北海道洞爺湖サミット 2008年7月13日 寺岡克哉
7月7日〜7月9日にわたって、北海道洞爺湖サミットが開かれました。
また今回も、割り込みの話になってしまいますが、ここでは洞爺湖サミットに
ついて私の感じたことを、お話したいと思います。
サミットの会場は洞爺湖町(とうやこちょう)にありますが、私の住んでいる
札幌でも、見回りのための警察官がいつもより多くいて、ちょっと物々しい
雰囲気になっていました。
また、私がよく散歩へ行く「天神山」というところに、札幌市が保有する外国
人のための宿泊施設があるのですが、そこが「NGOの市民メディアセンター」
になっていました。
それって何かと思っていたら、海外からの「市民記者」や「フリージャーナリ
スト」たちが、情報発信をするための基地みたいです。
メディアセンターに使われた施設は、「天神山国際ハウス」と言うのですが、
札幌市の財政事情のためか、じつは今年の4月から閉鎖されていました。
しかしこの期間中は、久しぶりに館内が開け放たれ、室内に電灯がついて
いました。
私の日常生活において感じた変化は、そのようなことでした。
* * * * *
さて、今回のサミットのテーマは、石油や食料の高騰、アフリカへの支援、
北朝鮮の問題など、さまざまな分野に広がっています。
しかし、このサイトのテーマ上、とくに地球温暖化対策に的をしぼって、見て
行きたいと思います。
ところで・・・
昨年に、ドイツのハイリゲンダムで行われたサミットでは、
「2050年までに、地球規模での温室効果ガスの排出を、少なくても半減
させることを真剣に検討する」ということが、合意されていました。
そして今年の洞爺湖サミットでは、それがどこまで進展するのか焦点に
なっていたのです。
そんな状況の中、今回のサミットで主要8ヶ国が合意した文書は、つぎの
ようになっています。
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2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%の削減を達成するとの
目標を、気候変動枠組み条約の全締約国と共有、条約下の交渉で共に検討
し、採択することを求める。 (7月8日 共同通信)
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上の文書を見るかぎり、「真剣に検討する」から「採択することを求める」に
なったのが、進展といえば進展なのでしょう。
しかし「採択を求めるだけ」で、まだ実際には何も採択されていないので、
「実質的な進展がほとんど無かった」というのが、私の正直な感想です。
つまり、「現実に効力を及ぼす取り決め」が、なにも為(な)されなかったの
です。
さらには以下のように、中国やインドなどの新興国が、「まず先進国から温室
効果ガスの排出を削減するべきだ!」という態度を崩していません。
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中国、インド、メキシコ、ブラジル、南アフリカの新興5ヶ国首脳は8日、札幌
市内で会談し、先進国が温室効果ガスを2020年までに1990年比25−40%、
2050年までに同80−95%削減するよう求める政治宣言を採択した。
(北海道新聞 7月9日付朝刊)
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このため、主要経済国会合(主要8ヶ国に、中国やインドなどの新興国を
加えた計16ヶ国による会合)における首脳宣言では、「2050年までに
50%削減」という数値目標を入れることが出来ませんでした。
なのでこの先、気候変動枠組み条約の全締約国で、この数値目標が採択
されるかどうかは、すごく不透明だと言わざるを得ません。
* * * * *
このように見て来ますと、中国やインドなどの新興国が、地球温暖化対策
の足を引っ張っているように思えてなりませんね。
しかし彼ら新興国が、私たち先進国にたいして、つよい態度を崩さないの
には理由があります。
まず第一に、大気中の二酸化炭素が産業革命前の280ppmから、現在の
380ppmを越えるまでに増えた原因の、そのほとんどは先進国にあります。
だから、
「俺たちは、まだ何もしていないのに、なんで俺たちも削減しなければならな
いのだ!」
「現在の状況を作り出したのは、お前たち先進国の責任だ!」
「なので、まず先進国が、二酸化炭素の排出を大幅に削減するべきだ!」
という思いが、新興国側にはあるのでしょう。
そして第二に、下の表は、2004年における「一人当たり」の二酸化炭素
排出量ですが、それをちょっと見てください。
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アメリカ 20.0トン (二酸化炭素換算)
ロシア 11.1トン
ドイツ 10.3トン
日本 10.0トン
イギリス 9.7トン
中国 3.7トン
インド 1.1トン
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この表を見ると、新興国側の言い分として、
「俺たちに、二酸化炭素の排出を増やすなと言うのならば、まずお前たち
が、俺たちと同じレベルまで二酸化炭素を削減せよ!」
「俺たちは、お前たちのような贅沢三昧は、決してしていないのだ!」
と、先進国にたいして主張するのも、尤(もっと)もなことでしょう。
新興国が、つよい態度を崩そうとしないのは、以上のような理由によるもの
と思われます。
* * * * *
ところで、近年になってよく耳にする、2050年までに50%の削減という
数値目標・・・
じつは、世界の温室効果ガス排出を半分にするというのは、とても凄(すさ)
まじい話です。
世界の経済規模を半分に縮小するか、
世界の人口を半分に減らすか、
産業や生活で使うエネルギーの効率を2倍にするか、
二酸化炭素を出さない「新エネルギー」を、大々的に導入するか。
ちょっと単純に考えただけでも、今までの人類の在り方を、ものすごく変化
させなければなりません。
なぜ、そこまでして、2050年までに半減しなければならないのでしょう?
その理由が、万人に(実感できるレベルで)理解されなければ、世界的な
合意を得ることは難しいでしょう。
2050年までに、世界における温室効果ガスの排出を半分にしなければ
ならないのは、それだけ地球温暖化の影響が深刻だからです。
そして私も、そのことを一人でも多くの方に理解してもらいたいと思い、エッ
セイのあちらこちらで、地球温暖化の深刻さを訴えています。
まず、エッセイ252で書きましたが、
「国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)」における究極の目標は、第2条
によると、「気候システムに対して危険な人為的干渉を及ぼさないよう、大気
中の温室効果ガスの濃度を安定化(一定)すること」となっています。
その、安定化させなければならない具体的な数値は、世界のどの研究を
見ても、450ppmから550ppm程度になっています。
そして、このようなレベルで濃度を安定化させるためには、2050年における
世界の温室効果ガス排出量を、1990年にくらべて50%以下に削減する必要
があるのです。
また、エッセイ271で書いてますが、
2050年までに温室効果ガスの排出を半減しなければ、おそらくグリーン
ランド氷床の融解が止まらなくなるでしょう。もしもそうなったら、最終的
には5〜7メートルの海面上昇が避けられません。
さらに、エッセイ303で書いてますが、
2050年までに二酸化炭素の排出を半減しなければ、海水の酸性化によっ
て、とくに高緯度の冷たい海域では、生態系が壊滅してしまうでしょう。
しかしながら、2050年までに温室効果ガスの排出が半減できたとしても、
産業革命前にくらべて、2℃ぐらいの気温上昇は避けられないでしょう。
それはちょうど、縄文時代における温暖期と同じぐらいの気温ですが、その
ときの海面は、現在よりも2〜3メートルほど高くなっていました。
なので、温室効果ガスの半減に成功しても、それぐらいの海面上昇は覚悟
しなければならないでしょう。
また、IPCCの第4次報告(第二作業部会)の近未来予測によると、
アフリカでは2020年までに、7500万人〜2億5000万人の人々が、気候
変動に伴って増加する水ストレス(たぶん水不足)に曝(さら)されるとなってい
ます。
さらには、アフリカのいくつかの国において、降雨依存型農業からの収穫量
が、2020年までに50%ていど減少し得るとなっています。
もしも、そんなことになったら、とても数多くの餓死者や難民が出てしまうのは
必定です。
* * * * *
以上のことを考えると、温室効果ガスの削減は、もはや一刻の猶予もありま
せん。
しかしながら・・・
6月25日の米エネルギー省の発表によると、現行の温暖化対策を続ける
ことを前提にしても、中国をはじめとする新興国の高度成長がつづき、2030
年には2005年比で世界の二酸化炭素排出が51%増加する(1.51倍
になる)としています。
また、6月25日に北海道大学で行われたシンポジウムの講演によると、
世界の人口が2050年には92億人にふえ、対策を取らなければ温室
効果ガスの排出がいまの3倍になる(200%増加する)としています。
もしもそうなったら、目も当てられません。
温室効果ガスの削減にたいして、世界的な合意をすることが、早急に必要
です。
それはもう本当に、絶対に必要です。
早くそうなるように、願ってやみません。
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