地球温暖化の原因はCOか? 7
                             2008年8月17日 寺岡克哉


 ここでは、「宇宙線と、地球温暖化の関係」について、見て行きたいと思い
ます。

 それは、どんな話かと言えば、次のようなことです。



 ・・・地球には、「宇宙線」というのが降りそそいでいます。

 この「宇宙線」とは、宇宙に存在する放射線のことで、その正体は主に、
高エネルギーで宇宙を飛び交っている「陽子」です。

 その宇宙線が、地球の大気に衝突すると、さまざまなイオン(電気をもった
素粒子や原子核やプラズマ)を作ります。

 そうすると、それらのイオンが「雲をつくる核」となり、雲の量を増加させる
ことが考えられます。



 ところで一方、太陽の活動が活発になると、「太陽風」というのが強くなり、
それによって宇宙線が散乱されます。

 つまり太陽風が、宇宙線を蹴散らすわけです。

 (ちなみに「太陽風」とは、太陽から放出されている、電子や陽子の流れ
です。地球付近における平均的な風の速さは、秒速450キロメートルになり
ます。太陽風に含まれる電子や陽子の数は、地球の近辺で、1立方センチ
あたり5〜10個ていどです。)



 太陽風が宇宙線を蹴散らすと、当然ながら、地球に降りそそぐ宇宙線の量
も減ります。

 その結果、雲の核になる「イオン」が減り、したがって「雲の量」も減ります。

 そうすると、雲による反射が少なくなり、太陽光が地上に多くあたるように
なります。

 それで、温暖化が起こると言うわけです。



 つまり、太陽の活動が活発化すれば、宇宙線が減り、そのために雲も減っ
て、気温が上昇するという考え方です。

 その反対に、太陽の活動が沈静化すれば、地球に降りそそぐ宇宙線が
増え
、そのために雲の量も増えて、地球は寒冷化します。

 懐疑論者たちは、このような異論を唱えているのです。



 以後の議論を分かりやすくするために、今の話を表にまとめておきましょう。

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     太陽活動    宇宙線の量    雲の量    気温

      活発化      減少       減少     温暖化
      沈静化      増大       増大     寒冷化
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


                 * * * * *


 さて・・・

 たしかに、地球に降りそそぐ宇宙線の量は、太陽の活動と傾向がよく一致
しています。

 その証拠に宇宙線の量は、太陽の活動と同じように、「11年の周期」で増え
たり減ったりします。
 (ただし太陽が活発になると、宇宙線の量が減るので、その増減は太陽活動
と逆になります。)



 そしてまた、宇宙線によって作られる「イオン」が、「雲をつくる核になる」という
話も、まったく理解できない訳ではありません。

 なぜなら、その原理を応用して、宇宙線や素粒子を観測するための装置が
作られているからです。それを「霧箱(きりばこ)」といいます。

 「霧箱」は、透明な箱の中が、過飽和の水蒸気で満たされています。つまり、
ちょっとした何かの拍子で、すぐに霧の出来やすい状態にしてある訳です。

 そこに宇宙線や素粒子が通ると、ごく小さな「飛行機雲」のような、太さが1ミリ
ぐらいの細い「霧の線」ができます。

 これは、宇宙線や素粒子が通るときに作られた「イオン」が、それが通った跡
に残り、そのイオンを核として「霧」が出来るためです。



 むかし私が所属していた研究室では、宇宙線や素粒子を研究しており、学生
実験で「霧箱」を使ったこともあります。

 なので私は、上で話した懐疑論者たちの仮説には、けっこう興味があったの
です。


                * * * * *


 しかし結論から言ってしまうと、懐疑論者たちの仮説は、じつは破綻して
います。


 なぜなら前回のエッセイ338で話したように、20世紀の後半では太陽活動
が安定しており、活発化の傾向が見られない
からです。

 なので20世紀後半においては、宇宙線の量についても、一方的な減少
傾向は見られません。


 しかし、それなのに、地球の平均気温は「一方的に上がり続けている」
のです!




 つぎの表は、宇宙線の量が、およそ11年の周期で最小になったとき(つま
り太陽活動が、およそ11年の周期で最大になったとき)の、

 「宇宙線の量」と、「地球の平均気温」を比べたものです。


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    年代      宇宙線の量(相対値)   地球の平均気温(℃)

  1958年ごろ      −2.25           13.92
  1970年ごろ      −1.25           13.94
  1982年ごろ      −1.80           14.10
  1992年ごろ      −2.50           14.18
  2004年ごろ      −1.50           14.46

 「宇宙線の量」は、相対的な値で示されており、値が小さいほど(マイ
  ナスの値が大きいほど)、宇宙線の量が少ない
ことを意味します。

 (参考資料 Bard and Delaygu(2008) 、 IPCC第4次評価報告書)
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 この表を見ると、宇宙線の量と、地球の平均気温とは、相関がない(つまり
関係がない)ことが分かります。

 まず全体の傾向として、とくに宇宙線の一方的な減少は見られません。しかし
ながら、地球の平均気温は、一方的に上がり続けています。

 また、1958年ごろと、2004年ごろを比較すると、
 宇宙線の量が増えている(マイナスの値が小さくなっている)にもかかわらず、
 気温が0.5℃以上も上昇しています。

 これは、上で話した「懐疑論者たちの仮説」では、絶対に説明ができま
せん!

 なぜなら、もしも懐疑論者たちの仮説が本当であれば、気温が低下しなけれ
ばならないからです。

 1992年ごろと、2004年ごろを比べてもそうです。

 1958年ごろと、1970年ごろを比較しても、宇宙線の量がずいぶん増えて
いるのに、気温は若干上がっています。



 以上から、懐疑論者たちの仮説が破綻しているのは、一目瞭然です!

 私が思うには、おそらく「宇宙線によって作られる雲の効果」も、実際にある
ことはあるのかも知れません。

 原理的(定性的)には、そのような効果の存在する可能性も、十分に考えら
れるからです。

 しかしそれは、温室効果ガスによる影響に比べたら(つまり定量的には)、
ずっと小さな効果にしか過ぎないのでしょう。



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