温暖化対策法案の審議入り  
                            2010年5月2日 寺岡克哉


 エッセイ422でレポートしました、「地球温暖化対策基本法案」が、

 4月20日の午後に、衆議院の本会議で、審議入りしました。



 ちなみに、いまマスコミでは、

 沖縄にある米軍基地の移転問題で、すごく賑(にぎ)わっています。



 が、しかし、

 温暖化対策法案の問題も、今後の日本経済のあり方を決めていく
上で、

 ものすごく重要です!



 正直な話・・・ 

 おそらく経済界や労働組合の関係者は、沖縄の基地問題よりも、

 温暖化対策法案がどうなるのかを、心配しているだろうと思います。


            * * * * *


 ところで、温暖化対策に関する法案は、


 政府による、「地球温暖化対策基本法案」のほかに、

 自民党による、「低炭素社会づくり推進基本法案」や、

 公明党による、「気候変動対策推進基本法案」というのも、

 国会に提出されて、審議されています。



 それぞれの法案について細かく見れば、色々なことが書かれて
いるのでしょうが、

 いちばん重要なところを比べると、次のようになります。



 まず、政府案については、これまで何度も話しましたように、

 「2020年までに温室効果ガスを、1990年比で25%削減する」
という目標になっています。

 ただし、これには、

 「すべての主要国が意欲的な削減目標に合意した場合に設定する」
という、「前提条件」がつけられています。



 自民党の案は、

 2020年までの削減目標が、2005年比で15%です。

 これは1990年比にすると、8%の削減に相当します。

 つまり、前 麻生政権のときから、まったく変わっていません。



 そして公明党の案は、

 民主党とおなじく、2020年までに1990年比25%削減ですが、

 しかし、これには、

 「すべての主要国が意欲的な削減目標に合意した場合に設定する」
という「前提条件」がなく

 「他国の取り組みにかかわらず、25%削減する」というのを、

 中期目標として揚げています。



 これら、上の3つの法案を、

 削減目標のゆるい順にまとめると、以下のようになります。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          2020年までの削減目標    前提条件

 自民党 案    1990年比  8%       なし

 政府  案    1990年比 25%       あり

 公明党 案    1990年比 25%       なし
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 上の表をみると・・・  自民党は、「やる気なし」ですね。



 ところで驚いたのは、公明党の案が、政府案よりも、さらに厳しい
ものになっていることです。

 というのは、政府案には「前提条件」があるのに、公明党の案には、
それが無いからです。

 おそらく、これが「公明党の本心」だったのでしょう。

 公明党の斉藤鉄夫さんが、以前に環境大臣をやっていたときの
言動を今にして思えば、何となく察しがつきます。



 しかし、それにしても、

 前の自公連立政権のときは、1990年比8%削減案などに、

 公明党がよく賛成したものだと、不思議に思えてなりません。

 おそらく公明党は、「かなり無理をしていた」のではないでしょうか。



 こと、温暖化対策で見るかぎり、

 公明党は自民党に協力するよりも、民主党と連立を組んだ方が、

 よほど政策に矛盾がなく、すっきりと自然な感じがします。



 しかしとにかく、このような状況だと、

 法案を決議するときに、自民党議員の票と、公明党議員の票が、
割れることになります。

 なので、

 政府による「地球温暖化対策基本法案」が国会を通過するのは、

 ますます確実になるでしょう。


              * * * * *


 以上のように、

 ほぼ間違いなく、「政府案」が国会を通ると思いますが、

 その政府案に対して、公明党や共産党から、いろいろな批判が
出ています。



 その中でも、

 とくに重要で、公明党と共産党の両方に共通していたのは、

 「すべての主要国が意欲的な目標に合意した場合に設定する」

 という前提条件を、無くすることについてでした。



 たとえば公明党の、斉藤鉄夫 政務調査会長(前環境相)は、

 「前提条件を外し、公明案のように、国際的動向、最新の科学的知見
等を勘案し、必要があると認められるときには、中期目標を見直すこと
ができるとする規定を設ける方が自然だ」と、批判しました。


 それに対して、鳩山首相は、

 「削除あるいは見直す考えはない」と、答えています。



 また共産党の、笠井亮 衆議院議員は、

 「これ(前提条件)は、旧政権が目標設定を避ける口実にした理屈と
まったく同じで、温暖化対策に激しく抵抗している一部の企業や大企業
の主張そのものだ」と、批判しました。

 そして、

 「共通だが差異ある責任の原則にのっとり、他国がどうであれ、日本
が先進国としての責任を果たすべき」と述べ、

 前提条件を削除することを求めました。


 これに対して、鳩山首相は、

 「日本だけが高い目標を掲げても気候変動を止めることはできない」

 「前提条件は必要」と、答えています。


           * * * * *


 この問題について、私は思うのですが・・・


 温室効果ガスの削減にたいして、日本が「前提条件」をつけると、

 アメリカや中国から、「なにも確約していないのと同じだ!」

 と、思われてしまうかも知れません。



 しかし、「前提条件」を無くしてしまうと、

 アメリカや中国に、「日本がやりたいなら、ご自由にどうぞ!」

 と、やり過ごされる可能性もあるでしょう。



 そこで、どうするかですが、

 (次のことは他の人も言っていますが)たとえば日本も、

 EUのように「2段構え」にするのが、良いように思えます。



 つまりEUの場合は、

 他国の取り組みにかかわらず無条件に、1990年比で20%削減し、

 もしも他の主要国が、意欲的な削減をするのならば、EUの削減目標
を30%に引き上げる。

 という、2段構えになっています。



 これだと、

 他の主要国から、「なにも確約していないのと同じだ!」と、思われる
こともなく、

 他の主要国に対して、「もっと温室効果ガスの削減努力をしてくれ!」
と、プレッシャーをかけることが出来るでしょう。



 日本の場合を考えてみると、

 EUと連携して、アメリカや中国にプレッシャーをかけるためには、

 他の主要国の取り組みにかかわらず、前提条件なしで、1990年比
20%の削減。

 他の主要国が、意欲的な削減をするのならば、日本は1990年比
25%の削減。

 と、いうくらいの2段構えが、

 EUとのバランスも取れていて、ちょうど良いのではないでしょうか。



 しかし、

 このような提案が、国会の審議で取り入れられるかどうかは、

 また別の問題なのですが・・・



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