ウミガメへの影響 2 2008年2月17日 寺岡克哉
前回は、ウミガメの話の途中でしたのに、それを中断させてしまいまし
たね。
今回は、エッセイ311からの続きを、お話したいと思います。
* * * * *
ウミガメたちは、
護岸などの人工物による「砂浜の消失」や、
漁業によって間違って獲られてしまう「混獲」などにより、絶滅の危機
に直面しているのでした。
しかしながら、その上さらに、「地球温暖化の影響」がウミガメたちを
襲うことになります。
その、「地球温暖化の影響」として考えられるものには、
(1)砂浜の温度上昇による、子ガメの性比変化。
(2)海面上昇による砂浜の減少。
(3)海流の変化。
などが挙げられます。
以下、それらについて、すこし詳しく見ていきましょう。
* * * * *
(1)砂浜の温度上昇による、子ガメの性比変化
カメやワニ、ヘビ、トカゲなど「爬虫類」の仲間には、じつに色々なものが
居ます。
その中で、ある種のものは、卵が温められるときの温度によって性別
が決まるそうです。
たとえば「ニオイガメ」というカメは、温度が23℃より低くても、または
温度が30℃より高くても、すべてメスが生まれます。
また、たとえば「アメリカアリゲーター」というワニは、温度が33℃より
高くなると、すべてオスが生まれるそうです。
そして「ウミガメ」もまた、そのような特徴をもっている生物なのです。
ウミガメの場合は、だいたい29℃が境になっており、それよりも温度が
低いとオスが生まれ、それよりも温度が高いとメスが生まれます。
中でも「アカウミガメ」は、そのことが実験によって精密に調べられており、
温度が28℃より低いとすべてオスが生まれ、30℃より高いとすべてメス
が生まれます。
さらには実験室だけでなく、「本物の自然環境の中」においても、その
ことが確かめられています。
たとえば、愛知県にある渥美半島では、「冷夏」の年にはすべてオスが
生まれ、「猛暑」の年にはすべてメスの生まれたことが、調査によって確認
されています。
つまり、地球温暖化によって気温が上昇すると、ウミガメは「メス
ばかり」になってしまう可能性があるのです!
ところで渥美半島の、ふつうの夏の場合では、産卵シーズン前半の涼し
い時期にはオスが多く生まれ、シーズン後半の7月にはメスが多く生まれ
るそうです。
また、鹿児島県の屋久島にある産卵地では、とてもよく自然環境が残さ
れていて、ある所では木や草などの植物があり(植生帯)、また、ある所で
は砂地だけだったりと、場所によってさまざまな温度環境になっています。
以上のような、時期や場所による温度の多様性によって、ウミガメのオス
とメスとのバランスが保たれているわけです。
ところが・・・
護岸工事などで植生帯を破壊し、ただの砂地だけになってしまうと、
産卵場所の温度が均一になってしまいます。
その上さらに、地球温暖化によって全体的に気温が上昇すれば、ウミ
ガメは本当にメスばかりになってしまうかも知れません。
* * * * *
(2)海面上昇による砂浜の減少
地球温暖化が進むと、海面が上昇します。そうすると、ウミガメの産卵
場所となる「砂浜」が、水没によって減少してしまいます。
たとえば日本の海岸の場合、
65センチの海面上昇で、砂浜の80パーセントが消滅し、
1メートルの海面上昇で、砂浜の90パーセントが消滅する
と、分析されています。
しかしウミガメの場合は、たった10〜30センチの海面上昇が
起こっただけでも、多くの産卵場所において、産卵可能な砂浜の
部分が減ったり、孵化率の低下が起こると予想されています。
だから海面上昇による「砂浜の減少」は、ウミガメたちにとって、かなり
深刻な問題となります。
ところで「自然の砂浜」ならば、海面がいくら上昇しても、波打ちぎわが
内陸に進出して、そこに「新たな砂浜」のできる可能性があります(海進)。
たとえば、今から5000年ぐらい昔の「縄文時代」には、海面が現在より
2〜3メートルほど上昇していました。だから当時は、海岸線が今よりずっ
と内陸にあったのです。
しかし当然ながら、そのときのウミガメたちも適当な砂浜を見つけて、しっ
かりと産卵をしていたはずです。だから今でも、ウミガメが生き残っている
わけです。
ところが・・・
いまの日本の海岸線は、ウミガメの産卵地となる砂浜のほとんどに対し
て、その背後が「護岸」によって仕切られています。
そのような状況では、もはや海面が上昇しても、「波打ちぎわ」が内陸に
進むことは出来ません。つまり、現在の砂浜が水没してしまったら、もう、
新たな砂浜が出来ないわけです。
そして一方、北太平洋産のアカウミガメの場合は、産卵場所が日本に
しかないのです!
この意味で日本の責任は重大であり、これからの護岸工事には、十分な
調査や検討が必要です。そしてまた、すでに存在している護岸についても、
その改良などを考えるべきでしょう。
* * * * *
(3)海流の変化
砂浜で生まれたばかりの「子ガメ」は、一直線に海へと向かい、大海原に
散(ち)らばって行きます。
しかし子ガメの泳ぐ力は弱く、しかも子ガメは主に、海面で浮いた状態の
生活をします。
それなのに、たとえば日本で生まれたアカウミガメの子供(甲羅の長さが
20〜50センチの幼体)は、ハワイの北の海域や、メキシコのカリフォルニア
半島の沖合いまで分布しています。
このことは、「アカウミガメのDNA分析」から明らかになりました。そのよう
な研究の積み重ねにより、北太平洋に分布するアカウミガメの産卵場所が、
日本にしかないと明らかになったのですね。
しかし、とにかく以上のことから、「子ガメたちは海流に乗って移動して
いる」と考えられています。
つまり、日本で生まれたアカウミガメの子供たちは、「黒潮」から、それに
続く「北太平洋海流」に乗り、とても広い範囲にわたって分布して行くわけ
です。
ところが・・・
地球温暖化によって気候が変動すると、それによって風の吹き方が変わ
ります。そうすると、当然ながら、海流の流れ方も変わってしまいます。
たとえば地球シミュレータによれば、地球が温暖化すると「黒潮の流れる
スピードが速くなる」と予測されています。
さらには黒潮だけでなく、その他さまざまな海流も、その流れ方が変化して
しまうでしょう。それらが、アカウミガメの成長や生活にも、大きな影響を与え
てしまうことが考えられます。
しかしながら、アカウミガメがどのように太平洋に分散し、移動し、そして
成長して行くのか、その詳細は明らかになっていません。
なので、地球温暖化による海流の変化が、アカウミガメにとって有利に働く
のか、不利に働くのかは、残念ながら予測できないのが現状です。
* * * * *
以上、2回にわたって、「地球温暖化によるウミガメへの影響」について
見てきました。
エッセイ311でお話しましたが、ウミガメはもともと、「環境の変化に強い
生物」であると考えられます。
というのは、恐竜時代の温暖な気候から、氷河期の寒冷な気候。そして
大陸移動による地形の激変を乗りこえて、1億年も生き続けてきた「種」
だからです。
しかし現在、護岸工事による砂浜の減少や、漁業による混獲で、ウミガメ
たちは絶滅の危機に直面しています。
つまり人類の存在は、氷河期や地形の激変などよりも、はるかに
大きなダメージをウミガメたちに与えているのですね。これは非常に驚く
べきことですし、また、私たち人類がしっかりと認識しなければならないこと
だと思います。
その上さらに、地球温暖化の影響が加わったら、ほんとうにウミガメが
絶滅してしまうかも知れません。
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