COP17 その2    2011年12月18日 寺岡克哉


 ここでは、COP17で合意されたことの要点をまとめ、

 それについて私の思ったことや、考えたことについて、

 お話してみましょう。


            * * * * *


 まず、各種の報道によると、

 このたびのCOP17で合意されたことの要点は、だいたい以下
のようになっています。


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            COP17合意の要点


●京都議定書の延長

 延長期間は、2013年からの5年間か、あるいは8年間。

 各国の削減目標をふくめた議定書の改正は、来年のCOP18
で完成させる。

 日本、ロシア、カナダは、議定書の延長に参加せず、自主的
な削減努力を行う。

 しかし日本とロシアは、京都議定書から離脱するわけではなく、
批准国でありつづける。(カナダは12月12日に、京都議定書
から正式に脱退すると発表。)

 クリーン開発メカニズム(CDM)については、日本の利用を
拒否するCOP決定はされず、引きつづき利用できる見通し。



●ダーバン・プラットホーム(ダーバン枠組み)

 アメリカや中国をふくめた、「すべての国が入る、法的拘束力
のある枠組み」を実現させる。

 新しく作業部会を設け、2012年の前半から作業を開始する。

 2015年までのなるべく早い時期に交渉を終え、2020年に
発効させる。

 「法的拘束力」の内容は、「国際法上の削減義務が生じる議定
書」や、「他の種類の法的文書」など、まだ一本化されていない。



●グリーン気候基金

 途上国の温暖化対策や被害防止のための「グリーン気候基金」
の運用を開始させる。



●抑制するべき気温上昇の大きさ

 産業革命前の気温にくらべて、従来の「2℃以下」という気温上昇
の抑制から、「2℃もしくは1.5℃」の抑制と明記。

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 つぎに、

 この合意内容について、私の思ったことを、お話してみましょう。


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 「京都議定書の延長」については、

 日本、ロシア、カナダが拒否したため、世界における温室効果
ガス排出量のうち、

 「法的な削減義務」が課せられるのは、全体の26%から、
16%に縮小してしまいました。



 つまり、

 その他の84%については、「削減義務」が課せられていない
わけで、

 これでは、京都議定書が「さらに形骸化した」という感が、どう
しても否めません。



 しかし、それでも、

 EUは「経済危機」に悩まされているにもかかわらず、京都議定
書の延長をやることにしました。

 それについて私は、温室効果ガス削減への、EUのとても強い
意思を感じます。



 たしかにEUは、二酸化炭素排出権の取引市場を抱えており、

 削減義務が無くなると、排出権の価格が暴落する恐れがある
というのが、京都議定書を延長した一因かもしれません。

 しかしながら、

 5万2000人以上の死者が出たといわれる、2003年にヨー
ロッパを襲った熱波などで、

 EUの人々は、地球温暖化にたいして、「とても強い危機感」を
持っているというのが、さらに根本的な動機のように思えます。


            * * * * *


 「ダーバン枠組み」については、EUの功績が、ものすごく大き
かったです。

 EUが、「京都議定書の延長」をするのを引き換えにして、

 アメリカと中国にたいして、「法的拘束力のある枠組み」に参加
するように、とても強く迫ったからです。



 しかも、

 アメリカや中国は、「法的枠組み」について、「2020年以降
の発効」を主張していたのに、

 EUは、「2020年の発効」にまで、譲歩させることに成功しま
した。



 アメリカと中国は、温室効果ガスの大量排出国であり、

 この2ヶ国を合わせると、世界の温室効果ガス排出量の4割を
占めます。

 なので、アメリカと中国が「法的枠組み」に入らなければ、実際上
「意味が無い」のです。

 日本が、京都議定書の延長を拒否したのも、この理由からで
した。



 だから、

 アメリカと中国を、「法的拘束力のある枠組み」への参加に
引き込んだことは、

 COP17において、「ものすごく大きな成果」だったと思います。



            * * * * *


 産業革命前にくらべて、「2℃もしくは1.5℃」の気温上昇に
抑制すると明記したことについて、

 政治や行政に携(たずさ)わっている方々は、地球温暖化
の「科学的知見」を、ほんとうに理解しているのか?


 という思いが、どうしても私には拭いきれません。



 エッセイ412で取りあげていますが、

 たとえば、産業革命前からの気温上昇を、2℃に抑えるため
には、

 二酸化炭素のほか、メタン、亜酸化窒素、フロン類などを含め
た、温室効果ガス全体の大気中濃度を、

 二酸化炭素換算で、445ppmに抑えなければなりません。



 しかし現在すでに、

 大気中の二酸化炭素濃度が380ppmを超え、

 メタンなどを含めた温室効果ガス全体の濃度は、二酸化炭素
換算で、おそらく470ppmを超えているでしょう。



 つまり、

 いま直ちに、大気中の温室効果ガスの増加を、ゼロにできた
としても、

 将来的に、温室効果ガスの濃度と、気温がつり合った時には、

 2℃以上の気温上昇になってしまうのです。



 いわんや、

 2020年までに先進国全体の温室効果ガス排出量を、1990
年比で25〜40%の削減とか、

 2050年までに世界の温室効果ガス排出量を、1990年比で
50%削減(先進国は80%削減)とか、

 そんなレベルの削減をしても、2℃とか1.5℃の気温上昇には、
とうてい抑えられないのです。

 政治や行政に携わっている方々は、そのことを本当に理解して
いるのでしょうか?



 しかし、ここで私は、

 温室効果ガスの削減が、「すでに手遅れで無意味だ」と言って
いるのではありません。

 もしも温室効果ガスの削減をやらなければ、産業革命前にくら
べて、4.6℃以上の気温上昇になってしまうからです。



 もしも、そうなったら、

 何百万人もの被害者が出るような「大洪水」が、毎年のように
起こるでしょう。

 海水の酸性化により、ほどんどの海域で「生態系の壊滅」が
おこり、陸上でも「地球規模の重大な絶滅」がおこり始めるでしょ
う。

 そして最終的には、海面が12メートル上昇して、海沿いにある
世界の主要都市が、ことごとく水没してしまうでしょう。

 そのような「壊滅的な状況」を避けるためにも、温室効果ガス
の精力的な削減は、絶対に必要なのです。


            * * * * *


 日本は、このたびのCOP17で、「京都議定書の延長」を拒否
しました。

 なので、2013年以降から、温室効果ガスの削減義務が無く
なります。



 しかし、だからと言って、

 温室効果ガスの削減を、やらなくて良くなった訳では、

 決してありません!




 なぜなら、地球温暖化による気候変動が、まったなしで進み
続けているからです。

 今年も、オーストラリアや、タイで、「大洪水」がおこりました。

 とくにタイの洪水では、日系企業も被害を受けています。



 地球温暖化が進むと、

 海水の蒸発量が多くなり、大量の雨が降って、

 どうしても、このような「大洪水」が起こりやすくなるのです。



 なので、

 わが国は今年、東日本大震災と、福島第1原発の事故という、
二重の国難に遭いましたが、

 しかしそれでも、再生可能エネルギーを大々的に拡げ、温室効果
ガスの削減を強力に進めて、

 可能なかぎり早急に、「低炭素社会」を実現させなければなり
ません。




 なぜならそれが、これからの人類の「生きのこり戦略」であり、

 地球上のすべての人間が、取りくんで行かなければならない事
だからです。

 とくに最先端技術を持っている、日本のような先進国は、

 まず第一に率先して、「人類の先導者」として、低炭素社会
を実現させなけばなりません。




 たとえばヨーロッパの人々は、そのような自覚を、とても強く持っ
ているように思えます。

 もしも日本が、旧態依然の古い産業構造と社会構造に固執し、
それから脱却することが出来なければ、

 世界の進歩から取り残されてしまうのは、火を見るより明らか
です。



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