2℃以下に抑えるということ
2010年1月10日 寺岡克哉
今回は、
地球温暖化にたいする、国際的な取りくみの現状について、
いま私が思っていることを、お話してみましょう。
* * * * *
まず、昨年の12月に行われたCOP15で、
「産業革命前からの気温上昇が、2℃を超えるべきでないという
科学的な見地を認識する」
ということに、(留意という形ですが)いちおうの合意をみました。
しかしながら・・・
2050年までに、世界全体の温室効果ガス排出量を、1990年比で
50%削減するとか、
2050年までに、先進国全体の温室効果ガス排出量を、1990年比
で80%削減するとか、
2020年までに先進国全体で、1990年比25〜40%削減すると
いうような、
「具体的な数値目標」を、まったく揚げませんでした。
最近の国際交渉における、これら2つの「事実」を見るとき・・・
国際社会は、産業革命前からの気温上昇を、ほんとうに2℃以内
に抑える気があるのか?
国際社会は、2℃以内に抑えると言うことが、本当にどういうことか
理解しているのか?
という思いが、どうしても私の胸に込み上げてくるのです。
* * * * *
なぜ私が、そのように思うのかを、さらによく分かって頂くために、
産業革命前からの気温上昇を、2℃以下に抑えるとは、どう言うこと
なのかを、
ここで確認してみましょう。
IPCCの第4次報告書によると、
産業革命前からの気温上昇を、2.0〜2.4℃で抑えるためには、
(メタンなども含めた)温室効果ガス全体の濃度を、二酸化炭素換算で
445〜490ppmで安定させなければならず、
さらに、そのためには、
西暦2000〜2015年の間に、二酸化炭素の排出を、増加から減少に
転じなければ(ピークを迎えなければ)ならず、
2050年における二酸化炭素排出量を、2000年比で85〜50%削減
しなければなりません。
だから、気温上昇を2℃以下で抑えるためには、その中でもいちばん
厳しい数値。
つまり、
温室効果ガスの濃度を445ppmで安定させるために、
すでに2000年の時点で、二酸化炭素の排出がピークを迎えていな
ければならず、
2050年までに、2000年比で85%の削減をしなければなりません。
ところが!
それは、気候感度を3℃としたときの値なのです。
この「気候感度」とは、温室効果ガスの濃度が2倍になったとき、
どれだけ気温が上昇するかという値です。
たとえば、産業革命前の二酸化炭素濃度は280ppmですから、それが
2倍の560ppmになったとき、産業革命前にくらべて気温が3℃上昇する。
これが、「気候感度 3℃」という意味です。
あくまでも、この条件が正しいとき、温室効果ガスを445ppm以下で
安定させれば、気温上昇が2℃以下に抑えられるという訳です。
しかしながら、気候感度の推定値には「幅」があります。
もちろん、いちばん正しいと思われる推定値は3℃ですが、しかしそれ
には、2〜4.5℃という幅があるのです。
これは、現在の科学的な知見では、どうしても仕方がないことです。(将来
的に研究がもっと進めば、この幅は小さくなるでしょう。)
たとえば温室効果ガスの濃度が、産業革命前の2倍である、560ppmに
なったとき、
最良の見積もりでは、3℃の気温上昇ですが、
運が良ければ、2℃の気温上昇で済み、
運が悪ければ、4.5℃の気温上昇になってしまう可能性も、否定でき
ないのです。
これを、445ppmの場合に対応させると、
最良の見積もりでは、2℃の気温上昇ですが、
運が良ければ、1℃くらいの気温上昇で済みます。
しかし運が悪ければ、3℃くらいの気温上昇になってしまう可能性も、
否定できません。
つまり、
(メタンなどを含めた)温室効果ガス全体の濃度を、445ppmで
安定させても、かならず2℃の気温上昇で抑えられるとは限らない
のです!
たとえ、運が悪い場合(実際の気候感度が4.5℃)であっても、
気温上昇を2℃以下に抑えるためには、
温室効果ガス全体の濃度を、二酸化炭素換算で350ppm以下に
安定させなければなりません。
以上が、現在の科学的な知見を、まったく隠すことなく正直に表現
したものです。
* * * * *
しかし・・・
現在すでに、大気中の二酸化炭素濃度は380ppmを超え、
メタンなどを含めた温室効果ガス全体の濃度は、二酸化炭素換算で、
おそらく470ppmを超えているでしょう。
だから実際の気候感度が、最良の推定値である3℃だったとしても、
将来的に、温室効果ガスの濃度と、気温がつり合った時点では、
2℃以上の気温上昇になってしまうでしょう。
つまり、気温上昇を2℃以下に抑えるためには、
温室効果ガスの排出を、今すぐゼロにするだけではダメで、
大気中の温室効果ガスを、何らかの方法で、
積極的に取り込んで減らす対策さえも、必要だということです。
これが、ウソ偽りのない、実際の現状なのです。
* * * * *
一方、
COP15が行われる前までに、世界各国が、
いちおう表明した削減目標。
たとえば、
日本は2020年までに、1990年比で25%削減とか、
EUは2020年までに、1990年比で20〜30%削減とか、
アメリカは2020年までに、2005年比で17%削減とか、
中国は2020年までに、単位GDP当たりの二酸化炭素排出量を、
2005年比で45%削減とか、
その他、もろもろの国々が表明した、削減目標を合計しても・・・
しかしそれでも、
国連が行った試算によれば、気温上昇が3℃を超えるとして
います。
また、
オランダの研究機関Ecofys(エコフィス)などがまとめた試算では、
気温上昇が3.5℃に達するとしています。
* * * * *
以上のように、
現時点で、国際社会が表明している削減目標では、
気温上昇を2℃以下に抑えることが不可能です。
それを国際社会は、ほんとうに理解し、認識しているのでしょうか?
もしかしたら、
気温上昇を2℃以下に抑えるなど、さらさらやる気がないのに、
「やる気が無いわけではない!」
「その証拠に、我々は一定の削減行動を、やろうとしているでは
ないか!」
というような、「言い訳づくり」をしているのでしょうか?
あるいは、
いまのエネルギー経済システムや、ライフスタイルを、あまり劇的に
変えるわけには行かない。
そのためには、3〜3.5℃の気温上昇もやむをえない。
だから、南の小さな島国は、海に沈んでくれ!
アフリカの最貧国の人々は、干ばつによる飢餓で死んでくれ!
と、暗に言っているのを隠すために、
「産業革命前からの気温上昇が、2℃を超えるべきでないという
科学的な見地を認識する」
という、口先だけの「お為ごかし」を、揚げたのでしょうか?
とにかく、いまの国際社会は、
言っていることと、やろうとしていることが、
あまりにも、かけ離れているように思えてなりません。
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