原発事故は継続中 8
                           2013年7月21日 寺岡克哉


 今回も、

 福島第1原発の敷地内に掘られた「観測用の井戸」の水から、高い濃度
の放射性物質が検出されている問題について、見て行きたいと思います。

 しかし、その前に、

 各種報道でも、観測用の井戸にたいして、東京電力がつけた名称を使う
ようになってきたので、ここでも話が分かりやすくなるように、東京電力の
名称を使うことにします。

 そして、

 それら観測用井戸の位置関係と、前回までの経緯をまとめると、以下の
ようになります。


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※日付は水の採取日、数値は水1リットルあたりの放射能。


地下水観測孔No.1
 2号機タービン建屋の東側(海側)、海から約25メートルの場所に掘った
もので、最初に問題になった井戸。
 5月24日 ストロンチウム90を1000ベクレル、トリチウム(三重水素)
        を50万ベクレル検出。

地下水観測孔No.1-1
 観測孔No.1の東側(海側)約19〜21メートル、海から4〜6メートル
(報道によって違う)の場所に掘った、海にいちばん近い井戸。
 6月28日 ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質を3000ベク
        レル、トリチウムを43万ベクレル検出。
 7月1日 ベータ線を出す放射性物質を4300ベクレル、トリチウムを
       51万ベクレル検出。
 7月5日 トリチウムを60万ベクレル検出。
 7月8日 トリチウムを63万ベクレル検出。

地下水観測孔No.1-2
 観測孔No.1の南側約23メートル、海から約25メートルの場所に掘った
井戸で、2011年4月に高濃度汚染水が海に流出した場所の近くにある。
 7月5日 ベータ線を出す放射性物質を90万ベクレル検出。
 7月8日 セシウム134を9000ベクレル、セシウム137を18000ベク
       レル検出。
 7月9日 セシウム134を11000ベクレル、セシウム137を22000
       ベクレル検出。

地下水観測孔No.1-3
 観測孔No.1の西側(建屋側)約13メートル、海から約38メートルの場所
に掘った井戸。
 7月12日 ベータ線を出す放射性物質を92000ベクレル検出。

地下水観測孔No.1-4
 観測孔No.1の北側約44メートル、海から約25メートルの場所に掘った
井戸。


地下水観測孔No.2
 3号機タービン建屋の東側(海側)、観測孔No.1の南側約126メートル、
海から約25メートルの場所に掘った井戸。
 7月8日 ベータ線を出す放射性物質を1700ベクレル検出。


地下水観測孔No.3
 3号機タービン建屋の東側(海側)、観測孔No.1の南側約210メートル、
海から約25メートルの場所に掘った井戸。
 7月11日 ベータ線を出す放射性物質を1400ベクレル検出。

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               * * * * *


 それでは、前回以後の経緯について見ていきたいと思いますが、

 時をすこし遡(さかのぼ)って、7月11日。

 東京電力は、3号機タービン建屋とポンプ室につながる「立て抗」(海から
約100メートルの場所にあり、観測用の井戸ではない)の内部において、

 汚染水に含まれるセシウム137の濃度が、最大で1リットルあたり1億
ベクレル
だったと発表しました。



 この「立て抗」の深さは約30メートルあるますが、

 東京電力は、水面から1メートル、7メートル、13メートルの深さの3ヶ所
で測定しています。

 セシウム137の濃度が最も高かった(1リットルあたり1億ベクレルだった)
のは、水面から1メートルの深さの場所でした。

 セシウム137の濃度が最も低かったのは、水面から13メートルの深さの
場所で、1リットルあたり6200万ベクレルでした。



 そしてまた、

 セシウム134の濃度も、やはり水面から1メートル深さの場所が最も
高くて、1リットルあたり5000万ベクレルでした。

 なので、セシウム137とセシウム134を合わせると、水面から1メートル
の深さの場所では、1リットルあたり1億5000万ベクレルの濃度になり
ます。

 じつに、途方もないほどの「高レベル汚染水」です。



 ところで!

 ここで今いちど、2011年4月に、2号機の取水口付近から海に流出した
「高レベル汚染水」のことを、思い出してみましょう(エッセイ477参照)。

 本サイトの「エッセイ477」を再読してみると、

 このときに流出した「高レベル汚染水」に含まれる放射性物質の濃度は、
10リットルあたり1700億ベクレル、

 つまり、1リットルあたり170億ベクレルであったことが分かります。

 こんな高レベルの汚染水が、およそ1000トンも流出したのです。



 その当時、

 いかに、ものすごく異常な事態になっていたのか、あらためて思い知ら
されます。


               * * * * *


 7月14日。

 東京電力は、地下水観測孔No.1-3において、7月12日に採取した
水から、

 トリチウムが1リットルあたり29万ベクレル検出されたと発表しま
した。



 観測孔No.1-3は、観測孔No.1よりも約13メートル建屋側にあります。

 なので、このことによって、

 建屋近くの地下水にまで、汚染が広がっている可能性が示されました。


               * * * * *


 以上、7月14日までの経緯について見てきました。


 ところで東京電力は、

 汚染された地下水が、海へ流出することを防ぐための工事を、7月8日
から始めていました。

 その工事とは、

 2種類の薬剤を一定の割合で混ぜると瞬時に固まる「水ガラス」を、地中
に浸透させ、

 水の通りやすい地層を、水を通さない「土の壁」に変えようとするもの
です。

 1号機と2号機の東側の、海沿い約90メートルにわたって薬剤を注入し、
壁を二重に作ります。

 そのような「土の壁」は、7月末までに完成する予定になっています。



 しかし、私は思うのですが・・・ 

 それで、汚染された地下水が海へ流出するのを、

 ほんとうに防ぐことが出来るのでしょうか?



 たとえば地下水は、海岸からすぐ海中に流れ出すのではなく、

 じつは「地下水脈」が、海底の地下でも、ずっと長く伸びており、

 そして地下水が、海底のどこかで、「湧水」として海中に流出している
と考えるのが、

 ごく自然で、もっとも妥当でしょう。



 だから、「海沿い」に土の壁を作ったとしても、

 それだけでは、その壁を迂回するような地下水脈が、新たに形成され
る恐れもあり、

 やはり海底のどこかで、汚染水が「湧水」として流出してしまう可能性を、

 けっして否定でないでしょう。



 なので、

 たとえば福島第1原発の、1号機〜4号機までの全体を、ぐるりと囲む
ように「土の壁」を作らなければ、

 そのような「海底湧水」の懸念を、払拭(ふっしょく)することは出来ない
のではないかと思います。



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