高レベル汚染水が流出!
2011年4月10日 寺岡克哉
4月4日〜4月10日にかけて、
福島第1原発から、低レベルの放射能汚染した水(低レベル汚染水)
およそ1万トン(1万390トン)が、海に放出されました。
高レベルに放射能汚染した水(高レベル汚染水)を、移送して保管
する場所を確保するための、異例の措置だといいます。
しかしながら、低レベル汚染水とはいえ、
法律で環境中への放出が認められている基準の、370倍もの放射
能レベルであり(※1)、
それを1万トンも放出するとなると、海の生態系や、漁業への影響が
心配になります。
この、「低レベル汚染水の放出」にたいしては、国外からも懸念の
意が表明されていますし、
全国漁業協同組合連合会(全漁連)の、服部郁弘 会長は4月6日、
東京電力本社と経済産業省を訪れて、抗議をしています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(※1)
法律で環境中への放出が認められている基準は、1立方センチ
あたり0.04ベクレル。
放出された約1万トンの低レベル汚染水は、平均で、1立方センチ
あたり14.8ベクレル。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
* * * * *
しかし実は、
1万トンの低レベル汚染水の放出など、ぜんぜん比べ物に
ならないほどの、
すさまじく酷(ひど)いことが起こっていたのです!
それは、
2号機の取水口付近にある亀裂から、「高レベル汚染水」が
勢いよく流出していたことです。
この、
「高レベル汚染水」の放射能は、たったの10リットルで、
低レベル汚染水およそ1万トンの全放射能、1700億ベクレル
に、相当すると言われています。(※2)
それが、1秒間に約3リットル(※3)の勢いで、
すくなくても4月2日の午前9時30分(※4)から、4月6日の午前5時
38分にかけて、
92時間8分の間、つまり331680秒間、高レベル汚染水が流出し
つづけたのです。
流出した高レベル汚染水の総量は、
3 × 331680 = 995040リットルに達したと見られます。
この高レベル汚染水10リットルが、低レベル汚染水およそ1万トン
と同じ放射能なのだから、
995040/10 = 99504 つまり、
流出した「高レベル汚染水」の全放射能は、低レベル汚染水
1万トンの全放射能の、
およそ10万倍になります!
これは、
低レベル汚染水1万トンの放出を、およそ10万回やったのと
同じ放射能の量です。
たとえば1回の放水が、今回とおなじように、6日間かかったと
すると、
6×100000 =600000日
600000/365 =1643.8年
となり、毎日毎日およそ1640年もの間、低レベル汚染水を放出
し続けたことに相当します。
これでは、海の魚介類への影響が、無いわけがありません!
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(※2)
東京電力によると、当初放水を予定していた、低レベル汚染水
1万1500トンの全放射能は1700億ベクレルで、2号機の高レベル
汚染水10リットル分に相当するとしています。
(※3)
インターネットでは、1秒間に2〜3リットルという数値が飛び交って
いますが、
近畿大学 原子力研究所所長の伊藤哲夫さんが、4月4日の報道
番組で「1秒間に約3リットル」と言っていたのを、ユーチューブの動画
で確認できました。
(※4)
高レベル汚染水の流出が「発見された」のは、4月2日の午前9時
30分ごろでしたが、この発見時間の前から、汚染水は流出していた
はずです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
* * * * *
ところで、
高レベル汚染水10リットルが、1700億ベクレルの放射能を
もつのだから、
1700 / (10×1000) =1700万ベクレル/立方センチ
の放射能になります。
一方、
ヨウ素131の、経口摂取による実効線量係数(1ベクレルの
ヨウ素131を飲みこんだ場合の被曝量)は、
2.2×10−8シーベルト/ベクレル =2.2×10−5ミリシーベ
ルト/ベクレル なので、
高レベル汚染水に含まれる放射性物質が、(本当は違いますが)
すべてヨウ素131だと仮定すると、
この水を1立方センチ(1ミリリットル)飲み込んでしまった場合、
17000000×0.000022 =374ミリシーベルトの被曝量に
なります。
この374ミリシーベルトというのは、(外部被曝だったとしても)人体
に影響の出るレベルです。
しかし、この水を飲み込んだ場合は「内部被曝」になるので、その
影響はさらに深刻になるでしょう。
また、
この水を、16ミリリットル飲んだ場合は、被曝量が6000ミリシーベ
ルトになり、少なくても90%以上の人が、ほぼ間違いなく死亡します。
そのような毒性の強い水が、およそ1000トンも放出してしまっ
たわけです!
* * * * *
経済産業省の原子力安全・保安院は、
およそ1万トンの低レベル汚染水を、海に放出したことによる影響
について、
原発から半径1キロの禁漁区周辺(1キロよりすこし外側の、禁漁
区でない海域)で捕れた魚200グラムを、
毎日毎日、1年間食べつづけた場合、0.6ミリシーベルトの被曝量
になると推計しました。
なので、
一般人の年間被ばく線量限度である1ミリシーベルトを、下回ると
しています。
ところが、しかし!
放射能の総量として、その10万倍に相当する「高レベル汚染水」
が、すでに流出してしまったのです。
だから上の話も、おそらく10万倍になると考えられるわけで、
0.6×100000 =60000ミリシーベルトの被曝量にも、なって
しまいます。
つまり、
原発から半径1キロの禁漁区周辺(1キロよりすこし外側の、
禁猟区でない海域)で捕れた魚200グラムを、
毎日毎日、1年間食べ続けたとすると、6万ミリシーベルト
の被曝量になると考えられます!
これは、90%以上の人が死亡する6000ミリシーベルトの、
さらに10倍の被曝量です。
この魚200グラムを1回食べただけでも、164ミリシーベルト
の被曝量になると考えられます。
なので、
「高レベル汚染水」の流出による、海の魚介類への影響が、
ものすごく懸念されます!
* * * * *
ところでまた、
このたびの「高レベル汚染水」の流出による、放射能漏れの
総量は、1700億ベクレルのさらに10万倍なので、
1.7×1011 × 105 =1.7×1016 ベクレルになります。
しかしながら一方、
「チェルノブイリ原発事故」による放射能漏れの総量は、
1.8×1018〜3.7×1018 ベクレルと、言われています。
なので、
このたびの「高レベル汚染水」の流出による放射能漏れは、
チェルノブイリ原発事故の1%ていどであり、
福島第1原発から遠く離れた、北海道や九州などの海では、
魚介類への深刻な影響が、そんなに現れないのではないか
と思います。
* * * * *
ところで・・・
およそ1万トンの低レベル汚染水は、国内外への説明が不十分
なまま、
突然に放水されました!
水産庁を所管する、鹿野道彦 農相は4月5日、東京電力から
事前の連絡が無かったことについて、不快感を示しました。
橋本昌 福島県知事と、沿岸9市町村の首長も4月5日、「関係
自治体の何らの情報も提供されない中で行われた」として、菅首相
と東京電力の勝俣恒久 会長に、連名で抗議文を発送しています。
全漁連の服部郁弘 会長は4月6日、「事前に何の相談もなく
放水を実行したことは、一方的な決定で許しがたいことだ」と述べ
て、東京電力の勝俣恒久 会長に抗議しました。
また国外では、
韓国や中国から、「憂慮の念」や「懸念」が表明されています。
このように、
(いくら緊急のことだったとは言え)国民にまったく知らされること
なく突然に、
(低レベル汚染水とは言え)1万トンもの放水が、強行されたの
です。
しかし、さらに私は、
「高レベル汚染水」さえも、国内外に事前に知らせることなく、
突然に放水するのではないかと、ものすごく懸念しています!
というのは、
すでに推計で6万トンの、「高レベル汚染水」が存在すると言われ
ていますが、
いま現在でも、1号機〜4号機には「注水」が行われており、
1日に500トンの高レベル汚染水が、毎日毎日、さらに増加し
続けているからです。
そして下手をすると、あと1年くらいは、注水を続けなければなら
ないと言われているからです。
だから、
このまま「高レベル汚染水」がどんどん増えて、どうしようもなく
なったら、
高レベル汚染水でさえも、突然に放水するのではないか?
と、私はものすごく心配でなりません。
もしも、
数万トンの高レベル汚染水が、海に放出されるようなことに
なったら、
日本の太平洋沿岸における漁業は、おそらく壊滅してしまう
でしょう。
そんなことに絶対にならないよう、私たち一般国民は、
政府や東京電力にたいして、しっかりと注視して行かなければ、
ならないと思います。
目次へ トップページへ