議申し立て」を行い、裁判で争っているのです。



 それが影響したのか分かりませんが、

 今年の2月22日に、EPA(アメリカ環境保護局)は、

 温室効果ガスの排出規制強化を、2011年以降に先送りする方針
を表明しました。



 しかし・・・ それだけでは飽き足らず、

 3月2日に、アメリカ下院の共和党有力議員らが、

 温室効果ガスの排出規制を阻止するための、「決議案」を提示しま
した。

 その決議案の目的は、

 「温室効果ガスは危険であり、気候変動を抑制するために規制され
る必要がある」

 とする、EPA(アメリカ環境保護局)の方針を、転換させることです。



 また、アメリカ上院のロックフェラー議員は、

 EPA(アメリカ環境保護局)の、温室効果ガス排出削減の取り組みを、

 2年間も先延ばしするように求めています。


               * * * * *


 ところで、EPA(アメリカ環境保護局)が、

 「温室効果ガスは汚染物質である」という見解を表明し、

 すでに存在する法律、つまり「大気汚染法」によって、温室効果ガスの
排出を規制しようとしたのは、

 いまアメリカ議会で審議中の「温暖化対策法案」が、なかなか承認
されないからです。



 ここまで話した、

 石油・石炭関連の企業や、その支援団体、いくつかの州、そして有力
議員らの動きは、

 「温暖化対策法案」にたいする、議会での審議が難航しているなか、

 EPA(アメリカ環境保護局)が行おうとしている、

 二酸化炭素排出抑制への「実質的な動き」を、阻止し、遅らせる
ことが目的なのです!



              * * * * *


 また、その他の動きとして、

 2月16日に、アメリカで石油3位のコノコフィリップスや、建設機械
最大手のキャタピラーなど、アメリカの有力企業3社が、

 「USCAP(アメリカ気候行動パートナーシップ)」から、脱退すること
が分かりました。

 (※ USCAPとは、温暖化対策の推進を目指す企業団体です。)



 さらには、この冬、

 アメリカに「寒波」が到来し、ワシントンなどで大雪が降ったことに
乗じて、

 「温暖化はウソだ」という政治的なキャンペーンも、相当に盛り上がっ
ているようです。



 以上のように、アメリカでは現在、

 無視できない数の人々や勢力が、温暖化対策の足を引っ張って
いるのです。


              * * * * *


 ところで、上でお話した、

 石油・石炭関連の企業などが、裁判で争っている「異議申し立て」
に対して、

 アメリカの科学者たちで結成された、「憂慮する科学者同盟」が、

 「異議申し立ては、気候の科学にたいして不誠実で無知な
攻撃だ!」


 と述べて、批判しています。



 また、エッセイ415でお話したように、

 今年の1月21日に、NASA(アメリカ航空宇宙局)が発表したところ
によれば、

 2009年における世界の平均気温は、1880年以降で2番目の高さに
なっており、

 2000年〜2009年の10年間における平均気温は、他のどの10年間
の平均気温よりも高く、1880年以降で過去最高となっています。



 だから、

 世界的、長期的には、「温暖化傾向が続いている」のは絶対に間違い
なく、

 この冬に、アメリカに寒波が来たからといって、それだけで「温暖化は
ウソだ!」などと主張するのは、

 まったくもって非科学的であり、ナンセンスです。



 このようにアメリカは、

 科学者レベルでは、まっとうで精力的な研究活動を行っているのですが、

 社会的なレベル、政治的なレベルでは、

 科学的に無知であったり、非科学的だという印象が、どうしても拭いきれ
ません。



 私は、

 「アメリカは科学的な合理性を重んじる国」だと、ずっと長らく思っていた
のですが、

 どうやら最近は、ずいぶんと「非科学的な国」に、なってしまったようです。



 そして、このことが正に、

 アメリカが「最先端の科学技術」を持ちながらも、

 なかなか温室効果ガスの削減が進まない、根本的な理由なのだと思い
ます。



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