ハイチ地震に思うこと  
                               2010年1月24日 寺岡克哉


 先日・・・

 ハイチという国で、ものすごく大きな地震がありましたね。

 死者の数は、10万〜20万人。

 家を失った人々が150万人。

 被災者の総数は300万人。

 と、見られるという報道がされました。

 死者の数で比べてみても、阪神大震災の10倍を超える、
ものすごく大きな被害です。



 しかし、それに対して・・・

 たんなる一個人にすぎない私が、実際にできることと言えば、
たかが知れています。

 そんなことを考えると、

 「個人の無力さ」というのを、じつに痛感してしまいます。



 そうではありますが、

 しかしそれでも、とても微力ながら、せめて私のできることとして、

 ユニセフへの募金を通じ、ほんの少しですが、私も協力させて
頂きました。

 一人でも多くの方が助かりますように、心から祈っております。


             * * * * *


 ところで・・・

 このたびの大災害について、ちょっと思うことがありました。

 それは、

 いま話したような「個人の無力さ」も、そうなのですが、

 それとは別に、

 地球温暖化による被害も、同じような状況になるのではないか?

 だから、

 それに向けた教訓として、この大惨事を捉えておくべきでは
ないのか?


 ということです。


 今回は、そのことについて、お話したいと思いました。


              * * * * *


 ハイチの地震から、まず私が第一に、

 教訓として受け取らなければならないと、つよく感じたのは、

 「治安の悪化」についてです。



 というのは、

 私がこれまで、地球温暖化問題をいろいろと調べてきたのに、

 治安維持の観点については、すっぽりと抜け落ちていたからです。

 まだまだ私も、「平和ボケしているのだなあ」と、思い知らされた
わけです。



 たしか、阪神大震災のときは、

 大規模な暴動や、犯罪の多発などは、無かったように記憶しています。

 しかしながら・・・

 地球温暖化による海面上昇と、巨大な台風による高潮や、はげしい豪雨
などの相乗効果による、10万人規模の死者がでるような洪水。

 つまり、阪神大震災の10倍以上の災害が起こったら・・・

 あるいは、

 前回のエッセイ413で話しましたが、もしも5000万人が餓死するような
食糧不足に見舞われたら・・・

 いくら日本でも、犯罪や暴動などが多発するのではないかと、思えてしまう
のです。



 地球温暖化による自然災害だけでなく、治安の悪化による人災

 これに対する分析は、

 当然なのかも知れませんが、「科学的な研究」では為されていない
ように思えます。

 そのような「血なまぐさい研究」というのは、科学の分野ではなく、
治安維持や安全保障の分野。

 おそらく、警察や軍隊(日本の場合は自衛隊)などが、行っている
のでしょう。



 地球温暖化の問題に関して、

 このような「治安の問題」というのも、知っておく必要があるのでは
ないでしょうか。

 今回のハイチ地震をとおして、私はそう思うようになりました。


              * * * * *


 また、ハイチの地震では、

 空港や、船の港などが大きな被害をうけ、

 救援物資を運ぶための飛行機や船舶が、

 なかなか被災地に、たどり着くことができません。



 そのため、

 300万人もの人々が、食料不足に見舞われているのに、

 十分な食料を届けることが、まだ出来ないでいます。

 そのような映像を、テレビや新聞などで見た人も多いでしょう。



 私は、その光景をみたとき、

 IPCC第4次報告書(第二作業部会)の、以下の文章が頭をよぎった
のです。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 農業生産は、食料へのアクセスも含めて、気候の変動と変化によっ
て、多くのアフリカ諸国及び地域で激しく損なわれると予測される。

 農業適地の面積、栽培可能期間の長さ及び農作物生産可能量が、
半乾燥地域及び乾燥地域の縁に沿って減少することが予測される。

 このことは、この大陸において、食糧安全保障に一層の悪影響を
与え、栄養失調を悪化させる。

 いくつかの国において、降雨依存型農業からの収穫量は、2020年
までに50%程度減少し得る。
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 この文章を見ただけでは、

 あまりにも無機的、客観的に書かれているので、

 一体どんなことがアフリカで起こるのか、

 実感として伝わって来ないように思います。(少なくても私は
そうでした。)



 しかし、

 ハイチ地震の映像を見たとき、上の文章の内容について、

 「そうだったのか!」

 「ハイチ地震よりも、さらに大変なことになるのだ!」

 と、(少しですが)実感的に、把握することが出来たのです。



 そしてまた、前回のエッセイ413で話したように、

 もしも、3℃以上の地球温暖化が起こってしまい、

 日本が、どこの国からも食料が輸入できなくなったら・・・



 いまハイチで起こっている、悲惨な状況と同じような、

 いや、もっとそれ以上の、

 ものすごく悲惨な事態に、日本が陥ってしまうかも知れません。

 そんな恐ろしい想像も、私の頭をよぎってしまいました。


                * * * * *


 さらにまた、

 ハイチでは地震によって、たくさんの負傷者が出たため、

 医師や医薬品がまったく足りず、医療体制が「お手上げ状態」に
なっています。

 そのような映像も、よくテレビで流されていましたね。



 ものすごい数のケガ人がいて、医療体制が完全にマヒしている
という、

 とても恐ろしい光景です。

 この先さらに、衛生環境の悪化から、疫病などが流行することも
考えられ、

 まったく予断を許しません。



 そのような光景を目にしたとき、次のことが、私の頭をよぎりました。

 つまり、

 IPCCの第4次報告書(第二作業部会)では、1990年にくらべて、
世界の平均気温が3℃くらい上昇すると、

 「医療サービスへの重大な負荷」が、かかるとしています。



 しかしながら、

 この「医療サービスへの重大な負荷」とは、いったい何を意味している
のでしょう?

 3℃も気温が上昇してしまったら、

 (食料自給率がこのままだと)日本では、5000万人が食糧不足になり、
さらにアフリカでは、もっと悲惨なことになるでしょう。

 また「洪水」も増加し、毎年毎年、世界で何100万人という人々が、
被害に遭うようになります。

 そのため、

 栄養失調や自然災害による健康被害者が、世界中に溢(あふ)れるで
しょう。



 医療サービスへの重大な負荷・・・  これは、もしかしたら、

 いまハイチで起こっているような、「医療体制の完全なマヒ」を意味する
のでしょうか?

 もしそうだとしたら、ものすごく大変なことです!

 やはり、IPCC報告書のような科学者の書くものは、いまひとつ実感が
湧いてきませんね。


            * * * * *


 ハイチの地震から、私たちが得られる教訓。

 治安の悪化、食料の不足、医療体制のマヒ・・・

 これら、

 科学的な研究報告からでは、実感として伝わってこないような、

 地球温暖化による「被害の実相」が、

 今回の大災害から、見えてくるのではないでしょうか。



 日本でも、地球温暖化による大災害がやってくる前に、

 このような海外の貴重な経験を、これからフルに生かして行くべきだと、

 とても強く思います。



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