科学技術 助言補助機関 会合
2010年5月30日 寺岡克哉
前回でも話しましたが、
5月10日〜21日にかけて、「科学技術 助言補助機関 会合」という
のが、
ケニアのナイロビで行われました
これは、今年の10月に、名古屋で開かれる、
生物多様性条約 第10回締約国会議(COP10)に向けての、
専門家による準備会合です。
今回は、
この会合で、一体どんなことが議論されたのか、ザッと見ていきたい
と思います。
* * * * *
まず、前回のエッセイ431で話しましたように、
「2010年までに、生物多様性の損失速度を、顕著に減少させる」
という、
「2010年目標」は、達成できませんでした!
10月に行われる「COP10」では、まず第一に、それを正式に認める
ことになるでしょう。
しかし、
COP10における、いちばん大切な議題は、これからの新たな
「次期目標」を決めることです。
「科学技術 助言補助機関 会合」は、COP10の準備会合ですから、
とうぜん「次期目標」についても、話し合われました。
それは、
2020年までをにらんだ、生物多様性の保全に関する、国際目標
なので、
おそらく、「2020年目標」と呼ばれることになるでしょう。
* * * * *
さて、この会合では、
生物多様性条約の「事務局」から示された、
2020年目標についての「素案」を、基にして議論されました。
しかしながら、5月21日付の日本経済新聞によると、
「2020年目標」に関しては、なかなか意見がまとまらず、
今後の議論に委ねられることに、なってしまったようです。
まず第一に、事務局が示した「全体目標」は、
「2020年までに、多様性への圧力を減らす」と、いうものでしたが、
しかし、これに対して、
「2020年までに、多様性の損失を食い止める」という、さらに野心的
な目標を求める意見が出されました。
つぎに、事務局が示した「次期目標」は、20項目から成っているの
ですが、
その中で、
「陸、淡水、海洋の区域の少なくとも15%が保護される」という事務局
の案にたいして、
(数値を強化する意見もあったのですが)、
「陸域は10%」とか、「海域は6%や10%」など、事務局の案を弱める
意見が出されました。
「魚の乱獲がなくなり、破壊的漁業が根絶される」という事務局案に
たいしては、
「乱獲されているすべての漁業資源が、持続可能な形で獲られる」
などへの、修正案が検討されました。
「森林とその他の自然の生息域の損失と劣化が半減される」という
事務局案にたいしては、
「基準の年や、森林の定義を明確にするべきだ!」との指摘が出て、
未決着の状態です。
このように、
「2020年目標」については、いろいろと意見のまとまらない所がある
のですが、
しかしながら、その一方で、
「判明している絶滅危惧種が絶滅するのを防ぐ」という事務局案には、
多くの国が支持しました。
また、
外来種対策や、サンゴの保全強化にたいする目標設定にも、大きな
反対は無かったようです。
* * * * *
ところで、5月20日付の共同通信によると、
「植物の保全強化」については、けっこう前進があったみたいで、
「2020年までの、植物の保全強化に関する国際目標案」
というのが、大筋でまとまりました。
この中で、
「絶滅の危機にある植物種の少なくとも75%が、生息域内で保全
される。」
「絶滅の危機にある植物の、少なくとも75%が採取されて施設内
で保管され、20%は回復の取り組みに利用可能な状態になる。」
「野生の近縁種を含む作物などの、遺伝的多様性の70%が保全
され、関連する先住民などの知識が尊重、保全、維持される。」
「いかなる野生植物種も、国際取引によって絶滅の危機にひんする
ことがないようにする。」
「製品をつくるための野生植物の調達が、すべて維持可能な形で
行われる。」
などなど、
合計で16の目標案が揚げられており、「COP10」で採択を求める
ことになっている、
「2020年までの、植物種保全国際戦略案」というのに、盛り込まれ
ます。
* * * * *
さらには、
「海の生態系」や「漁業」に関する問題にも、進展が見られています。
たとえば、
「海洋と沿岸域の、生物多様性の保全に関する決議案」というのが
纏(まと)まり、
COP10で採択を求めることになりました。
この決議案では、
破壊的な漁業の影響について、緊急に評価する必要があることを
言及し、
「締約国が、漁船の過剰な漁獲能力や破壊的な漁業などの影響
を抑える、行動計画を策定することを推奨する」
と、乱獲などへの対策強化をうたっています。
また、
「海の生態系に悪影響を与える漁業の阻止に取り組むことを、締約
国に求める議決案」
というのも纏(まと)まり、COP10で採択される見通しです。
この決議案では、
海洋には最大1000万種もの生物が生息し、深海では常に新種が
発見されるなど、水産資源以外にも多様な生態系があることを強調
しており、
その上で締約国に、国際機関が進める漁業規制への、協力を求め
ています。
* * * * *
「科学技術 助言補助機関 会合」で、ちょっと嬉しかったのは、
日本の名古屋で、「COP10」が行われることもあり、
日本政府が、積極的な動きを見せていることです。
この会合で日本政府は、生物多様性における「水田の重要性」を、
「生態系に配慮した農業に関する決議案」に盛り込むよう、提案しま
した。
これに各国の政府が賛同し、COP10で採択される見通しとなった
のです。
この議決案は、
稲作が114ヶ国に広がり、水田が、内陸に大きな水域を保ってきた
ことで、
「人の健康や伝統文化だけでなく、多くの生態系による恵みも支えて
きた」と指摘し、
各国が、生態系に配慮した農業の計画をつくる場合に、「水田の保護」
を視野に入れることを促します。
ちなみに、「水田」というのは、
ドジョウやメダカ、昆虫など、多くの生きものを育(はぐく)み、渡り鳥
の中継地にもなっている、生物多様性にとって重要な場所です。
また、
水資源の保全や、土壌流出の防止などにも、重要な役割を果たして
います。
日本国内の環境保護団体でつくる、「生物多様性条約 市民ネット
ワーク」は、
そのような「水田の重要性」を、COP10で議題にするように、これまで
日本政府に働きかけてきました。
「科学技術 助言補助機関 会合」では、その努力が実った形となった
のです。
* * * * *
この会合について、思ったことですが・・・
「2010年までに、生物多様性の損失速度を、顕著に減少させる」
という、2010年目標の達成に失敗したことを受けて、事務局が示した
次期の「全体目標」は、
「2020年までに、多様性への圧力を減らす」
という、すごく弱気なものでした。
しかしこれは、
「弱気」というよりも、それが「現実的な目標」なのかも知れません。
その反対に、
2010年目標の方が「無謀だった」というか、地球生態系の現状に
ついて、「あまりにも無知」だったのでしょう。
そうではありますが、
「2020年までに、多様性の損失を食い止める」
という、さらに野心的な目標を求める意見が出されたのは、
やはり嬉しいことです。
しかしながら、冷静に考えれば、
2020年までに生物多様性の損失を食い止める(2020年までに、
個体数の減少や、絶滅する種を、ゼロにする?)ことは、
とうてい不可能でしょう。
しかし、それでも、
そのような目標に向けて、世界各国が努力をすれば、それなりの
前進が望めますし、
今後そのような目標を通して、地球規模における生態系の研究が、
どんどん活発になって行けば良いなと思っています。
今年の10月に、名古屋で行われる「COP10」において、
どんな「2020年目標」が採択されるのか、目が離せません!
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