地球温暖化の深刻さ 2006年12月17日 寺岡克哉
「温暖化問題」と「人の心」に関連して、まずはじめに取り上げるべきいちばん重要
なことは、「深刻さの認識について」だと私は考えています。
なぜなら、「深刻さ」というのは「心で実感するもの」だからです。
そして、深刻さを心で実感できなければ、実際の行動に結びつかないからです。
もちろん、地球温暖化の深刻な状況を「頭で理解する」というのが、まず最初にやら
なければならないことです。なぜなら、まず頭で温暖化の状況が理解できなければ、
「深刻さ」など感じられる訳がないからです。
しかし、深刻さを「本当に納得する」というのは、その深刻さを「心の底から実感する
こと」なのです。
この「心による実感」というのが無ければ、いくら地球温暖化のことを詳しく知ってい
ても、それは単なる知識や情報にすぎず、実際の行動に結びつくような「生きた認識」
にはならないでしょう。
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このままだと本当に、地球温暖化はどうなってしまうのでしょう?
いまの私の気持ち(私の感じている深刻さ)を率直に申し上げると、
全面核戦争よりはましかも知れないけれど、第二次世界大戦など、はるかに
超える被害が出るのは確実!
だということです。
もしも、このまま何も手を打つことが出来ず、大気中の二酸化炭素濃度が1000
PPMから2000PPMぐらいまで上昇してしまったら、必ずそうなるでしょう。それに
ついては、多くの専門家も異論はないと思います。
そしてエッセイ218で行った私の計算では、200年後から300年後に、それぐら
いの二酸化炭素濃度になります。が、しかし実際は、もっと早まるかも知れません。
(しかしそれは、本当にこのまま何も手を打たなかった場合の話です。)
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ところで、第二次世界大戦、とくに日本の場合において太平洋戦争は、なぜ事前
に止めることが出来なかったのでしょう?
今の私たちから見たら、とても不思議でなりません。なぜ、あんな悲惨な戦争を
やってしまったのか・・・ と。
歴史学者は、軍部の横暴や、当時の政治や経済の状況や、国民感情や世界
情勢など、いろいろな説明をするでしょう。
しかしその根本的な原因は、「事前に戦争の悲惨さを認識することが出来な
かったから」だと、私は思っています。
東京の大空襲や、広島や長崎の原爆投下など、それらの大惨事が前もって
分かっていたら、太平洋戦争など絶対にやらなかったでしょう。
地球温暖化の問題も、それと似ているように私には思えます。
このまま温暖化が進んだら、一体どれぐらいの大惨事になるのか、多くの人々が
まだ「実感として」認識できないのです。
その証拠に、もしもそれほどの認識があるのなら、今の人間に可能であれば
第二次世界大戦を止めようとするのと同じぐらいの気構えを持って、温暖化問題に
立ち向かっているはずなのです。
そしてまた、戦争は、やめようと思えば直ぐにやめられるものです。
なぜなら戦争は、自然現象の関与する部分がなく、100パーセント人間が行って
いる行為にすぎないからです。
しかし地球温暖化は、「やめてくれ!」と言っても、そう簡単には止まりません。
いちど温暖化を進めてしまったら、その後人類が二酸化炭素を一切出さなかった
としても、もとの状態にもどるのに何千年も何万年も、へたをすると何百万年も何千
万年もかかってしまうでしょう。
そのような意味でも、地球温暖化を取り返しのつかないほど進めてしまうことは、
第二次世界大戦などはるかに超える大問題なのです。
* * * * *
もしも、このまま二酸化炭素が増え続けると(つまり、年率0.5パーセントの
割合で二酸化炭素が増え続けると)どうなるのか、もう少し考えてみましょう。
まず、大気中の二酸化炭素濃度が2000PPMを超えると、壊滅的な被害にな
るでしょう。
エッセイ217でお話した、PTの大量絶滅からの類推をすると、地球の生物の90
パーセント以上が死滅してしまうでしょう。
もちろん、人類も例外ではありません。とにかく絶滅は免れたとしても、おなじ割合
で90パーセント以上の人間が死んでも、まったく不思議ではないでしょう。なぜなら
生態系が壊滅してしまうと、人類の食料もなくなるのですから・・・
つまり、そのときの世界人口がおよそ100億人ぐらいだとすると、90億人以上が
死んでしまうことになります。この人的被害は、第二次世界大戦の、じつに100倍
を超える大きさです。そしてそれは、今からおよそ300年後ぐらいに起こるでしょう。
また、二酸化炭素が1000PPMを超える程度でも、温暖化の影響がそうとう深刻
になると思います。
その二酸化炭素レベルで、たぶん、第二次世界大戦を超えるような被害になる
のは確実でしょう。そしてそれは、今からおよそ200年後に起こるでしょう。
(ちなみに、第二次世界大戦による死者は、4000万人から6000万人と言われ
ています。)
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ところで上で述べたのは、とても大ざっぱな話です。
誰が聞いても、「そんなに二酸化炭素が多くなれば、大惨事になるのは当たり
前だ!」と、議論の余地がないほどの二酸化炭素レベルです。
それなら、もう少しまじめに、本当に人類が回避しなければならない二酸化炭素の
レベルとは、一体どれぐらいでしょう?
例えば、「国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)」(1992)の究極の目標は、
第2条によると、「気候システムに対して危険な人為的干渉を及ぼさないよう、大気中
の温室効果ガスの濃度を安定化(一定)すること」となっています。
そして、その究極目標を達成するために、温室効果ガスをどれぐらいに抑えなけれ
ばならないのかというのが、具体的な研究課題になるわけです。
最新の研究によると、世界のどの研究結果を見ても、450PPMから550PPM
の間になっています。
日本の最新研究では、475PPM以下となっています。そしてその達成のため
には、2050年における世界の温室効果ガス排出量を、1990年レベルの50
パーセント以下に削減する必要があるそうです。
今まで私は、50年後ぐらいまでに、温暖化対策にある程度のメドをつければ良いの
ではないかと思っていました。が、しかし、その私の見通しでさえ、非常にあまいもの
だったのです。
現在、研究が進めば進むほど、判断がより厳しいものになって来ています。
温暖化対策については、もはや一刻の猶予もなくなりつつあります。
本当に、いま現在から、さまざまな対策を進めて行かなければならない状況に
なっているのです!
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