日本の中期目標 9
2009年5月31日 寺岡克哉
前回でも、お話しましたが、
「中期目標に関する意見交換会」(タウンミーティング)での
意見分布は、
1990年比 「+4%」支持が、7割強
同 「−25%」支持が、2割強
でした。
(以下、削減目標値は1990年比をつかいます。)
* * * * *
その後、「中期目標に対する意見の募集」(パブリックコメント)
の詳しい集計結果も、発表されました。
それによると、1万671通の意見書が寄せられたうち、
「+4%」 支持が7937通で、全体の74.4%
「−25%」支持が1389通で、全体の13.0%
と、なっています。
私は、この情報を知ったとき、
タウンミーティングの意見分布よりも、さらに分が悪くなっていたので、
たいへん大きな「危機感」を持ちました!
というのは、前回のエッセイ379でお話しましたように、
もしも「+4%」案が、日本の中期目標として決まってしまったら、
それは国際感覚からすると、ものすごく非常識であり、
世界から嘲笑されるどころか、世界中を敵に回しかねないと思う
からです。
* * * * *
しかしながら、そんな状況の中、
政府による「世論調査」の結果も、新たに発表されました。
この調査は、無作為抽出で選んだ全国4000人への個別面接を行い、
1222人から有効回答が得られたものです。
それによると、
「+4%」 支持 15.3%
「−7%」 支持 45.4%
「−15%」支持 13.5%
「−25%」支持 4.9%
分からない 20.9%
と、なっています。
タウンミーティングやパブリックコメントにくらべると、ずいぶん様子が
ちがいますね。
無作為抽出による世論調査では、「−7%」の支持がいちばん多く、
全体の半数ちかくになっています。
また、「−15%」と「−25%」の支持を合わせれば、「+4%」の支持
よりも多くなっています。
私は、これを見たとき、少しだけホッとしました。
やはり、タウンミーティングや、パブリックコメントの方では、
「産業界による働きかけ」が、ずいぶんあったのではないかと推察
されます。
* * * * *
いちばん肝心の人である麻生首相は、これらの意見も参考にして、
中期目標を「6月中旬までに決める」と、言っています。
麻生首相はまた、このときの発言の中で、
温暖化対策による「国民への負担」と、「負担しなかった場合の負担」
ということについても、言及していました。
負担しなかった場合の負担・・・
これはつまり、「温暖化対策を行わなかった場合の被害」のこと
ですね。
もしも麻生首相が、そのことについても深く考えているのならば、
すこしは安心できるかも知れません。
が、しかし、
最後のフタを開けてみるまで、楽観と予断は許されませんね。
環境省が最近になって、
温暖化対策を取らなかった場合の被害予測を、発表しました。
それについては、また後の機会にレポートしたいと思います。
(しかしなぜ、タウンミーティングやパブリックコメントの前に発表しな
かったのかと、ちょっと不信に感じるところもあるのですが・・・ )
* * * * *
ところで私は、札幌でのタウンミーティングに参加したときから、
うすうす感じていたのですが・・・・
今回の中期目標に関する議論では、
農業や漁業に携(たずさ)わっている人々の意見が、
まったく反映されていないように思います。
近年では、温暖化が進んできて、
農業をやっている人々は、農作物の育ち方や、収穫量、そして米の
味などが、変わって来ていることを感じていますし、
漁業をやっている人々は、昔には見られなかった南方の魚が、網に
かかるように、なって来ています。
だから、このような人たちが声を発すれば、また違った世論が形成
されるように思えるのです。
そのような観点から、中期目標における議論の流れを、あらためて
眺めてみると、
経団連などの、おもに製造業界の声ばかりが大きくて、
農協や漁協、あるいは森林組合などからの、中期目標に対する
「組織的な意見」が、ほとんど見られないのは、
まったく不可解です!
さらには、政府内での議論をみても、
経済産業省と、環境省は参加しているのですが、農林水産省が入って
いません。
これは、きわめて異常であると、言わざるを得ません!
なぜなら、
農業への影響。
(気温の上昇によって、米の生産が落ちたり、味が悪くなったり、
それまで育っていた農作物が育たなくなったり、病害虫が拡大したり
する問題。)
漁業への影響。
(水温の上昇や、海流の変化によって、獲れる魚の種類が変わった
り、漁獲量が減ったりする問題。)
食料自給率の問題。
(日本の食糧自給率を40%の低いままにしておくと、気候変動で
世界の食糧生産が低下したときに、今までと同じように食料が輸入
できなくなるかも知れません。)
森林による二酸化炭素の吸収。
(植林や間伐を適切におこなって、国内の森林を育成し、二酸化炭素
の吸収を高めること。)
農業廃棄物の利用。
(稲藁や、もみ殻、家畜の糞尿などの有効利用。)
バイオエタノールの生産。
(食糧生産との兼ね合いや、生産調整による廃棄農産物の有効利用。)
林産廃棄物の利用。
(製材のときに出る木屑や、間伐材などの有効利用。)
などなど、
農林水産省や、農業や漁業や林業に携わっている人々は、
地球温暖化による影響や、温暖化対策において、
とてもとても、深くかかわっているからです。
それなのに、
そのような人たちの意見が、まったく繁栄されないのは、
やはり、「ものすごく不可解」だと思わざるを得ません!
中期目標に対する、これまでの議論には、
「温暖化対策を取らない場合の被害」のことも含めて、
なにか、「根本的なところが抜け落ちている」ような気がして
なりません!
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