地球温暖化の原因はCOか? 4
                             2008年7月20日 寺岡克哉


 さて今回は、「水蒸気の温室効果」について、考えてみたいと思います。

 と言いますのは、地球温暖化への懐疑論者たちが、

 「二酸化炭素よりも、水蒸気の温室効果の方がずっと大きいので、すこし
ぐらい二酸化炭素が増えたところで、地球温暖化には影響しない」

 などという主張をしているからです。


                 * * * * *


 もちろん、水蒸気の温室効果の方が、二酸化炭素よりも大きいのは確か
です。

 しかし、その具体的な数値がどうなっているかと言えば、懐疑論者たちの
(デタラメとも思えるような)意見も含めると、実にさまざまです。

 今のところ、いちばん妥当な数値として、国立環境研究所の地球環境研究
センターが公表しているのを紹介すると、

 現在の地球大気においては、温室効果全体の60%が水蒸気によるもの
で、26%ていどが二酸化炭素によるものとなっています。



 ところで・・・

 もしも地球の大気に、温室効果がまったく無かったら、地球の平均気温は
−19℃ぐらいになってしまいます。

 しかし実際の平均気温は、およそ14℃です。

 つまり地球大気の温室効果によって、−19℃から14℃へと、およそ33℃
の温暖化がすでに起こっているわけです。

 そのうちの26%だと、およそ9℃の気温上昇ぶんが、二酸化炭素による
温室効果ということになります。



 このように見てきますと、たしかに水蒸気の温室効果の方が大きいですが、
二酸化炭素の温室効果も、決して無視できないことが分かります。

 なので、「水蒸気の温室効果の方がずっと大きいので、二酸化炭素の温室
効果なんか無視できる」というのは、完全な間違いです!

 たとえば将来的に500ppmとか、あるいは有効な対策を取ることができず
に1000ppmとかまで二酸化炭素が増えてしまったら、やはり地球温暖化が
酷(ひど)くなって行くのは間違いありません。



 また、地球の大気には、水蒸気が10000〜28000ppmも含まれているの
に比べて、二酸化炭素は、たったの380ppmしかありません。

 このことだけを捉(とら)えて、「水蒸気の方が圧倒的に多いので、二酸化
炭素の温室効果なんか無視できると」と言う懐疑論者もいますが、これなども
デタラメな詭弁(きべん)に他なりません。

 上で話したように、現在の地球大気において、二酸化炭素の温室効果が
26%程度あるので、それを無視できないのは明らかです。

 いくら水蒸気の方が圧倒的に多くても、温室効果の大きさは、単に気体の量
だけで決まる訳ではありません。

 それは、メタンガスの例を見ても明らかです。大気中のメタンの量は、二酸化
炭素にくらべて214分の1ほどしかありません。しかし温暖化への寄与度は、
二酸化炭素の3分の1もあるのです。


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 しかしながら、なぜ水蒸気は温室効果をもつのに、いわゆる「温室効果ガス」
に含まれないのでしょう?

 二酸化炭素の問題のみを、大げさに誇張するために、わざと水蒸気を無視
しているのでしょうか?



 そんなことは、決してありません!

 水蒸気の温室効果は、以下のように、しっかりと考慮されています!



 まずエッセイ333でお話しましたが、二酸化炭素が倍増したときの気温上昇
の大きさを、「気候感度」といいました。

 現在のところ、その最良の見積もりは、3℃とされています。

 つまり、二酸化炭素が倍増すると、地球の平均気温が3℃上昇すると考え
られているわけです。



 しかし実は、「二酸化炭素だけの温室効果」ならば、倍増しても1.2℃の
気温上昇にしかならないと考えられています。

 ところが、その気温上昇によって、おもに海水の蒸発が多くなり、大気中の
水蒸気が増加します。

 そうすると今度は、水蒸気の温室効果によって、気温がさらに上昇するの
です。

 その結果、二酸化炭素と水蒸気の温室効果を合わせて、2.4℃の気温
上昇になると考えられています。



 このようにして、水蒸気の温室効果が考慮されている訳です。つまり、

 まず、二酸化炭素の増加によって気温が上昇し、
 次に、それが原因となって大気中の水蒸気が増え、
 その結果、気温上昇をさらに「増幅」させるわけです。

 このように、はじめの原因が巡(めぐ)り巡って、最後に結果となって返って
くるメカニズムを、「フィードバック」といいます。

 この場合は、気候に関係したことなので、「気候フィードバック」と言われて
います。さらに詳しく言えば、水蒸気に関係したことなので、「水蒸気フィード
バック」
と呼ばれています。

 つまり水蒸気の温室効果は、「気候フィードバック」として考慮されている
のです。



 ちなみに、他のさまざまな気候フィードバックも考慮して、気候感度が3℃ぐら
い(IPCCの最新の知見では2.6〜4.0℃程度)だと見積もられています。

 ほかの気候フィードバックとしては、例えば、

 二酸化炭素の増加によって気温が上昇し、さらには水の蒸発量が多くなって
「雲」が増え、
 その雲が、太陽光を反射して地表を冷やす、負の効果(負のフィードバック)。
 あるいは雲が、太陽からの赤外線を吸収し、それを地表に放射することに
よって温める、正の効果(正のフィードバック)。
 それら正負両方の効果をもつ、「雲フィードバック」があります。

 また、
 二酸化炭素の増加で気温が上昇し、
 北極や南極の雪氷が解けることにより、海面や地面が現れ、
 太陽光をよく吸収するようになって温められる、正の効果(正のフィードバッ
ク)。つまり、「氷アルベドフィードバック」などもあります。


※ 「アルベド」とは、「反射率」という意味です。雪や氷よりも、水面や地面の
 方が反射率が低い(つまり吸収率が高い)ため、太陽光をよく吸収して温まり
 やすくなるのです。


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 しかしながら、なぜ水蒸気は温室効果ガスではなくて、気候フィードバックに
入れられるのでしょう?



 それは、人間のだす水蒸気が、地球温暖化の根本的な原因ではない
からです。




 たしかに人類は、化石燃料の使用や、灌漑(かんがい)などによって、水蒸気
を大気中に放出しています。
 (石油や天然ガスなどの化石燃料とは、炭化水素のことであり、炭素と水素
が結合して出来たものです。なので、化石燃料に含まれている水素が燃える
と、水つまり「水蒸気」が発生します。)

 もしも、この「人類が出している水蒸気」が、地球温暖化の根本的な原因に
なっているならば、
 「水蒸気も温室効果ガスである」と認め、その排出を削減しなければなりま
せん。

 しかし、IPCCの第4次報告によると、
 人類が出している水蒸気の量は、
 二酸化炭素がおもな原因の気温上昇による、水蒸気の増加にくらべたら、
 その1%にも満たないと考えられています。

 つまり、
 いま増加している水蒸気の99%以上は、
 二酸化炭素の増加によって気温が上昇し、
 海や川、湿地などから、水が蒸発したものです。

 この理由により、水蒸気の温室効果は、二酸化炭素の増加によって起こる
「気候フィードバック」だと位置づけられているのです。


                 * * * * *


 以上のように、地球温暖化の根本的な原因は、あくまでも「二酸化炭素」
です。

 そしてその次に、「水蒸気の温室効果」が、それに追従して作用するの
です。

 ゆえに懐疑論者たちの主張は、本末を転倒させた、「議論のすり替え」
に他なりません!




 今回の話から、

 水蒸気の温室効果の方が大きくても、二酸化炭素の温室効果は無視でき
ないこと。

 地球温暖化の根本的な原因は二酸化炭素であり、その「気候フィードバック」
として、水蒸気の温室効果が作用すること。

 水蒸気を温室効果ガスに入れないのは、水蒸気をわざと無視している訳では
ないこと。

 が、分かって頂けたのではないかと思います。



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