海の魚への影響 1   2008年2月24日 寺岡克哉


 今回から、地球温暖化による「海の魚への影響」について、見て行きた
いと思います。

 しかしながら、一言に「海の魚」と言っても、実にたくさんの種類がい
ます。

 そしてまた、魚の棲んでいる場所も、

 北極や南極にちかい、高緯度の「冷たい海」
 赤道にちかい、低緯度の「暖かい海」
 陸にちかい「沿岸」
 陸から遠く離れた「外洋」
などなど、本当にさまざまです。

 それら全ての魚に言及していたら、いつまでも限がありませんし、私に
そんな調査能力もありません。

 なので、ここでは、
 (1)一般に海の魚たちが受ける地球温暖化の影響 と、
 (2)何種類かの具体的な魚における地球温暖化の影響
に限って、お話したいと思います。


              * * * * *


(1) 一般に海の魚たちが受ける地球温暖化の影響

 海に棲む魚(海水魚)は、川などの陸に棲む魚(淡水魚)にくらべて、
「地球温暖化の影響に強い」と一般的に考えられています。

 なぜなら、海は地球全体に広がっているので、少しぐらい温度が上昇して
も、北極や南極の方向(つまり高緯度の冷たい海)に向かって、「移動する
こと」
ができるからです。

 しかし、もともと北極や南極にちかい「ものすごく冷たい海」に棲んでいる
魚は、もう逃げる場所が無ないので、温暖化の影響を受けてしまうかも知れ
ません。

 また、サンゴ礁や、藻場(海草がたくさん生えている場所)、あるいは干潟
などの「特殊な環境の場所」に棲んでいる魚たち。
 それらも、温暖化によってその場所が消滅すれば、逃げることが出来ない
ので大変なことになるでしょう。

 さらには、地球温暖化のさまざまな影響により、「プランクトンの数が
減少」
するようなことがあれば、海の魚にも大きなダメージをあたえます。

 さらにまた、人類の食料となっている魚(漁業資源)の場合は、ただでも
「乱獲」によって数が減っています。そして、その上さらに、地球温暖化の
さまざまな影響が魚たちを襲うことになります。

 だから、淡水魚にくらべて温暖化に強いと考えられる「海水魚」といえども、
決して楽観視することは出来ません。



 ところで、地球温暖化による「海の魚への影響」は、およそ今までのエッセ
イで話してきた、「地球温暖化による海の環境変化のすべて」が関係して
きます。

 それらについては、エッセイのいろいろな所で、すでに述べています。しか
し、あちらこちらに話が分散しているので、ここでは魚に関する部分をピック
アップして、まとめ直してみましょう。

 また、以前のエッセイで話していなかったことや、その後に新しく得た情報
なども、若干ですが補足をして行きたいと思います。


              * * * * *


(a) 海水温の上昇

 海の魚は、温度の変化にけっこう敏感です!

 たとえば日本近海では、「温帯系の魚」と「亜熱帯系の魚」の居るところ
が、最高水温がおよそ29℃になる海域を境にして、はっきりと分かれて
います。

 現在、その「最高水温が29℃の境目」は、九州南部の沿岸にあります。
しかし、地球温暖化によって水温が上昇すれば、それが中国や四国の
沿岸や、さらには西日本の沿岸まで北上すると予測されています。
 だから海水温が上昇すれば、それにともなって獲れる魚の種類や、漁獲
量が大きく変化してしまうでしょう。

 私が聞いた話では、3年前の大阪湾で、暖海系のクロマグロの群れが
定置網にかかったそうです。
 さらには、それまであまり見ることのなかったハナザメやシロシュモク
ザメなども、大阪湾で獲れているそうです。
 しかしその一方で、冬場に産卵期を迎えるマコガレイやアイナメなどは
減少しているそうです。

 また、日本から遠い場所の話ですが、イギリスの東に広がる「北海」と
いう海では、ここ25年の間に、36種の魚のうち21種(つまり、およそ
3分の2の種)が、北方に移動するなどして分布が変化したと言われて
います。



 ところで、地球温暖化によって表層の水温が高くなると、中層や深層の
水と「混ざりにくく」なります。
 一方、中層や深層の海水には、リンや窒素などの栄養がたくさん含まれ
ています。なので、それらが混ざりにくくなると、海洋表層の栄養が少なく
なってしまいます。

 その結果、「プランクトンの数が減る」ことになります。

 「プランクトン」は、海の食物連鎖の、いちばん根底にいる生物です。だか
ら、もしもそれが減ったりすれば、プランクトンを食べている小魚や、さらに
その小魚を食べている「大きな魚」も減ってしまい、とても大変なことになる
でしょう。



 また、岸の近くの海では、「藻場(もば)」というのが発達しています。
 「藻場」とは、ホンダワラやアマモなどの海草が、たくさん生い茂っている
場所のことです。そこには魚などが多く集まり、豊かな生態系を作っている
のです。

 いま、温暖化による海水温の上昇で、アイゴなどの暖かい所にいる魚が
藻場にやってきて、海草を食い荒らす「食害」が問題になっています。

 その上、水温が高くなると、ひどく成長の悪くなる海草もあるみたいで、
その影響も心配されています。



 さらには、海水温が高くなるとサンゴが白化したり、それが長く続くと
サンゴが死滅してしまいます。

 サンゴは、熱帯の海に棲んでいるのに、じつは高温にとても弱く、水温が
30℃を超えると生きることが出来ません。

 もしも、温暖化によって「サンゴ礁が消滅」してしまったら、そこに棲む
魚たちも「壊滅」してしまうのは必定です。

 しかもサンゴ礁には、地球に存在する海水魚の、なんと3分の2の種が
棲んでいる
と言われています。なので、それらの魚たちが壊滅してしまっ
たら、海の生態系にとって非常に深刻な問題となります。



             * * * * *


(b) 海水の酸性化

 大気中の二酸化炭素が増えて、それが海水に溶け込むと、海の水が
「酸性化」します。
 この「酸性化」については、エッセイ303で詳しくお話していますので、
そちらも見て頂ければと思います。

 海水が「酸性化」すると、サンゴや貝などは「炭酸カルシウム」が作れ
なくなり、生きることが出来なくなります。
なぜならサンゴの骨格や、貝の
殻は、炭酸カルシウムで出来ているからです。

 もしも、サンゴや貝が居なくなってしまったら、サンゴ礁に棲む魚や、貝を
エサにしている魚は、大きな影響を受けてしまうでしょう。



 また、「炭酸カルシウムの殻をもつプランクトン」も存在するので、それ
が居なくなってしまったら、魚にも大きなダメージを与えてしまいます。

 とくに、「円石藻(えんせきそう)」という植物プランクトンは、大西洋など
で大増殖する種ですが、これは炭酸カルシウムの丸い板を重ね着したよう
な構造をしています。

 円石藻は、200分の1ミリ〜10分の1ミリほどの大きさで、「光合成」を
することができ、ほかの生物を食べなくても独立して生きられます。
 つまり円石藻は、海洋において食物連鎖のいちばん根底を支える、とても
大切なプランクトンなのです。

 ちなみに、イギリスとフランスの間にあるドーバー海峡の「白い崖」は、
この円石藻の「化石」がたくさん積み重なって出来たものです。

 海水の酸性化により、そのように大切な役目をしている「円石藻」が激減
してしまったら、海産資源にも大きな影響を与えてしまうでしょう。


 エッセイ303でも強調してますが、海水の酸性化は、とても深刻な問題
だと思います。



             * * * * *


(c) 海面の上昇

 地球温暖化によって海面が上昇すると、まず第一に「干潟が消滅」して
しまいます。

 たとえば日本の「干潟」の場合、
 30cmの海面上昇では、56.6%の干潟が消滅。
 65cmの海面上昇では、81.7%の干潟が消滅。
 そして1mの海面上昇では、なんと90.3%の干潟が消滅します。

 この「干潟」は、いろいろな生き物がたくさん棲んでいて、生物の多様性
に富んだ場所です。もちろん、魚のエサになる貝やカニ、ゴカイなどもたく
さん棲んでいます。だから干潟が消滅してしまうと、海の魚にとって大きな
ダメージとなります。



 また、海面が上昇すると、波による陸地の侵食が激しくなり、沿岸域への
「土砂の堆積」を盛んにします。

 そして一方、沿岸域には「藻場」や「干潟」が発達しています。それらは
両者とも、多様な生態系を作っている場所で、多くの魚が集まり、豊かな
漁場にもなっています。

 だから、「藻場」や「干潟」に大量の土砂が堆積してしまうと、そこに棲ん
でいる魚にも、大きな影響を与えるのは間違いありません。



 さらに海面の上昇は、「サンゴ礁を水没」させてしまいます。

 とくに、海面付近および水深3メートルまでの浅いところに棲んでいる
サンゴは、波の影響をつよく受けるため、ただでも成長が遅くなります。
 そのような場所にあるサンゴ礁は、「100年あたり40センチの海面
上昇でも水没の危険がある」
と言われています。

 しかし私は、その上さらに、
 「海水温の上昇」によるサンゴの白化や死滅。
 「海水の酸性化」によるサンゴの成長悪化。
 これらの要因が重なれば、100年あたり40センチより小さな海面上昇
でも、サンゴ礁が水没してしまうのではないかと心配しています。

 もしもサンゴ礁が水没してしまったら、その場所における生態系のバラ
ンスが狂い、やはり魚にも大きな影響を与えてしまうでしょう。


             * * * * *


 申し訳ありませんが、この続きは次回にお話したいと思います。



     目次へ       トップページへ