海の生物への影響 2 2007年12月2日 寺岡克哉
前回は、地球温暖化による、以下のような海の環境変化、
(1)海水温の上昇
(2)海氷の縮小
(3)海面の上昇
(4)海洋の大循環の弱まり
(5)海水の酸性化
(6)豪雨の増加
(7)砂漠化
(8)風の変化
(9)日射量の変化
のうち、(1)と(2)が生物に与える影響についてお話しました。
今回はその続きです。
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(3)海面の上昇
地球温暖化が進むと、海水が温まって「膨張」したり、南極やグリーン
ランドにある「陸上の氷が融解」して、海面が上昇します。
最新の報告(IPCC第4次報告)によると、今世紀中に起こる海面上昇は、
最大で59センチとなっています。
しかし海面の上昇は、100年後に止まる訳ではありません。最低でも
1000年は止まらず、おそらく数千年は続くと思われます。
そして、温暖化により気温が2℃上昇した場合、最終的には2〜3メートル
の海面上昇になるでしょう。
さらには、気温の上昇が3℃を超えると、最終的には5〜7メートルの海面
上昇になると考えられます。
以上のような海面上昇は、海の環境に対して、「干潟の消滅」や「砂浜の
消滅」、そして「沿岸域への土砂堆積の増加」などをもたらします。
たとえば日本の「干潟」の場合、
30cmの海面上昇では、56.6%の干潟が消滅。
65cmの海面上昇では、81.7%の干潟が消滅。
そして1mの海面上昇では、90.3%の干潟が消滅します。
干潟には、いろいろな生き物が棲んでおり、生物の多様性がとても大きな
場所になっています。だから、それが消滅すると、地球の生態系にとって
大きなダメージとなります。
また、シギやチドリなど、干潟を「渡りの中継場所」にしている鳥たちにとっ
ても、干潟の消滅は大きなダメージとなるでしょう。
そして日本の「砂浜」の場合、海面が65cm上昇すると、いま存在して
いる砂浜の、およそ80パーセントが消滅します。
これは、たとえば砂浜を産卵場所にしている「ウミガメ」たちに、大打撃を
与えてしまうでしょう。
ウミガメの場合、たった10〜30cmの海面上昇が起こったとしても、多く
の産卵場所において、産卵可能な砂浜の部分が減ったり、孵化率の低下
が起こると予想されています。
だから海面の上昇は、ウミガメたちにとって、かなり深刻な問題となるの
は確実でしょう。
また海面の上昇は、沿岸部分の侵食を盛んにし、沿岸域への「土砂の
堆積」を盛んにします。
ところで海の沿岸域には、「藻場」と呼ばれる、海草のたくさん生い茂って
いる場所が発達しています。
藻場は、さまざまな生物の棲みかになっており、多様な生態系を作って
います。そして多くの魚が集まり、豊かな漁場にもなっています。
もちろん、海の沿岸域には、上で話した「干潟」も発達しています。
これら藻場や干潟に、大量の土砂が堆積するようになったら、そこに棲む
生き物たちはどうなってしまうでしょう?
たぶん、大きな影響を受けてしまうのが容易に想像できます。
しかし、それがどんな影響であり、どれほどの影響になるのか、今のところ
良く分からないのが現状だと思います。今後における、精力的な調査研究を
ぜひ期待しています。
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(4)海洋の大循環の弱まり
「海洋の大循環」については、エッセイ281にまとめてありますので、詳し
くはそれを見て頂きたいと思います。
まず、地球が温暖化すると、この「海洋の大循環」の流れが弱まります。
(なぜ、温暖化によって海洋大循環が弱まるのかは、エッセイ281を見て
ください。)
そうすると、海底の深層水が、表層に湧き上がってくる流れ、つまり
「湧昇流」が弱くなります。
また、その一方で、ふつう一般に海の表層は、栄養が極度に不足して
いる「貧栄養状態」になっています。
(なぜ、表層が貧栄養状態なのかは、エッセイ281を見てください。)
だから、栄養の豊富な深層水の湧き上がる「湧昇流」が弱くなれば、それ
だけ、生き物たちの利用できる栄養が減るわけです。
(なぜ、深層水が栄養豊富なのかは、エッセイ281を見てください。)
地球の海洋全体でみると、この深層から供給される栄養は、全体の20
パーセントを占めるそうです。
たとえば、陸から栄養が運ばれる「沿岸部」とちがって、陸から遠く離れた
「外洋」では、この深層からの栄養補給はとても重要です。
とくに、インド洋や北太平洋の「湧昇域」(湧昇流の起こっている海域)
では、その重要性が大きいと考えられます。
これらの海域は、「豊かな漁場」となっているほど、海の生物がたくさん
居るところです。
もしも海洋の大循環が弱まり、深層からの栄養補給が減少すれば、そこ
に居る生物たちに大打撃を与えるのは間違いないでしょう。
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(5)海水の酸性化
申し訳ありませんが、これは次回にお話したいと思います。
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