原発事故は継続中 6
                             2013年7月7日 寺岡克哉


 いま現在、福島第1原発で、

 放射能汚染した水が、海に流出しているかも知れないことが、もの
すごく強く疑われています。


 今回は、そのことについてレポートしたいと思います。


              * * * * *


 ・・・東京電力は6月19日。

 福島第1原発の、「2号機」と「海」の間に設置した観測用の井戸の水
から、

 ストロンチウム90が、1リットルあたり1000ベクレル(国の放出基準
の33.3倍 注1

 トリチウム(三重水素)が、1リットルあたり50万ベクレル(国の放出
基準の8.3倍 注2

 の値で、検出されたと発表しました。

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注1:ストロンチウム90における国の放出基準(法令告示濃度)は、
   1リットルあたり30ベクレル。

注2:トリチウムにおける国の放出基準(法令告示濃度)は、1リットル
   あたり60000ベクレル。
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 この観測用の井戸は、

 放射性物質が、海へ流出していないかどうかを調べるためのもので、

 2号機タービン建屋の東側の、海から約25メートルの地点に設置
されています。

 ちなみに、昨年12月の検査では、放射性物質の量は基準値以下
だったといいます。



 東京電力は、

 井戸水から高濃度の放射性物質が検出された原因について、

 原発事故が起こった直後の2011年4月に、2号機の取水口付近で
高レベル汚染水が漏れた際に(エッセイ477参照)、その一部が地中
に残留した影響だと説明しています。

 また東京電力は、

 「海への影響はない」と流出を否定していますが、その根拠は、「海水
の検査で放射性物質の濃度が過去の変動の範囲内だった」ということ
だけです。



 ところで!

 ストロンチウム90が1リットルあたり1000ベクレル、トリチウムが
1リットルあたり50万ベクレル検出されたのは、

 5月24日に採取した井戸水からであり、

 5月31日には、福島第1原発の担当者が把握していました。

 それなのに、

 原子力規制庁へ報告したのは、6月17日と遅れ、

 一般へ公表したのは、6月19日と、さらに遅れているのです。



 原子力規制庁は、「早く報告すべきだった」と批判し、

 放射性物質の拡散調査、海のモニタリング、流出防止対策を、東京
電力に指示しました。

 また、地元においても、

 東京電力の情報公開にたいする姿勢に、改めて批判が高まってい
ます。



 公表が遅れた理由について、

 東京電力の福田 原子力品質・安全部長は記者会見で、

 「データは社外専門家による検討会に使うもので、通常の(公開対象
の)調査とは違う」

 と、まともな説明にも、なっていないようなことを述べています。


              * * * * *


 6月24日。

 東京電力は、上で問題になった井戸の近くの、港湾内の海水に含ま
れるトリチウムの濃度が、上昇傾向にあると発表しました。

 濃度の上昇が見られたのは、1号機取水口の北側の海水です。

 6月21日の採取分から、1リットルあたり1100ベクレルの、トリチウム
が検出されています。

 (その前の、6月10日の採取分では、1リットルあたり500ベクレル
でした。)



 また、

 1号機取水口と、2号機取水口の間の地点において、6月21に採取
した海水からも、

 1リットルあたり910ベクレルの、トリチウムが検出されています。

 (その前の、6月10日の採取分では、1リットルあたり600ベクレル
でした。)



 東京電力は、「海水を継続調査し、海への漏出の有無を判断したい」
としています。


              * * * * *


 6月26日。

 この日、原子力規制委員会の「定例会合」が行なわれました。



 その会合で、

 港湾内の海水に含まれるトリチウムの、濃度上昇が確認された問題
について、

 事務局の原子力規制庁が、汚染された地下水が海へ漏れ出した
「可能性が否定できない」と説明したのに対し、

 更田(ふけた)委員は、「否定できないではなく、強く疑われる」と指摘
しました。



 東京電力が、「過去の流出が原因だ」としている点についても、更田
委員は、

 「ほんとうにそうなのか。現在も(高レベル放射能汚染水が)漏れて
いないのか。予断を持たず対応すべきだ」と述べています。



 また、島崎委員長代理は、

 「(東京電力が行なっている海水の分析について)潮流や潮位の変化
を踏まえた調査が必要だ」と強調しました。


              * * * * *


 6月29日。

 東京電力は、上で問題になった観測用の井戸(海から約25メートル
の距離)よりも、

 さらに19メートル海側(つまり、海から約6メートルの距離)に、
「新設した井戸」の水から、

 ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質が、1リットルあたり
3000ベクレル、

 トリチウムが、1リットルあたり43万ベクレル検出されたと、発表しま
した。

 この水は、6月28日に採取されたものです。


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 7月2日。

 東京電力は、上の新設された観測用の井戸(海から約6メートルの距離)
において、

 7月1日に採取した水から、

 ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質が、1リットルあたり4300
ベクレル検出されたと発表しました。


 つまり同じ井戸において、6月28日に採取した水よりも、ベータ線の量
が1.4倍に増加したのです。


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 7月4日。

 東京電力は、福島第1原発1〜4号機の取水口の北側で、7月1日に
採取した海水から、

 1リットルあたり2200ベクレルの、トリチウムが検出されたと発表しま
した。

 これは原発事故後、「海水」から検出されたトリチウムとしては、今まで
で最高の値です。


 高濃度の放射性物質が検出された、観測用井戸の水との関連が疑われ
ますが、

 東京電力は、「海水を採取したのは、遮水壁に囲まれた港湾の隅で海水
が動きにくい場所。数値も想定できる変動の範囲にあり、現時点では(漏出
の)判断ができない」としています。


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 7月5日。

 東京電力は、最初に問題になった井戸(海から約25メートルの距離)
から、

 南に約23メートルの地点に新設された観測用の井戸(これも海から約
25メートルの距離)で、同日に採取した水において、

 ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質が、1リットルあたり
90万ベクレル
検出されたと発表しました。



 これは、それまで海側の観測用の井戸で検出された最高値である、
1リットルあたり4300ベクレルの、209倍もの値です。

 東京電力は、

 「海水の放射性物質の濃度に大きな変化がない」としており、「海に流れ
出ているかは今は判断できない」としています。


              * * * * *


 7月6日。

 東京電力は、福島第1原発1〜4号機の取水口の北側で、7月3日に
採取した海水から、

 1リットルあたり2300ベクレルの、トリチウムが検出されたと発表しま
した。

 これにより、

 「海水」から検出されたトリチウムとしては、7月1日に採取したサンプル
の記録(1リットルあたり2200ベクレル)がさらに更新されて、過去最高の
値となりました。



 ちなみに、

 この場所のトリチウム濃度は、この1年間において、1リットルあたり100
〜200ベクレルていどで推移していました。

 ところが、

 今年の5月ごろから、トリチウムの濃度が上昇傾向を示すようになったの
です。

 東京電力は、その原因について、

 「ほかの地点のデータなどと合わせて総合的に判断しなければ分からな
い」と、しています。


              * * * * *


 以上、

 「観測用井戸の水」や「取水口付近の海水」の、放射性物質の濃度に
ついて、最近の状況を見てきました。


 ここまでの経緯を見るかぎり、

 東京電力は、なかなか認めようとしませんが、

 トリチウムやストロンチウムなどの放射性物質が、海へ流出している
ことは、おそらく間違いないでしょう。


 やはり、「原発事故は継続中」だと言わざるを得ません!


 一方、それなのに東京電力は、

 新潟県にある柏崎刈羽原発を、再稼動させようとしているのです。

 その感性は、とても理解し難く、ものすごく疑問に思わざるを得ません。



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