海の生物への影響 3 2007年12月9日 寺岡克哉
前回は、地球温暖化による、以下のような海の環境変化、
(1)海水温の上昇
(2)海氷の縮小
(3)海面の上昇
(4)海洋の大循環の弱まり
(5)海水の酸性化
(6)豪雨の増加
(7)砂漠化
(8)風の変化
(9)日射量の変化
のうち、(3)と(4)が生物に与える影響についてお話しました。
今回はその続きです。
* * * * *
(5)海水の酸性化
大気中の二酸化炭素が、海の水に溶けると、海水が「酸性化」します。
そうすると、サンゴや貝などは「炭酸カルシウム」を作れなくなり、生きる
ことが出来なくなります。というのは、「サンゴの骨格」や「貝殻」は、炭酸
カルシウムで出来ているからです。
ところで・・・
「酸性」とか「アルカリ性」とかの度合いを表すのに、pH(ペーハー)という
数値を使います。
pH=7がちょうど中性で、pHが7より小さければ酸性、pHが7より大き
ければアルカリ性です。
ふつう「海水」は、pHが8をちょっと超えるぐらいの、「弱アルカリ性」になっ
ています。たとえば産業革命前、つまり大気中の二酸化炭素が280ppm
だったころは、海水の平均的なpHは8.17ぐらいでした。
ところが、大気の二酸化炭素が380ppmになった現在では、海水
の平均的なpHが、すでに8.06ぐらいにまで下がっているのです!
ところで一方・・・
たとえば、水深300メートルよりも浅いところの海水には、ふつうに溶ける
量よりも多くの炭酸カルシウムが、「過剰」に溶けています。
それを、「過飽和の状態」と言います。
ふつうに溶ける量の限界、つまり「飽和の状態」よりも、さらに多くの炭酸
カルシウムが溶けているなんて、とても不思議です。
しかし化学の研究によると、そのような状態も、微妙な条件のもとに、実際
に起こりえるのです。
海は、そのような「過飽和の状態」になっているので、ちょっとしたキッカケ
さえあれば、簡単に炭酸カルシウムを海水から取りだすことが出来ます。
海水には、そのような性質があるので、多くの生きものが炭酸カルシウム
を利用しているわけです。
たとえばサンゴや貝もそうですが、炭酸カルシウムの殻をもつプランクトン
がいたり、あるいはカニの仲間には、炭酸カルシウムの粒で殻を強化して
いる者もいます。
また、イカは「平衡石」、魚は「耳石」という、からだの平衡バランスを保つ
ための器官に、炭酸カルシウムを利用しています。
このように、多くの海の生き物が、炭酸カルシウムを利用しているの
です。
ところが・・・
海水のpHが下がる(酸性化する)と、海水の「炭酸カルシウムを溶かす
能力」が大きくなります。つまり、海水の「過飽和の度合い」が下がるわけ
です。
この「過飽和の度合い」を表すのに、「過飽和度」という値を使います。
この値によると、
過飽和度が1のとき、「飽和」の状態。
過飽和度が1より大きいとき、「過飽和」の状態。
そして過飽和度が1より小さいときは、まだ飽和していない、「未飽和」の
状態です。
現在の海水は、過飽和度が2〜6の状態にあります。
しかしこれは、飽和するときの炭酸カルシウム量の、2倍〜6倍の量が
海水に溶けている訳ではありません。
「過飽和度」は、難しい理論によって求められる値なのです。しかし、
過飽和度が大きければ大きいほど、海水から炭酸カルシウムを取り出し
やすくなります。
しかし過飽和度が1より小さくなると、逆に、炭酸カルシウムが海水に
溶け出すようになります。
そうなったら、もはや生物の力では、海水から炭酸カルシウムを取り
出すことができません!
事実、太平洋では水深300メートルより深いところ。また、大西洋で水深
2500メートルより深いところでは、過飽和度が1より小さくなっています。
そのような環境では、貝などは生きることが出来ないのです。
大気の二酸化炭素が海水に溶け、pHが下がる(酸性化する)と、上で
話した「炭酸カルシウムの過飽和度」が小さくなるわけです。
ところで同じpHでも、海水の温度が変われば、「過飽和度」も違ってき
ます。
たとえば、海水のpHが7.84まで下がると、水温が2℃のとき過飽
和度が1、水温が25℃のとき過飽和度が2.5ぐらいです。
つまり炭酸カルシウムは、温度の高い方が溶けにくい(海水から取り
出しやすい)のです。
だから冷たい海域ほど、酸性化の問題が深刻です!
そして、海水のpHが7.84まで下がるのは、大気の二酸化炭素が
640ppmになったときです。
もしもそうなったら、高緯度の冷たい海域では、「生態系の壊滅」が
間違いなく起こるでしょう!
また、サンゴの棲む暖かい海域では、pHが7.84まで下がっても、
過飽和度は2.5ぐらいあります。
しかし、サンゴの育成に適した過飽和度は3.5以上であり、過飽和度が
3.0以下になると、サンゴの成長は著しく悪くなります。
ドイツの科学者評議会は、これまでに得られている、いろいろな生物影響
データを分析し、総合的な判断をしました。
そして、海の生態系に決定的な影響が現れるのは、産業革命前にくらべ
てpHが0.2低下した時(pH7.97)だという声明を出したのです。
それを避けるためには、海水のpHを8.00よりも大きな値に保つ必要が
あり、さらにそのためには、大気の二酸化炭素を450ppm以下に抑える
べきだと主張しています。
しかしそれでも、北極や南極の近くの冷たい海では、炭酸カルシウムの
過飽和度が下がりやすいので、生態系への影響が避けられないそうです。
今回、調べてみて初めて知ったのですが・・・
「海水の酸性化は、とても大きな脅威だ!」ということが理解でき、私
自身すごく驚いています。
* * * * *
申し訳ありませんが、この続きは次回でお話したいと思います。
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