4.6℃の気温上昇でどうなるか? 1
                            2008年9月28日 寺岡克哉


 熱波、干ばつ、激しい豪雨、洪水、生態系の異常・・・ 

 もはや現在においてさえ、すでに地球温暖化の影響が出はじめており、ある
ていどの被害は覚悟しなければなりません。

 その被害を、できるだけ小さくするためには、産業革命前にくらべて2℃
以下の気温上昇に抑える必要があります。
(しかし現在すでに、産業革命前
にくらべて気温が0.76℃上昇しているので、今後の気温上昇を1.24℃
以下に抑えなければなりません。


 そのためには、大気中の二酸化炭素を475ppmで安定させる必要があり、

 さらにそのためには、2050年までに、世界の二酸化炭素排出を半分に減ら
さなければならないのです。



 その実行方法を、ごく単純に考えてみると、

 世界のエネルギー消費を半分に減らすか、
 世界の人口を半分に減らすか、
 世界で使用するエネルギーの半分以上を、「新エネルギー」で賄(まかな)う
しかないでしょう。

 実際には、さまざまな方法を組み合わせてバランスを取り、何とか旨くやって
行くしかありませんが、
 しかしそれでも、経済や生活への影響など、かなりの覚悟をきめて取りかから
なければ、とても難しいことのように思えます。



 しかも、それがもし実行できたとしても・・・ 

 最終的には、海面が2〜3メートル上昇し、
 ほとんどのサンゴが白化し
 洪水と暴風雨による被害が増加し、
 25億人が水不足の危険に曝(さら)され、
 アフリカの多くの国々が食糧不足になるでしょう。



 しかし、それだからと言って、

 「もう、温暖化対策なんて間に合わない!」
 「2050年までに、二酸化炭素排出の半減なんてムリだ!」
 などと言って、手をこまねいて何もしなければ、地球温暖化による被害が
さらにもっと酷(ひど)くなるだけです。

 有効な温暖化対策をとることが出来なければ、ただ自然法則的に、
自動的に、情け容赦なく、どんどん地球温暖化が酷くなって行くだけ
なのです!




 今のままずっと、化石燃料に頼った社会を続けて行ったら・・・

 つまり、IPCCの言う「A1FIシナリオ」のような社会を続けて行ったら、

 1980〜1999年にくらべて2090〜2099年には、2.4〜6.4℃の気温
上昇になる可能性が高いです。

 その中でも最良の見積もり、つまり、いちばん確からしい見積もりは、4℃の
気温上昇です。

 しかし4℃というのは、1980〜1999年にくらべての気温上昇なので、これ
産業革命前からの気温上昇にすると4.6℃になります。



 ところで・・・ 

 ただ単にスローガンとして、
 「2050年までに、二酸化炭素の排出を半減しなければならない!」
 などと言われても、いざそれを実行に移すとなると(つまり炭素税などの導入
で、燃料や物価が高くなると)、多くの人にとって納得が行かないかも知れま
せん。

 しかし、このまま化石燃料を使い続ければどうなるのかを、実感するほどに
理解できれば、
 「何としてでも、2050年までに、二酸化炭素の排出を半減しなければ
ならない!」
ということが、少しでも納得しやすくなるのではないでしょうか。

 このような理由から、
 人類がこのまま化石燃料を使いつづけた場合、つまり産業革命前にくらべて
4.6℃の気温上昇が起こった場合を直視し、目を背けないようにするのも大切
だと、私は考えるようになりました。


               * * * * *


 上でも話したように、このまま人類が化石燃料を使いつづけたら、IPCC
の言う「A1FIシナリオ」に、いちばん近くなるのではないかと私は考えてい
ます。

 その理由について、ちょっとお話しましょう。

 しかしそのためには、「A1FIシナリオ」について、もうすこし詳しく見ておかな
ければなりません。



 「A1FIシナリオ」では、2100年における大気中の二酸化炭素が
1550ppm
になり、産業革命前からの気温上昇が(最良の見積もりで)
4.6℃になると予測されています。

 その「A1FIシナリオ」が、一体どんな社会を想定しているのかは、IPCCの
「排出シナリオに関する特別報告(SRES)」によると、以下のようになって
います。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 A1の筋書きとシナリオファミリーは、高度経済成長が続き、世界人口が
21世紀半ばにピークに達した後に減少し、新技術や高効率化技術が急速
に導入される未来社会を描いている。

 主要な基本テーマは、地域間格差の縮小、能力強化(キャパシティービル
ディング)及び文化・社会交流の進展で、一人当たり所得の地域間格差は
大幅に減少するというものである。

 A1シナリオファミリーは、エネルギーシステムにおける技術革新の選択肢
の異なる三つのグループに分かれる。この三つのA1グループは技術的な
重点の置き方によって以下のものに区別される。

 すなわち、
 化石エネルギー源重視(A1FI)、
 非化石エネルギー源重視(A1T)、
 そして全てのエネルギー源のバランス重視(A1B)である。

 (ここで、バランス重視は、いずれのエネルギー源にも過度に依存しないこと
と定義され、すべてのエネルギー供給・利用技術の改善度が同じと仮定して
いる)
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 上の文書について、さらに詳しく見て行きましょう。


 まず「A1FI」は、「A1」というシナリオファミリーのうちで、「化石燃料の使用を
重視した社会」という位置づけになっています。
 そして「A1シナリオファミリー」は、今後もずっと「高度経済成長が続く」よう
な社会を想定しています。
 だからA1FIシナリオは、「化石燃料の使用を重視し、高度経済成長を
つづける社会」
と言うことになります。

 ところで、すでに先進諸国では経済が低成長になっているので、「高度経済
成長がつづく」というのには、すこし違和感を感じる人がいるかも知れません。
 しかし「発展途上国」のことも考えると、世界全体においては、今後も高度
経済成長が続くとするのは妥当だと思います。

 というのは、上の2文目に「一人当たり所得の地域間格差は大幅に減少
する」とありますが、これは発展途上国の人々も、先進国なみの生活をする
ようになると言うことでしょう。

 そうすると、世界全体で見れば、かなりの高度経済成長になるはずです。



 また、上の1文目に、「世界人口が21世紀半ばにピークに達した後に減少」
とありますが、これは詳しい資料を見ると、
 2050年には87億人まで増加し、その後減少に転じて、2100年では70
億人になると想定しています。

 しかしながら、国連による人口予測(中位推計)では、2050年には93億人
に増加し、その後も緩やかではあるけれども増加が止まらず、2100年では
104億人になるとしています。

 これを見るかぎり、A1シナリオファミリーは、将来の世界人口を少なめに
見積もっている可能性があります。



 さて次に、これらのA1シナリオファミリーは、重視するエネルギーの種類に
よって、
 化石エネルギー重視(A1FI)
 非化石エネルギー重視(A1T)
 全てのエネルギーのバランス重視(A1B)
に分かれます。

 これらのシナリオについて想定されている、水力、バイオマス、風力、太陽光
などの「再生可能エネルギー」の割合を調べてみると、以下ようになっていま
した。

      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         シナリオ    2100年における再生可能
                  エネルギーの割合
          A1FI        20%
          A1T         80%
          A1B         60%

      (出典 環境危機をあおってはいけない ビョルン・ロン
       ボルグ 文芸春秋 p460)
      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 私はこの資料を見たとき、A1FIシナリオは、不自然なほど故意的に、最悪
のシナリオを想定している訳ではないと感じました。

 A1FIシナリオでは、エネルギー全体にたいする再生可能エネルギーの
割合が、2100年の時点で20%になっています。

 ちなみに1998年の実績データを見てみると、人類の使用したエネルギー
全体に対して、水力が6.6%、バイオマス0.4%、風力0.04%、そして
太陽光が0.009%の割合でした。

 だから、もしも人類の意識が変わることなく、このまま化石燃料を使い続け
るとすれば、
 再生可能エネルギーの割合が100年後で20%というのは、それほど
不自然な値ではないような気がします。

 しかも上で話したように、A1F1(A1シナリオファミリー)では、未来の世界
人口を少なく想定している可能性があります。

 だからA1FIシナリオより、さらにもっと二酸化炭素排出が増える可能性も、
決して否定できないでしょう。



 以上のような理由から、人類がこのまま化石燃料を使いつづければ、IPCC
が想定するシナリオの中では、A1FIにもっとも近くなるのではないかと私は
考えたのでした。

 つまりA1FIシナリオは、大げさに未来の地獄絵図を誇張して、人類を脅そう
としている訳ではないのです。

 そうではなくA1FIシナリオは、人類が今のままの生活を続けて行けば、
当然のように起こるべくして起こる未来図なのです!



               * * * * *


 前置きが長くなりましたが、いよいよ次回では本題の、

 A1FIシナリオにおける、いちばん可能性の高い見積もり、

 つまり、産業革命前にくらべて4.6℃の気温上昇が起こると、一体どうなる
のかについて考えてみたいと思います。



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