海の生物への影響 5   2008年1月6日 寺岡克哉


 すこし間隔が開いてしまいましたが、この前のエッセイ304では、地球
温暖化による以下のような海の環境変化、

 (1)海水温の上昇
 (2)海氷の縮小
 (3)海面の上昇
 (4)海洋の大循環の弱まり
 (5)海水の酸性化

 (6)豪雨の増加
 (7)砂漠化
 (8)風の変化
 (9)日射量の変化

 のうち、(7)までについてお話しました。

 今回は、その続きです。


               * * * * *


(8)風の変化

 地球温暖化は、赤道ちかくの低緯度よりも、北極や南極などに近い
「高緯度」になるほど、気温の上昇が大きくなります。

 コンピューターのシミュレーションによると、たとえば地球の平均気温が
3℃上昇した場合、赤道付近では2℃ぐらいの上昇ですが、南極では4℃
の上昇、そして北極では、なんと7℃も気温が上昇します。

 つまり赤道と、北極や南極との、「温度差」が小さくなるわけです。

 そうすると、貿易風や偏西風などの「風」が弱くなり、海の表層を流れる
「海流」も弱くなります。その結果、深層の海水と、表層の海水との「混合」
が弱くなるのです。

 また「貿易風」が弱くなると、東部の熱帯太平洋における「湧昇流」(深層
水が湧き上がる流れ)を抑える働きがあると、シミュレーションのモデルから
考えられています。

 ところで・・・
 海洋は一般に、深層水には栄養が豊富に含まれていますが、表層は
栄養の極度に少ない「貧栄養状態」でした。
 つまり風が弱くなると、深層水と表層水との混合が弱くなったり、湧昇流
が抑えられたりして、深層からの栄養補給が少なくなるわけです。
 そうすると、プランクトンの数が減り、ひいては、それを食べている生物
全体にも影響が及ぶでしょう。

 ところが、実際の亜熱帯大西洋(太平洋ではなく大西洋)における長期
の観測から、地球が温暖化すると陸の気温を上げ、海との気温の差が
大きくなるために反って風が強まり、海水の混合が大きくなると指摘され
ています。

 しかし海洋全体としては、風が強くなるのか弱くなるのか、そして海水の
混合が大きくなるのか小さくなるのかについては、まだ明確になっていま
せん。
 とは言っても、風の吹き方や、海流の流れ方、そして海水の混合過程
などが、現在と変わってしまうのは避けられません!

 その結果、世界中の海域において、いろいろな生物に対して、さまざま
な影響を与えてしまうでしょう。


              * * * * *


(9)日射量の変化

 地球温暖化が進むと、海水の温度が高くなり、水の「蒸発」が活発になり
ます。
 そうすると、雨の量が増えるのは当然ですが、「雲」の量が増えるので、
海への「日射量」が減少する
ことになります。
 その結果、海草や植物プランクトンの「光合成の量」が減少することに
なり、ひいては海の生態系全体に影響を及ぼすかも知れません。

 ところで上記は、日射量が減少する可能性についての話でした。しかし
その反対に、日射量が劇的に増加する場所もあります。

 それは、北極や南極における「海氷域」です!

 地球温暖化によって、北極や南極の「海氷」(海に浮いている氷)が融け
ると、それまで氷によって反射されていた太陽光が、海水中に射しこむよう
になります。そうすると、海の表層部分が明るくなり、海水温も上がります。

 その結果、一般的にはプランクトンの増殖が活発になり、それを餌にして
いる生物たちも増えることが考えられます。
 これだけを見れば、海氷が消滅することによる、海水中への日射量の
増加は、「好ましいこと」のように感じるかも知れません。

 しかしそれは、今まで氷によって宇宙に反射されていた太陽光が、地球
に吸収されてしまうことを意味します。だから、地球温暖化をさらに促進
させ、加速させることになります。
私は、そちらの影響の方がずっと心配
です。

 また、エッセイ301の(2)でお話したように、海氷が無くなると、ホッキョク
グマやペンギンたちが生活できなくなりますし、アイスアルジーやオキアミ
なども減少するでしょう。
 だから、「海氷の消滅は好ましい!」と言うようには、とうてい私には思う
ことが出来ません。

 最近の新聞報道によると、ポーランド科学アカデミーと、米航空宇宙局
(NASA)の研究グループが、「北極海の氷の融解がこのままのペース
で進んだ場合、2013年には夏に氷が完全に消える」
との予測を公表
しました。
 太陽光をはね返す氷が消滅することで、海水温が上昇し、さらにそれに
よって、氷の融解が加速度的に進むのが主な原因です。
 これまでの予測では、消滅の時期がいちばん早いものでも、米国立大気
研究センターが予測した「2040年ごろ」というものでした。

 つまり、北極の海氷の融解は、予想以上に速く進んでいるのです!

 近い将来、北極海の生態系に、劇的な変化が起こるのは間違いない
でしょう。



             * * * * *


 以上、5回にわたって、海の環境変化が生物にあたえる影響を、大まか
に見てきました。

 ちよっと自分なりに調べてみただけでも、いろいろな要素が複雑に絡み
合って、とても難しい問題だと実感しました。

 とくに、エッセイ303でお話した「海水の酸性化」や、今回お話した
「北極海における海氷の消滅」などは、思った以上にすごく深刻で、とて
も驚いています。

 地球温暖化のことは、調べれば調べるほど複雑で、わけが分らなく
なってきます。
 しかし、調べれば調べるほど、「絶対的な確信」の出てくることがあり
ます。
 それは、「地球温暖化を、これ以上進めないようにすることが、最善
の策だ!」
ということです。

 温暖化が進めば進むほど、さまざまな要素が複雑に影響し合って、もは
や人類には、予想もできないような事態が生じてしまうでしょう。そうなる前
に、大気中の温暖化ガスを「安定化」させなければなりません。


 これはもう、ほんとうに緊急な問題となっているのです!



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