地球温暖化の原因はCO2か? 5
2008年8月3日 寺岡克哉
ここでは、「オゾン層と、地球温暖化の関係」について、見て行きたいと
思います。
どんな話かと言えば、だいたい次のようなことです。
まず、空の上(高さ10〜50kmの成層圏)には、「オゾン層」というのがあり
ます。
このオゾン層は、太陽から降りそそぐ「紫外線」の、大部分を遮(さえぎ)って
います。
ところが、フロンガスなどによってオゾン層が破壊されると、「太陽の紫外線」
が、それだけ地上に多く降りそそぐようになります。
そうすると、そのぶん「太陽の光が強くなった」のと同じことになり、そのため
に地球が温暖化している・・・
と、このように思っている人たちが、少なからず存在するのです。
しかもこれは、地球温暖化への懐疑論者たちが、とくに主張していると言う
わけでもありません。ふつう一般の人々の中に、そのように考える人が、結構
いるのです。
たとえば2004年に、国立環境研究所が行ったアンケート調査によると、
「オゾン層の破壊が地球温暖化の原因である」と思っている人が、75%を
占めていました(回答者数384人)。
また2006年に、同じく国立環境研究所が行った聞き取り調査によると、
「オゾン層の破壊が地球温暖化の原因である」と答えた人が最も多く、
「大気中の二酸化炭素濃度の増加が原因」と正しく答えた人は、1割にも
達していませんでした。
(調査対象は、環境問題にあるていど関心をもつ、20〜50歳代の男女39
人。)
さらに今年の2月、東京大学におけるシンポジウムで、一般聴衆に向けて
行われた質問によると、
「オゾン層の破壊が地球温暖化の原因である」と答えた人が、23%いま
した。(回答者数は、ちょっと私には分かりませんでした。)
以上のように、
「オゾン層の破壊が地球温暖化の原因である」と、思っている人は、
年が経つごとに、だんだん減っているみたいですが、
しかし現在においても、まだ結構いるようです。
なので、そのことについての説明を、このサイトでもやっておく必要を感じま
した。
* * * * *
たしかに、オゾン層が破壊されると、地上にとどく紫外線の量がふえます。
その結果、地球が温められることになります。
しかし一方、オゾンには「温室効果」があります。
なので、オゾン層が破壊されると、それだけ温室効果ガスが減ることになり、
地球は冷やされます。
つまりオゾン層が破壊されると、地球を温める効果と、冷やす効果の、両方
が同時に働くわけです。
そして、それらを差し引いた「正味の効果」は、わずかな「冷却」となります。
だから、オゾン層の破壊によっては、地球温暖化は進行しません。
(しかしもちろん、オゾン層の破壊によって、皮膚ガンなどのいろいろな弊害
が起こる可能性はあります。)
以上が、いま得られている結論です。
次にそれを、もうすこし詳しく見てみましょう。
* * * * *
話がすこし飛びますが・・・・
地球に降りそそいでいる太陽エネルギーは、1平方メートルあたり1380
ワット(1380W/m2)です。
しかしこの値は、太陽の光を遮(さえぎ)る雲などがなく、しかも太陽光が
垂直に当たった場合です。
ところが実際の場合は、
昼と夜があり、
夏と冬があり、
太陽光を遮る雲があり、
赤道と、南極や北極では、太陽光の当たる角度がちがいます。
それらを考慮して、
赤道から極域までの地球全体で、
昼も夜も、夏も冬も1年間を平均すると、
1平方メートルあたり、およそ240ワットになります(240W/m2)。
これが、地球を温めている、太陽エネルギーの大きさ(単位面積あたり)
です。
ところで、「産業革命前から今までの、大気中に増加した二酸化炭素による
放射強制力は、+1.66W/m2である」と、いうような言い方をします。
これはどういう意味かと言えば、二酸化炭素の温室効果によって、太陽エネ
ルギーが1.66W/m2だけ増えたのに相当するということです。
つまり大気中の二酸化炭素が、産業革命前の280ppmから、現在の380
ppmに増えたことによる温室効果は、
かつて240W/m2だった太陽エネルギーが、241.66W/m2に強くなっ
たのと同じ効果だということです。
これが原因となって、いま地球温暖化が起こっているわけです。
ちなみに、二酸化炭素が倍増したとき(560ppmになったとき)の、二酸化
炭素による放射強制力は、およそ+4W/m2だと言われています。
つまり、240W/m2だった太陽エネルギーが、244W/m2になったのと
同じ効果になります。
エッセイ335によれば、この温室効果によって、地球の平均気温が1.2℃
ほど上昇します。
そしてさらに、「水蒸気フィードバック」や、ほかの「気候フィードバック」が加わ
ることにより、全体として3℃の気温上昇になると考えられている訳です。
* * * * *
さて、準備ができましたので、話をもとに戻しましょう。
たしかに、オゾン層が破壊されると、地上に降りそそぐ太陽エネルギーが
増えます。
たとえば今後予想されるオゾン層の破壊は、地球全体を平均すると、最大
で5%程度となっています。(WMOオゾンアセスメントレポート2006による。
ただし、現在すでに起こっているオゾン層の破壊も含む。)
この、5%という値を使って簡単な計算をすると、オゾン層の破壊による太陽
エネルギーの増加は、+0.27W/m2となります。
しかし実際問題として、オゾン層の破壊がとくに大きいのは、南極や北極
にちかい「高緯度の地域」です。
そして、そのような高緯度の地域は、太陽の高度が低い(つまり太陽光の
当たる角度が小さい)ので、もともと太陽エネルギーが少ない場所です。だか
ら寒冷地になっているわけです。
なので、高緯度地域の太陽エネルギーが少しぐらい強くなっても、地球全体
から見れば、たかが知れているのです。
しかも、オゾン層の破壊が大きくなるのは、1年のうちでも春季に限られてい
ます。
それら地球の緯度や、季節などを考慮して詳しい計算をすると、
オゾン層の破壊による太陽エネルギーの増加は、+0.11W/m2になり
ます。
* * * * *
ところが一方、オゾンには「温室効果」があります。
だからオゾン層の破壊によって、オゾンが減少すると、地球が冷やされる
ことになります。
詳しい計算によると、その効果は−0.17W/m2だと言われています。
(値にマイナスの符号がついているのは、「冷却効果」を意味しています。)
さて、上で話したように、オゾン層の破壊による太陽エネルギーの増加は、
+0.11W/m2でした。
これから差し引きすると、+0.11−0.17= −0.06 つまり、
オゾン層の破壊による、地球温暖化への影響は、−0.06W/m2の
「冷却効果」になります。
* * * * *
ところで、ここまで話してきたのは「オゾン層」のこと。つまり、大気の上層に
ある「成層圏オゾン」についてでした。
しかしながらオゾンには、これとは別の「対流圏オゾン」というのがあり
ます。
対流圏オゾンとは、高さが10kmよりも低いところ(対流圏)に存在する
オゾンのことです。
この「対流圏オゾン」は、自動車などの排気ガス、つまり「大気汚染」によっ
て作られ、「光化学スモッグ」の原因にもなっています。
だから、太陽の紫外線をカットしてくれる「成層圏オゾン」とちがい、「対流圏
オゾン」は生物にとって有害なものです。
そして上でも話したように、オゾンには温室効果があります。
だから「対流圏オゾン」が増えると、それによって地球が温暖化します。
IPCCの評価によると、対流圏オゾンの温室効果は、+0.35W/m2と
見積もられています。
* * * * *
以上の話をまとめると、つぎの表のようになります。
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オゾン層破壊による太陽エネルギー増加 +0.11W/m2
オゾン層破壊による冷却効果 −0.17W/m2
差し引き −0.06W/m2
対流圏オゾンの温室効果 +0.35W/m2
二酸化炭素の温室効果 +1.66W/m2
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この表から得られる結論として、
オゾン層の破壊による影響は、正と負の効果を差し引きした正味で、
わずかな冷却効果となります。
それよりむしろ、対流圏オゾンの方が、地球温暖化に大きな影響を
与えます。
しかしそれでも、二酸化炭素の温室効果にくらべたら、その大きさは
およそ5分の1にすぎません。
やはり「二酸化炭素」が、地球温暖化のいちばん大きな原因になって
いるのです!
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