地球温暖化がなぜ悪いのか?
                             2008年9月21日 寺岡克哉


 「地球が温暖化して、何が悪いのか?」

 「太古の昔には、今よりもっと温暖な時期があったではないか!」

 「寒冷化して氷河期になるよりは、むしろ、地球温暖化の方が好ましい
ではないか!」

 と、こんなことを言う人々が、懐疑論者たちの中にいます。


 今回は、それについて少し考えてみましょう。


                 * * * * *


 ところで・・・ 

 このサイトでも、「地球温暖化の影響」については、エッセイ267〜316まで
延々と調べてきました。

 その結果、地球温暖化にさまざまな弊害があるのは、すでに明白です!

 だから上のような意見は、懐疑論者たちの「開き直り」としか、私には思えま
せん。



 詳しくは、エッセイ267〜316を見て頂ければと思いますが、

 ここでは、地球温暖化がなぜ悪いのか、そのいちばん危惧されていること
を、ごく簡潔にまとめてみましょう。


                 * * * * *


 さて・・・ 

 「地球温暖化が、どうして悪いのだ!」

 「恐竜が生きていた時代は、今よりもっと温暖な気候だったではないか!」

 「だから地球が温暖化したって、問題がないはずだ!」

 と、このような主張をする人たちには、共通することがあります。

 それは、「温暖化のスピード」というものを、故意的とも思えるぐらいに、
まったく無視していることです。



 たとえば・・・ 

 今までのように、化石燃料を多用して経済発展をつづけた場合。

 そのような未来社会を、人類が選択した場合は、100年で4℃の気温
上昇
が起こるとされています。

 たしかに、現在より気温が4℃高い気候など、過去の地球にはいくらでも
ありました。

 しかしながら、それがたった100年で起こるという「気温上昇のスピード」
は、かつて地球が経験したことのない速さなのです!

 だから、そのような急激な温度変化には、地球の生態系が適応できなく
なってしまいます。



 その一例として、「森林の移動速度」の問題があります。

 たとえば日本と同じくらいの緯度では、気温が4℃上昇すると、地理的に
500キロメートル南に移動したのと同じになります。

 これを逆に考えると、森林は、100年で500キロメートル北へ移動しなけれ
ばなりません。なぜなら森林は、生えている木の種類によって、「適正な温度」
と言うのがあるからです。つまり、温帯に生えている木は、熱帯の気候で育つ
ことができないからです。

 ところが森林の移動速度は、およそ100年で40キロメートルぐらいの
スピードしかないのです。

 これでは、100年で500キロメートルの移動など、できる訳がありま
せん!


 北へ逃げ遅れた森林は、高い気温のために弱り、そのうえ南方からやって
くる病害虫にことごとく被害を受け、最悪の場合は壊滅してしまうでしょう。



 ところで、「陸上の生態系」を主に担っているのは森林です。

 つまり、とても数多くの生き物が、森林によって生かされています。

 だから森林が壊滅してしまうことは、陸上生態系の壊滅を意味するのです。



 たしかに、何万年も何十万年もかけて、気温が4℃上昇するのならば、恐竜
が生きていた中生代のような、「緑の地球」になるかも知れません。

 そのような、ゆっくりとした気温上昇ならば、地球の生態系が適応できる
からです。

 しかし、たった100年で4℃も気温が上昇すれば、間違いなく「生態系の
壊滅的な被害」
が起こってしまうでしょう。

 だから温暖化の大きさというよりは、「温暖化のスピード」が本質的な問題
なのです。


 (ところで気温が4℃上昇すると、グリーンランド氷床の融解が止まらなく
なり、最終的には7メートルほどの海面上昇が起こります。そうすると、世界
中の港湾都市が、ことごとく海に沈んでしまうでしょう。これも、人類にとって
は無視できない被害です。)


                 * * * * *


 また、

 「地球の気候は、本来なら寒冷化して氷河期に向かうはずなのだから、いま
起こっている地球温暖化は、むしろ良いことではないか!」

 などという主張も、「温暖化のスピード」をまったく無視しています。



 たしかに、過去100万年における地球の気候は、温暖な「間氷期」と、寒冷
な「氷期」を何回もくりかえして来ました。

 そして現在は「間氷期」なので、自然に考えれば、これからは寒冷化して
「氷期」に向かうはずです。

 しかし、そのような「間氷期」から「氷期」に移行するスピードは、およそ1万年
〜数万年の時間スケールです。

 ところが一方、いま問題になっている地球温暖化は、たった100年の時間
スケールで進行しています。

 つまり寒冷化のスピードにくらべて、その100倍のスピードで温暖化が
進行している
わけです。



 このことから考えても、上のような主張は、まったくナンセンスなのが分かり
ます。

 ようするに、いま起こっている激しい温暖化が、ゆっくりと氷期に向かう寒冷
化によって打ち消されるのは、およそ1万年後の話なのです。


                 * * * * *


 最悪の場合・・・

  もしも今までと同じように、化石燃料をたくさん使って、高度経済成長を
進めて行ったら・・・

 そのような社会、つまりIPCCの報告書で、「A1FIシナリオ」と言われるもの
では、
 100年後の大気中の二酸化炭素が1550ppmになり、地球の平均気温
が2.4〜6.4℃上昇します。

 このシナリオにおける最良の見積もり、つまり、いちばん確からしい見積もり
は4.0℃の気温上昇ですが、最悪の場合は6.4℃の気温上昇になって
しまいます。



 しかしながら、A1FIシナリオにおける予測の幅を見るかぎり、3℃ぐらいの
気温上昇で収まる可能性も、否定できないのは確かです。

 ところがA1FIシナリオの、さらに詳しい分析(確率分布)を見てみると、

 2℃未満の気温上昇で収まる可能性は、  10.6%
 2〜3℃の気温上昇になる可能性は、    15.8%
 3〜4℃の気温上昇になる可能性は、    23.3%
 4〜5℃の気温上昇になる可能性は、    16.4%
 5〜6℃の気温上昇になる可能性は、    13.3%
 6℃を超える気温上昇になる可能性は、 20.6%

 と、なっています。上で話した2.4〜6.4℃という予測幅は、気温上昇が
その範囲に収まる可能性が66%とした場合なのです。(参考資料、ココが
知りたい地球温暖化、気温変化予測に幅があるのは)

 この確率分布を見るかぎり、今のまま化石燃料を使い続ければ、6℃
以上の気温上昇になる可能性も、決して小さくありません!




 もしも、6℃以上の気温上昇が起こってしまったら・・・

 もしそうなったら、ものすごく高い確率で、海底に大量に眠っている「メタン
ハイドレート」が融解してしまうでしょう。

 そして二酸化炭素の23倍の温室効果をもつと言われる、メタンの大量放出
によって、最終的には10℃以上の気温上昇になるかも知れません。

 さらにメタンは、酸素と結合(つまり酸化)しやすいため、大気中の酸素濃度
が激減してしまうでしょう。

 そのような激しい「気温上昇」と「酸欠」により、人類を含めた、とてもたくさん
の生物が死んでしまうのです。

 それはまさに、2億5000万年前に起こった、「PTの大量絶滅」の再来
です。(PTの大量絶滅については、エッセイ217でお話していますので、詳し
くはそちらを見てください。)



 ちなみに、PTの大量絶滅のときは、地球に棲む生物の95%以上の種が
絶滅したと言われています。

 もしも、それと同じレベルの大量絶滅が起こったら、生き残ることができる
5%以下の種に、人類が含まれるかどうか決して定かではないのです。

 人類の90%以上が死滅し、わずか数億人が生き残れたら、すごく幸運な
ことなのかも知れません。

 そしてこれは、まったく空想の話などではありません。

 人類がこのまま化石燃料を使いつづければ、かなりの確率で、本当に
「PTの大量絶滅なみ」の被害が起こってしまうのです!




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