PTの大量絶滅           2006年4月16日 寺岡克哉


 PTの大量絶滅は、今からおよそ250000000年前に起こりました。

 それは、地球の生物の95パーセント以上もの「種」が絶滅したといわれる、
生命の歴史で最悪のものです!


 ちなみにPTというのは、地質年代のペルム紀(Permian)と、三畳紀(Triassic)の
境界で起こった大量絶滅なので、それらの頭文字を取ってそう呼ばれています。

                  * * * * *

 ところで、なぜ私がこんな話をするのか、不思議に思うかもしれません。

 ところがPTの大量絶滅が起こった背景には、「二酸化炭素の増加」と「地球の
温暖化」が、とても大きく関係しているらしいのです。

 そして、もしも人類がこのまま二酸化炭素を出しつづければ、PTの大量絶滅と
同じことが起こってしまうのではないか? という、とても大きな不安が私の心を
よぎっています。

 じつは近ごろ、地球環境や温暖化についてのエッセイを書き始めたのは、その
ような動機によってなのです。

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 はるか遠いむかし・・・
 今からおよそ270000000年前の、ペルム紀後半・・・
 二酸化炭素の増加と、気温の上昇が、とつぜんに始まりました。

 二酸化炭素は、現代(産業革命前)とだいたい同じ300ppmぐらいから、2000
ppmまで一気に増加しました。
 しかし一気にといっても、20000000年ぐらいかけての増加です。だから100年
当たりにすると、0.0085ppmぐらいの増加でしょうか。

 そして気温は、今より3度ぐらい低い状態から、今より7度ぐらい高い状態まで、
つまり10度ぐらい上昇しました。
 これも20000000年かけての上昇なので、100年当たりにすれば0.00005
度ぐらいの上昇だったでしょう。

 そしてついに、250000000年前のPT境界において、その当時生きていた生物
の95パーセント以上もの種が、大量に絶滅してしまったのでした・・・。

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 20000000年もの間にわたって、なぜそんなこと(二酸化炭素の増加と、気温
の上昇)が起こったのか、私にはよく分かりません。(たぶん専門家でも、よく分か
らない所が多いのではないかと思います。)

 しかしその始まりは、「火山活動」によるものだと考えられています。火山が噴火
すると、二酸化炭素をたくさん出すのです。
 その当時のシベリアで、とても大きな火山活動のあったことが、専門家の研究に
よって分かっています。この火山活動による二酸化炭素の大量放出で、まずはじ
めに、地球があるていど温暖化しました。

 そして次に、その気温上昇が「メタンハイドレート」の融解をひき起こしたのです。
 メタンハイドレートとは、深い海の底で、メタンと水が結合し、シャーベットのよう
に固まったものです。
 温暖化によって海水の温度が上がると、このメタンハイドレートが融けて、メタン
ガスが海の底からブクブクと湧き出してくるのです。
 その当時、3000000000000トンのメタンガスが放出されたと見積もられて
います。これは、現在海底に眠っているメタンハイドレートの全体の、30パーセント
に相当するそうです。
 (つまり現在も、大量のメタンハイドレートが海底にあり、温暖化が進めばそれが
融ける可能性も十分に考えられるのです。)

 ところでメタンは、二酸化炭素の23倍もの温室効果があります。だからメタンガス
の放出によって、さらに温暖化が促進されました。そしてついに、全体で10度ぐらい
の気温上昇になったのでしょう。
 たとえ20000000年の時間をかけたとはいえ、10度も気温が上昇すれば、その
環境の変化に耐えられなかった生物は多かったろうと思います。

 その上さらに、メタンの放出は、酸素の減少をひき起こしました。
 というのは、メタンは酸素と化学反応をして、二酸化炭素と水になるからです。大
量に放出されたメタンが、大気中の酸素と結合し、その濃度を低下させたのです。

 しかも温暖化による超高温で、すでに植物は大きなダメージを受けており、よく
酸素を作ることが出来なくなっていました。そんなことも重なって、大気中の酸素
は、現在の半分ぐらいまで減ってしまいました。
 こんなに酸素が減ってしまっては、やはり、生きて行けなくなった生物も多かった
でしょう。

 たいへん大ざっぱには、大体このようなことが原因となって、PTの大量絶滅が
起こったみたいです。
 しかし他にもまだ、さまざまな原因が考えられています。いろいろな原因が複雑
にからみあって、PTの大量絶滅がひき起こされたというのが真相のようです。

 しかしながら、
 二酸化炭素の増加による温暖化が、まず最初の引き金になった!
ということだけは、多くの専門家の意見が一致しているところです。

                 * * * * *

 ところで・・・

 いまの二酸化炭素の増加がこのまま続けば、(つまり毎年0.5パーセントの
割合で増加を続ければ)、あと340年で2000ppmを突破します。

 ちなみにPTの大量絶滅のときは、2000ppmを超えるのに、20000000年
の時間をかけています。

 つまり現在は、95パーセント以上もの種が絶滅したと言われる、PTの
大量絶滅のときの、じつに60000倍ものスピードで二酸化炭素が増え
続けているのです!


 このままだと、本当にどうなるのか分かりません。
 340年なんて、地質年代から見たら、あっという間です。
 何億年後の未来からみたら、一瞬にして大量絶滅が起こったようにしか分から
ないでしょう。

 そしてこれが、私が二酸化炭素の問題をとても心配する、いちばんの理由なの
です。



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