4.6℃の気温上昇でどうなるか? 2
                             2008年10月5日 寺岡克哉


 前回のエッセイ345で、お話しましたが・・・ 

 今のまま化石燃料を使い続けてしまったら、

 IPCCの第4次報告書で挙げている予測シナリオの中では、「A1FIシナ
リオ」
に、もっとも近くなるでしょう。



 その「A1FIシナリオ」では、2100年における大気中の二酸化炭素が
1550ppm
になります。
 (もっと正確には、2100年における、人為起源の温室効果ガスとエーロ
ゾルの影響による放射強制力に相当する二酸化炭素濃度が、1550ppm
になる。)

 そして、1980〜1999年にくらべて2090〜2099年には、2.4〜6.4℃
の気温上昇になると予測されています。その中でも最良の見積もり、つまり、
いちばん可能性が高いのは4℃の気温上昇です。

 しかしそれは、1980〜1999年にくらべての気温上昇なので、これを産業
革命前からの気温上昇に換算すると3.0〜7.0℃になり、最良の見積もりは
4.6℃になります。

 つまり人類がこのまま化石燃料を使い続ければ、2100年には、産業
革命前にくらべて4.6℃の気温上昇になるというのが、現在のところ最も
可能性の高い予測だと考えられるのです!


 だから4.6℃の気温上昇によって、一体どんなことが起こると予想される
のかを知ることは、「地球温暖化の深刻さ」を実感する上で、とても大切
だと思います。

 なので、ここでは、それについて見てみることにしましょう。



 しかしながら、「地球温暖化の影響」がよく研究されているのは、大気中
の二酸化炭素濃度が450〜850ppmの辺りです。

 A1FIシナリオのような1550ppmという、ものすごくひどい場合について
の研究資料は、あまり見当りません。

 これは、まず第一に、安定化させなければならない二酸化炭素のレベル
を知ることが、研究の最重要課題だからでしょう。

 しかしそれでも、私が調べることの出来た範囲で、お伝えして行きたいと
思います。


                  * * * * *


(a)異常気象

 産業革命前にくらべて気温が4.6℃上昇すると(以下、気温上昇の大きさ
は産業革命前からのものとする)
、豪雨や洪水が、ますます頻繁に起こる
ようになります。

 その上さらに、「海面の上昇」も重なって、世界全体で毎年数百万人の人々
が、洪水の被害に遭います。
 もうすこし詳しく言えば、世界のどこかで毎年毎年、100万人規模の洪水被害
が、1年のあいだに何回も起こるのです。

 このようなことは、2.7℃の気温上昇から起こり始めると予測されていま
す。なので4.6℃の気温上昇では、そのような被害がますます頻繁に起こり、
当たり前のようになってしまうでしょう。



 その一方で、大陸の内部では「土壌の乾燥化」が進み、雨の量が減って、
「干ばつによる水不足」が起こります。

 とくに酷いのは、ヨーロッパ、北アフリカ、中東、インド、パナマなどで、河川
の水量が75〜99%も減る地域があります。

 また、南北アメリカ大陸、オーストラリア、中国東北部でも乾燥化が進むと
予測されています。

 ちなみに「2.5℃の気温上昇で、31億人が水不足の危険にさらされ
る!」
という研究報告があります。なので4.6℃の気温上昇では、それ以上
の人々が被害に遭うことが容易に想像できます。


                  * * * * *


(b)海面上昇

 100年後までに気温が4.6℃上昇すると、海面の上昇は46センチぐらい
になります。

 しかし、海面上昇は100年後に止まるわけではありません!

 その後もずっと、何百年も、さらには千年以上も続きます。

 そして最終的には、グリーンランド氷床がすべて融解し、7メートルの海面
上昇になるでしょう。

 また、恐らく、西南極氷床も融解する可能性が高いです。そうすると、さらに
海面が5メートル上昇します。

 両方を合わせると、最終的には12メートルの海面上昇を覚悟しなけれ
ばならない
かも知れません。



 もしも、そうなったら・・・

 東京、大阪、名古屋、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、
リオデジャネイロ、サンパウロ、ロンドン、カイロ、マニラ、ジャカルタ、上海
などの大都市が、ことごとく水没してしまうでしょう。

 その経済的な被害は、想像を絶するものになると思います。


                  * * * * *


(c)生態系

 気温が2℃上昇すると、最大で30%の種が、絶滅の危険に曝(さら)
される
ようになります。

 3.6℃の気温上昇では、生態系の40%ていどが影響を受けることに
より、陸域生物圏が、正味において「二酸化炭素の放出源」になってしま
います。

 つまり、
 植物の「光合成による二酸化炭素の吸収」から、
 動物や植物の「呼吸による二酸化炭素の排出」を差し引いた、
 「正味の量」において、陸上生態系がニ酸化炭素の排出源になってしまう
訳です。

 もしもそうなったら、もはや人類のだす二酸化炭素をゼロにしても、大気中
の二酸化炭素が増加して行きます。つまり、もう人類には、どうすることも
出来なくなってしまうデッドラインです。

 さらに4.6℃の気温上昇になれば、地球規模での重大な絶滅が起こり
始めます。
 この「地球規模での重大な絶滅」とは、具体的にどんなことが起こるのか今
ひとつ不明ですが、おそらく「地球の生態系の崩壊」につながるような、もの
すごく大規模な絶滅が起こるということなのでしょう。



 一方、海洋では、4.6℃の気温上昇で「広範囲にわたるサンゴの死滅」
が起こります。

 しかしながら、温度の影響だけでなく、さらに海の場合は「酸性化の影響」
も受けます。
 つまり、二酸化炭素が海水に溶けることによって酸性化し、サンゴの骨格や
貝殻などの「炭酸カルシウム」で出来ている生物組織が、海水に溶けてしま
うのです。そうなると当然ですが、サンゴや貝は生きることが出来なくなり、
死滅してしまいます。

 また炭酸カルシウムは、サンゴや貝だけでなく、イカの平衡石や、魚の耳石
など、平衡バランスを保つための器官にも使われています。さらには、ある種
のプランクトンの中に、炭酸カルシウムの殻をもつ者があります。
 なので、炭酸カルシウムが海水に溶けるほどの酸性化は、「海の生態系
の壊滅」を意味します!


 ところで炭酸カルシウムは、海水の温度が低くなるほど、より少ない二酸化
炭素でも溶けるようになります。
 たとえば、大気中の二酸化炭素が450ppmになると、南極や北極の冷たい
海では、酸性化の影響が避けられなくなります。
 二酸化炭素が640ppmになると、水温が2℃以下の海域で、炭酸カルシ
ウムが溶けるようになります。
 そして「A1FIシナリオ」の1550ppmでは、水温が25℃でも、炭酸カルシ
ウムが溶ける寸前になってしまいます。

 だから1550ppmという二酸化炭素濃度においては、ほとんどの海域
で「生態系の壊滅」が起こる
でしょう。



 その他には、

 3.6℃の気温上昇で、世界の沿岸湿地の約30%が消失するという
予測がされています。なので4.6℃の気温上昇では、さらに多くの沿岸湿地
が失われることになるでしょう。

 またアマゾンの熱帯雨林は、およそ2℃の気温上昇で、乾燥化のために
「サバンナ」に変わってしまうと予測されています。なので、4.6℃も気温が
上昇すれば、アマゾンが砂漠化してしまうかも知れません。
 とにかく、そんな激しい気温上昇が起これば、アマゾンの多様な生態系が
壊滅してしまうのは間違いありません!



                  * * * * *


(d)農業

 1.5〜3.5℃の気温上昇では、農作物の生産量が増加すると予測され
ている地域(主に中緯度や高緯度)もありますが、しかしそれを超えると、
世界の農業生産量が「減少」に転じます。

 なので4.6℃もの気温上昇になると、人口の増加も重なって、世界的な
食糧不足が起こる
のは確実でしょう。

 しかも低緯度の地域は、さらに影響が大きく、1.5〜2.5℃の気温上昇
でも農業生産が低下すると予測されています。

 とくにアフリカの被害がひどく、1.3℃の気温上昇でも、いくつかの国々に
おいて農業生産量が50%ていど減少します。だから6.4℃も気温が上昇
すれば、そのような地域の農業は壊滅してしまうでしょう。

 また、中央アジアや南アジアでは、およそ2℃の気温上昇で、農業生産量
が最大で30%ていど減少します。だから、これらの地域(とくにインド周辺)も、
4.6℃の気温上昇が起これば、かなり大きな被害になると予想されます。


                  * * * * *


(e)健康被害

 地球温暖化が進行すると、

 洪水による疫病の発生。
 干ばつによる栄養失調。
 高温による熱中症や食中毒。
 マラリアなど熱帯性の病気が、温帯地域にも広がること。
 光化学スモッグによる、心臓病や呼吸器疾患。(気温が高くなると、光化学
スモッグが発生しやすくなる。)

 などの健康被害が増えて行きます。それらによる患者の増加で、とうぜん
ながら、病院などの医療機関に大きな負担がかかることになります。

 たとえば3.4℃の気温上昇になると、医療サービスに重大な負荷
かかり始めると予測されています。

 この「医療サービスへの重大な負荷」というのも、具体的には今ひとつ分か
らないのですが、
 しかし、さらに4.6℃もの気温上昇が起これば、ますます患者が増え、それ
に医療サービスが追いついて行けなくなる可能性が考えられます。

 とくに発展途上国では、人口の大半が、病気になっても医療機関で診て
もらえなくなるかも知れません。また、薬や医療器具なども、極度に不足する
はずです。


                  * * * * *


 以上、あまり具体的なことは詳しく分かりませんでしたが、4.6℃の気温
上昇で一体どうなるのかを、とても大ざっぱに見てきました。

 その結果、だいたい間違いなさそうなことは、

 地球規模での重大な絶滅がおこり始め、
 アマゾンの生態系は壊滅し、
 毎年、何百万人もの人々が洪水に襲われ、
 31億人以上の人々が、水不足の危険にさらされ、
 世界的な食糧不足がおこり、
 患者の増加によって医療機関がマヒし、
 最終的には海面が12メートル上昇して、海沿いにある世界中の主要都市
が、ことごとく水没してしまうでしょう。



 具体的な死者数や経済損失は、ちょっと分かりませんでしたが、しかし例え
ば第二次世界大戦などは、はるかに超える被害になるのは確実でしょう。

 まさに、目を覆いたくなるほどの被害です!

 しかもそれは、不必要なほど故意的に悪く予測した、「最悪のシナリオ」など
では決してありません。

 人類が今のまま化石燃料を使いつづければ、もっとも可能性が高いと
考えられるシナリオなのです!




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