地球温暖化対策基本法案
                            2010年3月21日 寺岡克哉


 先日の3月12日に、

 「地球温暖化対策基本法案」というのが、閣議決定されました。

 現在、この法案は、国会に提出されています。


 今回は、

 その「地球温暖化対策基本法案」について、考えてみたいと
思います。


 さっそくですが、

 共同通信の記事によると、「法案の要旨」は、次のようになって
いました。


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          地球温暖化対策基本法案の要旨

 1.温室効果ガス排出削減目標は、2020年までに1990年比25%
削減。この目標は、すべての主要国が公平かつ実効的な地球温暖化
防止の国際枠組みを構築し、意欲的な削減目標に合意したと認められ
る場合に設定する。50年までには、90年比80%を削減する。

 2.地球全体の排出量を50年までに少なくとも半減する目標を、すべて
の国と共有するように努める。

 3.再生可能エネルギーは、20年に1次エネルギーの供給量の10%
にすることを目標とする。

 4.温室効果ガスの国内排出量取引制度を創設。必要な法制上の
措置を地球温暖化対策税と並行して検討、基本法施行後1年以内を
目途に成案を得る。

 5.取引の排出限度の設定方法は、排出総量の限度を基本としつつ、
生産量その他事業活動の規模を表す量の1単位当たり排出量を定め
る方法も検討する。

 6.原子力にかかる施策は、国民の理解と信頼を得て推進する。

 7.税制全体のグリーン化を推進、温暖化対策税は11年度実施に
向け検討する。

 8.再生可能エネルギーで発電した電気の全量を電気事業者が一定
の価格で調達する固定価格買取制度を創設する。
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 以下、

 この「地球温暖化対策基本法案」について、私なりに思ったことを、

 お話して行きましょう。


               * * * * *


 まず、1番目の項目で、

 「2020年までに1990年比25%削減」を、法案として明記した
のは、

 すごく画期的なことです!



 たとえ、

 「すべての主要国が公平かつ実効的な地球温暖化防止の国際枠組み
を構築し、意欲的な削減目標に合意したと認められる場合に設定する。」

 という、条件が付けられたとしても、

 アメリカや中国が、あまり意欲的でない削減目標しか表明していない
現状では、

 やむを得ないでしょう。



 しかしながら、

 「じゃあ、すべての主要国が意欲的な削減目標に合意しなければ、
日本は1%たりとも削減しないのか?」

 というように、国の内外から思われると困ってしまいます。



 なぜなら、

 昨年に行われた「COP15」などの議論を見ると、

 「すべての主要国による意欲的な削減目標の合意」など、

 なかなか実現しそうにないからです。



 なので、

 「他の国がどうであっても、日本がこれだけは絶対に削減する!」

 という目標も、明記した方がよいでしょう。

 その数値として、いまの世界状況を見れば、

 EUとおなじ「1990年比20%削減」が、いちばん妥当ではないかと
思います。


              * * * * *


 3番目の項目で、

 「再生可能エネルギーは、20年に1次エネルギーの供給量の10%
にすることを目標とする」

 と、あります。

 これは、法案の原文を調べてみると、「水力発電」も含めたパーセン
テージになっていました。



 一方、現時点での状況は、

 1次エネルギーにおける再生可能エネルギーの割合が、水力発電も
ふくめて、「5%」ていどになっています。

 だから今後10年で、それを2倍にすると言うことなのでしょう。



 しかしながら、法案要旨の第1項目の最後で、

 「2050年までには、90年比80%を削減する」と、明記してあります。

 これを、原子力にあまり頼らないで実現するためには

 再生可能エネルギーの割合を、もっと速いペースで増加させる必要が
あるでしょう。



 ところで・・・ EUは2020年までに、

 全エネルギー消費に占める、再生可能エネルギーの割合を、20%に
するという目標を揚げています。

 しかも、先日の3月11日にEUが発表した、「2020年における見込み」
では、

 その目標をさらに上回って、20.3%になるそうです。



 それと比べれば、

 日本における、再生可能エネルギーにたいする取り組みは、

 「見劣り」していると言うか、「出遅れている」という感じが、

 どうしても否めません。


                * * * * *


 5番目の項目で、

 「取引の排出限度の設定方法は、排出総量の限度を基本としつつ、
生産量その他事業活動の規模を表す量の1単位当たり排出量を
定める方法
も検討する」

 と、書かれています。

 この太字の部分は、「原単位方式」と言われるものですが、これは
問題が大ありです!



 なぜなら、「原単位方式」というのは・・・

 たとえば1つの製品をつくるのに、1トン(1000キログラム)の二酸化
炭素を出すもの(たとえば自動車など)が、あったとしましょう。

 その同じ自動車を、900キログラムの二酸化炭素排出でつくることが
出来れば、1台あたり100キログラムの削減になります。

 この自動車を10台生産すれば、100キログラムの10倍で、1トンの
削減量になります。

 そして100台生産すれば、二酸化炭素の削減量は、10トンになるの
です。



 このように「原単位方式」では、生産量を増やせば増やすほど、

 実際の排出量が多くなるにもかかわらず、二酸化炭素をたくさん削減
したことに、なってしまいます。

 そしてこれが、

 4番目の項目で揚げられている、「温室効果ガスの国内排出量取引
制度」と絡むと、

 一体どうなるでしょう?



 おそらく、

 自動車を1台生産して、900キログラムの二酸化炭素を排出すれば、
売ることのできる二酸化炭素は100キログラム。

 10台生産して、9トン排出すれば、売ることができるのは1トン。

 100台生産して、90トン排出すれば、売ることができるのは10トン。

 ・・・・ ・・・・

 という具合になるでしょう。



 つまり、

 二酸化炭素を、たくさん排出すればするほど、

 売ることができる二酸化炭素量が増えて、お金が儲かるのです!




 こんなことでは、

 企業は率先して、二酸化炭素を大量に排出するようになるでしょう。

 「原単位方式」というのは、そのような、まったく矛盾したことになって
しまう可能性も、

 大いにあるのです。


               * * * * *


 6番目の項目に、

 「原子力にかかる施策は、国民の理解と信頼を得て推進する

 と、あります。



 が、しかし私は、

 たとえ「国民の理解と信頼を得て」という条件がついていても、

 原子力の「積極的な推進」には反対です!



 たしかに、原発をゼロにすることは出来ないでしょう。

 しかし原発は、地震や事故などで長期に停止すると、その代わり
として「火力発電」を使わなければなりません。

 そうなれば、二酸化炭素の排出が増加してしまいます。

 そして事実・・・ 日本の原発には、そのような前科があるのです。



 だから、

 ヨーロッパなどと違って、地震の多い日本では、

 原発が「安定した電源」だとは、決して言えないでしょう。



 さらには、「放射性廃棄物」という深刻な問題もあるので、

 原発は、これ以上増やさないようにするか、だんだん減らして行く
方針になってもらいたいと、

 心から願ってやみません。


               * * * * *


 8番目の項目に、

 「再生可能エネルギーで発電した電気の全量を電気事業者が
一定の価格で調達する固定価格買取制度を創設する」

 と、ありますが、これには大賛成です。



 「再生可能エネルギーの普及」のため、

 とくに「大規模太陽光発電の普及」のため、

 そして、原子力発電をあまり増やさないために、

 ぜひとも、

 「固定価格買取制度」を、推進してもらいたいと思います。


               * * * * *


 以上、

 先日に閣議決定された、地球温暖化対策基本法案について、

 私なりに思ったことを、好き勝手に申し上げました。



 たしかに、

 「25%削減における、すべての主要国の前提条件。」

 「再生可能エネルギー導入量の見劣り。」

 「原単位制度による”骨抜き”の恐れ。」

 「原発の推進。」

 など、気になるところがあります。



 しかしながら、それでも、やはり全体的にみると、

 「1990年比25%削減の明記。」

 「温室効果ガス排出の、総量規制が基本。」

 「再生可能エネルギー全量の、固定価格買取り制度の導入。」

 など、

 前自民党政権のときに比べれば、「画期的に前進している」のでは
ないかと思います。



 今後、

 国会でいろいろな議論が行われるでしょうが、とくに重大なトラブルが
発生しない限り、

 この「地球温暖化対策基本法案」が国会を通過するのは、まず間違い
ないでしょう。



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