では、どうすれば良いのか? 7
                                2009年2月22日 寺岡克哉


 以前のエッセイ361で考察しましたが、

 日本で使っている化石燃料のすべて、

 つまり、

 石油、石炭、天然ガスから得ているエネルギーのすべてを、

 太陽電池で賄(まかな)うとすれば、

 43900平方キロメートルの面積が必要になります。



 それは、

 日本の国土(378000平方キロメートル)の、11.6%にもなり、

 かなり大きな面積であるのは違いありません。

 しかしエッセイ362で考察しましたように、これくらいの面積なら、

 「やる気」になれば、太陽電池を設置することは可能でしょう。



 しかしながら、

 せまい国土を、太陽電池に使うのはちょっと・・・ 

 と、感じる人もいるかも知れませんね。



 ところが一方、じつは日本は、

 国土がせまいけれど、その10倍以上もの「領海」を持っており、

 その面積は、なんと4479358平方キロメートルにもなります。



 だから、

 もしも、海上に太陽電池を設置することができれば、

 それだけ、せまい国土を使わないで済むようになるでしょう。



 今回は、そのような「海上太陽光発電」について、考えてみたい
と思います


               * * * * *


 まず、

 海上に太陽電池を設置するためには、

 「海に浮かぶ島」を人工的につくることが、考えられるでしょう。

 そのような人工の浮島を、「メガフロート」と呼んでいます。



 この「メガフロート」は、国土のせまい日本にとって、おそらく魅力的な
構想なのでしょう。

 それは、まったくの夢物語などではなく、

 まずは海上空港への応用を考えて、1995年ごろから、実際に研究開発
が進められて来ました。

 そして2000年には、長さ1000メートル、幅120メートルの、メガフロート
(浮島)が実際につくられ、

 YS11という飛行機をつかって、離陸や着陸の試験が行われています。



 このような実証テストによって、

 4000メートル級のメガフロートをつくり、空港に利用することは、

 いまの技術で「実現可能である!」という、結論が得られています。

 だから、4000メートル四方くらいの浮島をつくることは、

 「やる気になれば出来る!」と言ってよいでしょう。



 ちなみに、

 そのようなメガフロートは、「造船技術」によって作られます。

 まずはじめに、長さ300メートル、幅60メートルくらいの小さな
ユニットを、造船所で必要な数だけつくります。

 (小さなユニットと言っても、それは造船所で作ることができる、
最大級の大きさです。)


 そして次に、それらのユニットを、船で引っぱって沖へ運んでいき、
海上でつなぎ合わせることによって、大きな面積にするのです。


 このようにして作られる、メガフロートの耐用年数は、およそ100年
ていどだと言われています。


                * * * * *


 さて、

 そのような人工の浮島、つまりメガフロートによる、海上太陽光発電
については、

 いくつかの研究機関によって、実際に研究開発が進められてい
ます。



 たとえばスイスの、

 CSEM(Centre Suisse d’Electronique et de Microtechnique)
という民間研究所では、

 直径5000メートルの、円形のメガフロートを、

 つよい日差しが期待できる場所(アラブ首長国連邦)に、

 建設する計画を進めています。



 これは太陽熱を利用するもので、じつは太陽光発電とすこし違うの
ですが、

 しかしながら、2010年代の実用化を目指して、

 そのような直径5000メートルもの浮島をつくる計画が、

 実際に進められているのです。


                * * * * *


 また日本でも、

 経済産業省、環境省、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)
が中心となって、

 風力発電、
 太陽光発電、
 海水を、淡水化する施設、
 水を電気分解して、「水素」を製造する施設

 などを、メガフロート(浮島)の上に、建設する計画が検討されています。



 このような海上の沖で行われる、太陽光発電や風力発電は、

 陸まで電線を引くのではなく、

 海水を電気分解して、まず「水素」をつくり、

 その水素を、船で陸に運んでから、燃料電池などで発電するという

 方法が、取られるようになるでしょう。



 そうすれば、

 曇りの日や、風の弱い日などの、「天候による発電量の不安定さ」や、

 「太陽電池は、夜に発電することが出来ない!」という弱点などを、

 克服することが出来るからです。



 また、海上の沖に、水素の貯蔵施設があるため、

 地震や津波などの、「自然災害による影響」が小さく、

 もしも万が一、

 事故や災害が発生したとしても、周辺への被害が少なくて済みます。


               * * * * *


 ところで、

 九州大学のチームも、メガフロートをつかった海上発電の、

 さらに具体的な研究開発を、おこなっています。



 こちらは、

 風車を載せた、あるていど大きな、少数の浮島と、

 太陽電池を載せた、たくさんの小さな浮島を、

 つなぎ合わせた構造になっています。



 それら全体の大きさは、長さ2000メートル、幅800メートルほどで、

 太陽光と風力を合わせた、システム全体の発電能力は30万kw。

 1kwあたりの建設コストは7万〜14万円で、

 一般的な原子力発電所の、1kwあたり20万円より安くなっています。



 このような低コストが実現できたのは、

 「炭素繊維強化プラスチック製コンクリート」という、新素材の開発に
成功し、

 それを、浮島(メガフロート)の材料として、使えるようになったから
です。

 この、新開発されたコンクリートは、

 強度が高く、さびにくく、耐用年数が100年以上もあるため、

 コストが大幅に削減できるようになったそうです。


                  * * * * *


 以上から、

 (風力も含めて)海上太陽光発電は、まったくの夢物語などでは
なく、

 「やる気になれば出来る!」ことが、分かって頂けたのではないか
と思います。


 これは例えば、宇宙太陽光発電などに比べても、ずっと実現可能で
あるのは、言うまでもありません。



      目次へ        トップページへ