日本の中期目標 8
2009年5月24日 寺岡克哉
ここでは、中期目標に対する、
(一般の?)人々の意見や、経済界の意向などについて、
まとめて置きたいと思います。
* * * * *
まず、4月20日〜5月13日まで、
日本の各地(東京、名古屋、大阪、札幌、福岡)において、
「中期目標に関する意見交換会」(いわゆるタウンミーティング)
が、行なわれていました。
すべての会場を合わせると、一般参加者は、およそ1000人ていど
になったそうです。
その中で、意見を発言できたのは、おそらく100人くらいでしょう。
(※ 未確認ですが、108人という情報があります。)
そして、それら意見を発言した人々のうち、
「1990年比 +4%案」 を支持した人が7割強で、
「1990年比 −25%案」 を支持した人は2割強でした。
(※ 以下、このエッセイでは1990年比の値をつかいます。)
どの会場においても、
−7%や−15%などの、「中間的な案」への支持は、ほとんど無く、
意見が両極端に分かれる形となりました。
私は、札幌での意見交換会に参加して感じたのですが・・・
意見を述べていた人々は、
(多数派の)電力会社や製鉄会社などの企業人か、
(少数派の)環境保護団体の人だったように思います。
そのため、意見が大きく2つに分かれたのでしょう。
(※ 意見を述べるときは、氏名と所属を言うルールになっていまし
たので、どんな人の発言なのか、あるていど分かります。もっとも、
「一会社員」とか「一納税者」、「一家庭人」などのような、具体的には
分からない所属を言った人もいましたが・・・ )
そして例えば、この意見交換会では、
農業や漁業などに携(たずさ)わっている人の意見は、
皆無だったように思います。
農業や漁業に携わっている人々は、
作物の育ち方が、だんだん変わって来ていることや、
獲れる魚の種類や、大きさなどが変わって来ていることを、
毎日の仕事や、日々の暮らしのなかで実感しています。
だから、そのような人たちが意見を述べれば、
今回の意見交換会とは、またちがった意見の分布に、
なったのではないかと思います。
* * * * *
ところで5月16日には、政府が国民に広くもとめていた、
「中期目標に対する意見の募集」(パブリックコメント)の受付も、
終了しました。
こちらは、1万671通の意見書がよせられ、
その約3分の2が、「+4%案」を支持していたそうです。
そして2番目に多かったのが、「−25%案」の支持でした。
これも、産業界による「組織的な投書」が、あったのかも知れません。
しかし一方、
とうぜん環境団体の人々も、声をかけ合って意見書を送ったことで
しょう。
* * * * *
さて次に、
新聞各社による、これまでの報道をまとめてみると、
それぞれ経済団体が、以下のような主張をしていることが分かり
ました。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
団体名 主張している意見
日本経団連 「+4%案」が最も合理的。
日本商工会議所 「+1〜−5%案」を支持。
経済同友会 「−7%案」にするべき。
日本鉄鋼連盟 「+4%案」を支持。
電気事業連合会 「+1〜−5%案」よりも高い削減目標は、
実現可能性に疑問。
石油連盟 「+4%案」が妥当。
日本自動車工業会 「+1〜−5%案」を支持。
セメント協会 「+4%案」を支持する意向。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
こうして見ると、やはり、経済団体は総力をあげて、
中期目標の削減値を、「低いものにしよう」としているのが分かり
ます。
とうぜん、政府などに対しても、
いろいろな手段を尽くして、そのような働きかけをしていると見て
間違いないでしょう。
* * * * *
いま話したように、
「産業界による働きかけ」が、色々とあったのは確かでしょう。
しかし、そうだとしても、
意見交換会やパブリックコメントにおいて、
「+4%案」の支持が、圧倒的に多かったのには驚きます!
というのは、国際的な常識から考えて、
「+4%案」を、日本の中期目標として世界に表明するのは、
絶対にムリだからです。
なぜなら、この案は、
京都議定書における削減目標よりも、明らかに後退しており、
日本が、温暖化対策を前進させることを、もはや「放棄した」にも
等しいからです。
また、京都議定書を取りまとめた議長国としても、まったく立つ瀬が
無くなるでしょう。
斉藤環境大臣も、
「そんな目標を出したら、世界の笑いものになる」と言っています。
が、しかし私は、
日本が笑いものになるどころか、
「世界中を敵に回してしまう!」と思っています。
もしも「+4%案」を、日本の中期目標などにしたら・・・
ちかい将来、地球温暖化の影響がだんだん深刻になるにつれて、
日本への経済制裁や、日本製品の不買運動やボイコットなどが、
世界中で起こるようになるかも知れません。
また、
「海面上昇による影響」がとくに深刻な国々や、
「気候変動による干ばつ」で食料不足になる国々などの、
「大きな被害」が発生する地域の人々から、ものすごく恨まれる
ことになるでしょう。
たとえば、IPCC第4次報告書によると、
アフリカでは、2020年までに、7500万人〜2億5000万人の人々
が、気候変動に伴う増加する水ストレスに曝(さら)されると予測されて
います。
また、アフリカのいくつかの国々において、降雨依存型農業からの
収穫量は、2020年までに50%程度減少し得るとしています。
そして、この大陸においては、食料安全保証に一層の悪影響を与え、
栄養失調を悪化させるとしています。
このように、
中期目標がターゲットにしている、2020年までにおいてさえも、
「すごく深刻な被害」が起こる国々があるのです!
このような世界状況のなか、
もしも「+4%案」なんかを、中期目標に決めてしまったら、
そのうち日本が、「テロの標的」に、されるようになるかも知れま
せん。
あるいは、日本一国だけが、
世界中から非難の的(スケープゴート)にされる恐れも、あるでしょう。
(※ 具体的には上でも話したように、日本への経済制裁、日本製品
の不買運動、ボイコットとして表面化するでしょう。いちど日本が
「スケープゴート」にされてしまったら、いくら日本製品が低炭素で作ら
れていると主張しても、そんな理屈には耳も貸さないでしょう。これは、
日本で流行っている「いじめ」と同じ構造です。)
* * * * *
最新の報道によると、
政府は「−7%案」を軸に、本格的な議論に入ったようです。
私は、「−7%案」でも不十分だと思っていますが、
麻生総理が、世界の状況もみて、どのような決断をするのか、
注視したいところです。
目次へ トップページへ