今年のノーベル平和賞
2007年11月18日 寺岡克哉
今回のエッセイで、ちょうど300回目になりました。
私事ではありますが、ちょっと嬉しく思います。
そして、いつも私のエッセイを見て頂いている方々には、とても感謝して
ますし、ますますその念を新たにしております。
* * * * *
ところで、今年のノーベル平和賞は、IPCCと、アル・ゴア氏に授与
されました。
地球温暖化の深刻さが、だんだん人類全体に理解されてきたことの、
ひとつの現れなのだと思います。
私のやっていることも、ごくごく微力ながら、質としてはノーベル賞に匹敵
するものであったことを、とても嬉しく感じています。
そしてこれは、べつに私だけではないですね。地球温暖化のことを本当
に心配して、
呼びかけや、啓蒙活動を行ったり、
自分なりに省エネを工夫したり、
植林や、環境保護活動などに参加している、
すべての人々に言えることなのです。
是非とも、そのような「社会的な盛り上がり」が、今後さらに大きくなって
ほしいと願ってやみません。
今回は、ノーベル平和賞にちなんで、IPCCとアル・ゴア氏のことについ
て、すこしお話したいと思いました。
* * * * *
「IPCC」とは、エッセイ260でも話してますが、世界中からたくさんの
科学者を集めて作られた国際機関です。
この「IPCC」という組織で、地球温暖化にたいする最新の科学的な知見
が検討され、評価されるわけです。
今年は6年ぶりに、4回目である最新の報告が発表されました。(IPCC
第4次評価報告書)
その、いちばんの要点は、「人類の排出する温室効果ガスが原因で、
地球温暖化が起こっている」という事実が、科学的に明確にされたこと
です。
これにより、アメリカや中国をふくむ各国の政府は、より真剣で具体的な
温暖化対策を、やらざるを得なくなって来ました。
そしてまた、今回の第4次報告によって、それまで世の中を惑わしていた
「反温暖化論」とか「温暖化懐疑論」なるものも、かなり払拭されてきたよう
に思います。
それと対照的に、地球温暖化のことを真剣に心配する人が、どんどん
増えています。
事実、私がいろいろな人と意見交換をしてみても、去年と今年とでは、
ずいぶん雰囲気が変わっているのです。
これは、マスコミなどで、地球温暖化のことを取り上げる機会が多くなっ
たのが原因でしょう。しかしその背景には、IPCCの第4次報告が大きく
貢献しているのは間違いありません。
ところで、「IPCCは温暖化研究で最大の権威」などと言われることが
あります。しかしこれは別に、ごく一部の偉い科学者が、権威主義を振り
かざしている訳ではありません。
近年起こっている、「科学データの捏造問題」などは、権力をもつ一人の
教授、あるいは、実際にデータを扱っている一人の科学者によって行われ
ます。
しかし、IPCCによる評価は、
おそらく何万人もの、研究者や技術者たちが携わって得られた、
何万(もしかすると10万以上かも知れません)ものデータを、
世界中から集まった何百人もの優秀な科学者たちが、比較検討して
決定されたものです。
だから、IPCCの評価報告書において、一部の権力者による「データの
改ざん」や「データの捏造」などを行うのは、まず不可能と言って良いで
しょう。
* * * * *
アル・ゴア氏は、元アメリカ副大統領だった人です。
「不都合な真実」という映画を作ったり、本を書いて、地球温暖化の啓蒙
活動を精力的にやっている人です。
私の知るかぎり、政治家の中で、これほど温暖化問題にたいして積極的
に取り組んでいる人は、他にいないように思います。
アル・ゴア氏は、2000年の大統領選挙に出馬し、現ブッシュ大統領に
敗れました。もしもその時、この人が大統領になっていたら、地球温暖化
に対するアメリカの対応も、ずいぶん違ったものになっていたでしょう。
私は、「不都合な真実」の映画を見たことがありませんが、その書籍版
を持っています。
図や写真が多く、説明文も明解で、とても分かりやすい本です。
内容があまりにも衝撃的だったので、この本に書かれている幾つかの
ことについて、ほかの資料もあたってみたほどです。
しかし、(本の内容のごく一部ですが)私の調べた範囲では、少なくとも
「ウソ」は書かれていないようでした。
しかしながら、「海面上昇」の話は、すこし誤解される可能性がある
かも知れません。
というのは、今後100年ぐらいの間に、海面が何メートルも上昇するかの
ような印象を、与えかねないと私は感じたからです。
IPCCの第4次報告によると、21世紀中に起こる海面上昇は、最大でも
59センチです。だから今後100年以内で、何メートルもの海面上昇は、
きっと起こらないでしょう。
しかし、この表現もまた、すごく誤解されやすいのです。なぜなら海面上昇
は、100年後にピタッと止まる訳ではないからです。
海面の上昇は、近い将来において二酸化炭素の排出が「ゼロ」に
なったとしても、その後ずっと長く続きます。まず最低でも、1000年は
止まらずに続きます。
海面の上昇が止まり、安定するまでには、おそらく数千年の時間を
要するでしょう。
エッセイ271で話しましたが、たとえば気温の上昇が3℃を超えると、
「グリーンランド氷床」の融解が止まらなくなり、西暦3000年までに海面が
3メートル上昇します。そして最終的(たぶん数千年後)には、5〜7メートル
の海面上昇になるのです。
それを避けるためには、2℃以下の気温上昇に抑える必要があり、さらに
そのためには、2050年までに、温暖化ガスの排出量を1990年レベルの
半分に削減しなければなりません。
しかし、それが実行できた場合でも、最終的には2〜3メートルの海面上昇
が避けられないでしょう。
確かに、何メートルもの海面上昇が起こるのは、すくなくても数百年〜
千年後です。
しかし、その引導を渡してしまうかどうかは、現代の私たちにかかっている
のです。
* * * * *
今回は、ノーベル平和賞にちなんだ話をしてみました。
今年の受賞理由は、「人為的に起こる気候変動についての知識を
広め、その変動を打ち消すために必要な処置の基盤を築く努力」と
なっています。
私は、そのような理由でノーベル平和賞が授与されることを、とても嬉しく
思っています。
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