日本の中期目標 6
2009年5月10日 寺岡克哉
今回は、
いま政府が行っている、地球温暖化対策の中期目標に対する意見の
募集(パブリックコメント)に向けて、
私の投書した意見を、ご紹介したいと思います。
* * * * *
まず、政府が募集している意見の内容は、およそ以下のようになって
います。
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(1)我が国の温室効果ガスの中期目標(2020年)は、どの程度の排出量
とすべきか
・以下の6つの選択肢から選ぶか、独自にふさわしいと考える排出量
(■■年比●●%)を挙げてください。また、その理由も述べてください。
@2005年比−4%、1990年比+4%
A2005年比−6〜−12%、1990年比+1〜−5%
B2005年比−14%、1990年比−7%
C2005年比−13〜−23%、1990年比−8〜−17%
D2005年比−21%、1990年比−15%
E2005年比−30%、1990年比−25%
(2)その中期目標の実現に向けて、どのような対策を実施すべきか
・ 規制的措置(エネルギー効率改善規制、機器等の導入義務付けなど)、
経済的助成措置(補助金、減税等)、経済的負担措置(炭素税、排出量
取引等)など様々な種類の政策を、どのように組み合わせて実施すべき
か。
・ 政策の実施に伴うコスト(規制に伴う国民や企業への負担、経済的
助成に伴う財政負担など)について、どのように考えるか。
(3)その他、2020年頃に向けた我が国の地球温暖化対策に関する意見
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これに対して、私の投書した意見は、次のようにしました。
(1)我が国の温室効果ガスの中期目標は、どの程度の排出量とすべき
か。また、その理由も示せ。
1990年比 −25% の排出量にするべきだと考えます。
その理由
今年の3月にコペンハーゲンで開かれた「気候変動に関する国際科学
会議」において、グリーンランド氷床と南極氷床における最新のアセスメント
結果から、温室効果ガスをどんなに厳しく削減しても2100年までに最低1
メートルの海面上昇が避けられず、削減がうまく行かなければ約2メートル
になる可能性さえ指摘されました。この「最新の科学的な知見」からすれば、
可能なかぎり最大限の温室効果ガス削減をしなければならないのは明白
です。
また、地球温暖化による深刻な被害を回避するため、つまり世界の平均
気温上昇を産業革命前にくらべて2℃以下に抑えるためには、2020年に
おける先進国の排出量を、1990年比で25〜40%削減する必要があると、
IPCCによって科学的に分析されています。25%削減は、その最低条件を
満たすものです。
ところで、日本の削減量が25%より小さくても、先進国全体の削減量が
25%になるという分析結果もあります。が、しかし、それで国際社会が納得
するかどうか非常に疑問です。やはり日本は、最低でも、1990年比で25%
の削減は確保するべきと考えます。
(2)その中期目標の実現に向けて、どのような政策を実施すべきか
CCS(二酸化炭素の分離・回収・地中貯留)の義務付け。
パブリックコメントの募集要項に添付された資料を見ますと、1990年比
25%削減の場合、限界削減費用が二酸化炭素1トンあたり82000円と
なっています。
一方、地球環境産業技術研究機構(RITE)のパンフレットを見ますと、
CCSのコストは二酸化炭素1トンあたり7000〜15000円となっています。
それならば、電力、製鉄、セメントなどの二酸化炭素大口排出産業に
対して、CCSを法的に義務付けた方が、削減コストがずっと安くて済み
ます。
(3)その他、2020年に向けた我が国の地球温暖化対策に関する意見
(T)太陽光発電の事業化
新規の企業参入による、太陽光発電の電気事業を認めるべきです。
それによって、100ヘクタール規模の「メガソーラーワット発電所」を、
日本全国にどんどん誘致して行くべきです。
(U)新しい産業の育成
上の(T)とも関係しますが、環境負荷を低減させる産業。とくに「新エネ
ルギー産業」を、大々的に育成するべきです。これを第一の目的として、
積極的にやろうとしないから、温室効果ガス削減による経済損失ばかりが、
クローズアップされてしまうのです。
化石燃料に依存した産業構造を変えようとせずに、二酸化炭素を大幅に
削減しようとすれば、経済が「ジリ貧」になって行くのも当然です。経済成長
と、二酸化炭素の大幅削減を両立させる方法は、原理的に「新エネルギー
の普及」しかありません。
(V)海面上昇への適応策
最初で申し上げたように、最新の科学的な知見によれば、2100年まで
に最低1メートルの海面上昇が避けられず、下手をすれば2メートルになる
可能性さえ指摘されています。
もはや、日本全国の堤防の強化、あるいは沿岸都市の内陸部への移転
などが、現実問題となってきました。このような対策は、数年〜10年ていど
の時間スケールでは出来ないので、「国家100年の計」を見越して、今から
準備を考えて行くべきです。
* * * * *
以上が、私の投書した意見です。
しかし、一般向けの文章ではないので、分かりにくい所があるかも
知れませんね。
なので、若干の補足説明をしたいと思います。
(1)に関して
海面上昇に関する「最新の科学的な知見」と、
先進国が2020年までに、1990年比で25〜40%削減しなければ
ならないことについては、
前回のエッセイ376にまとめてありますので、それもご覧になって
ください。
* * * * *
(2)に関して
「限界削減費用」というのは、大ざっぱに言うと、「二酸化炭素を1トン
削減するのに必要なコスト」のことです。
温室効果ガスを1990年比で25%削減する場合、限界削減費用が
82000円などという、ものすごく法外な値段がつけられています。
これは、日本では省エネがすごく進んでいるので、もはや値段の高い
削減対策しか残っていないからだと、一般的に言われています。
が、しかし本当は、日本では土地代や人件費などが高いことも、影響
しているようです。
ところで、詳しい資料をみると、
家庭用の「太陽光発電」を導入した場合、二酸化炭素1トンあたりの
削減費用が70000円となっています。
しかし太陽光発電は、あとで「元が取れる」ので、本当は削減費用が
ゼロのはずです。
さらに元を取った後は、削減費用がマイナスにさえなるでしょう。
それなのに、70000円もの値段を計上している所をみると、
「限界削減費用の見積もり方そのもの」に、とても大きな疑問を
持たざるを得ません!
一方、
CCS(二酸化炭素の分離・回収・地中貯留)の最新状況については、
エッセイ332「環境総合展2008」の、”二酸化炭素の地中貯留”の
ところでレポートしています。
詳しくは、そちらをご覧になってください。
CCSによる削減コストは、二酸化炭素1トンあたり7000〜15000円
であり、
25%削減における限界削減費用の82000円よりも、ずいぶん安く
なっています。
また、
「地中貯留にたいする安全性」も、実証研究によって、かなりよく確認
されています(エッセイ332参照)。
CCSを「法的に義務付けなければならない」のは、現状ではCCSより
も、「排出量買取」の方が安いからです。
なので法的に縛らなければ、産業界は絶対にCCSをやろうとしないで
しょう。
その結果として、電力、製鉄、セメントなどの大口排出産業は、いつまで
も大量の二酸化炭素を出しつづけることになります。
ところで・・・
環境への影響や、安全性などに対する心配から、CCSの大々的な導入
には賛成しかねる人もいるでしょう。
しかし、そうであっても、
2100年までに、最低1メートルの海面上昇が避けられず、
下手をすれば、およそ2メートルの上昇になるかもしれない
ことを考えれば、もはや、
「背に腹は代えられない状況」になっていると、私は思います。
* * * * *
(3)の(T)に関して
現在のところ、新たな企業の参入による、太陽光発電の電気事業
(つまり、電力会社のように電気を売るビジネス)が、認められていま
せん。
これでは、いくら太陽光発電のコストが安くなっても、大規模太陽光
発電(メガソーラーワット)の爆発的な波及が起こらないでしょう。
これも、非常に不可解であり、すごく異常なところです。
中期目標に関する議論を見渡して、私の感じることですが・・・
CCS(二酸化炭素の分離・回収・地中貯留)を、本気になってやろう
としない。(二酸化炭素の大口排出産業にたいして、CCSを法的に
義務付けない。)
新規の企業参入による、大規模太陽光発電(メガソーラーワット)
の事業を認めない。
ただひたすら、高価な最新の省エネ機器を、庶民に買わせる。
というのでは、「何となく歪(いびつ)な対策」になってしまうのも、
当然ではないでしょうか。
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