IPCC第4次報告 2007年2月11日 寺岡克哉
今月の2日に、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change 気候変動
に関する政府間パネル)の第4次報告が出ました。
これは、前回2001年のIPCC第3次報告から、6年ぶりにまとめられた最新の
報告です。なので今回は、そのことについてお話したいと思いました。
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IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とは、世界中の科学者や専門家が参加
し、地球温暖化による気候変動にたいして、最新の科学的な知見を評価する国際
機関です。
これには、世界中から500人もの科学者が参加しており、日本からも約30名の
研究者が、主要な執筆者として参加しています。
ところで余談ですが、政府間パネルの「パネル(panel)」とは、(討議会、座談会な
どに予定された)講師団、審査員団。(特定問題の)研究班、委員団。 という意味
みたいです。 (研究社 新英和中辞典)
パネルディスカッションとか、パネリストとか言うときの「パネル」なのですね。お恥
ずかしながら私自身、その意味が今まで分からずにいたので、ちょっと調べてみた
次第です。
IPCCに関係する研究者や技術者の数は、末端の現場で活躍している人々も
含めると、たぶん1万人ではきかないのではないでしょうか。
日本が世界に誇るスーパーコンピューターの「地球シミュレーター」も、その主要な
目的の一つは、IPCC第4次報告に向けての研究でした。
IPCCの地球温暖化にたいする判断は、文字通り、人類の科学的な力を結集させ
たものなのです。
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そのIPCCが、正式に発表した報告の要旨はつぎの通りです。
一、気温や海水温の上昇、氷雪の融解の増加や海面上昇などから気候の温暖化
は明白。
一、1906年から2005年の気温上昇は0.74度。海面は1961年から2003年
の間に年1.8ミリの割合で上昇した。
一、20世紀半ば以降に観測された平均気温上昇の大部分が、人為的な温室
効果ガスの増加によって引き起こされた可能性がかなり高い。
一、21世紀中に予測される平均気温上昇はシナリオによるが、1.1度から6.4度
の範囲、海面上昇は18センチから59センチの範囲。
一、極端な暑さや熱波、豪雨などの発生頻度が頻繁になり続ける可能性が高い。
一、北極の晩夏の海氷は21世紀後半までにほとんど消えるとの予測もある。
一、大気中の二酸化炭素濃度が増えた結果、海洋の酸性化が進んだ。
(北海道新聞 2月2日付夕刊より)
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マスコミでも強調されていますが、今回の発表でとくに注目されるのは、
「20世紀半ば以降に観測された平均気温上昇の大部分が、人為的な温室効果
ガスの増加によって引き起こされた可能性がかなり高い」という部分です。
報告書の原文にもあたってみましたが、この「可能性がかなり高い」というのは、
「少なくても10のうち9の可能性」であることが、脚注に書かれてありました。つまり
それは、90パーセント以上の高い可能性を意味しているのです。
現在でもまだ、「地球温暖化は人為的な原因で起こっているとは言えない!」と
主張する人もいるのですが、今回の第4次報告は、それを明確に否定する結果に
なっています。
地球温暖化が人間のせいで起こっているのは、ほぼ間違いありません。それが、
やっと科学的に証明されたと言ってもよいでしょう。
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ところで2001年の第3次報告では、地球温暖化が人為的な原因で起こっている
「可能性が高い」という表現にとどまっていました。この「可能性が高い」というのは、
66パーセント以上の可能性であることを意味します。
このように66パーセントの可能性しかなければ、「地球温暖化は人為的な原因
で起こっているとは言えない!」という主張も、学問的に(統計的に)十分可能でし
た。(人為的温暖化が統計的に否定できなくなるのは、68.3パーセント以上の
可能性。)
だから今まで、そのように主張する人がいても、それは当たり前のことだったの
です。
しかし今回の第4次報告により、「可能性が高い」から、「可能性がかなり高い」
へと判断が変わりました。
つまり、66パーセント以上の可能性から、90パーセント以上の可能性へと、格段
に可能性が高くなったのです。
90パーセント以上の高い可能性になっては、もはや「地球温暖化は人為的な原因
で起こっているとは言えない!」という主張が、学問的(統計的)には不可能になり
ました。
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IPCCがそのように自信を持ったのは、2001年の第3次報告から6年の間に、
「膨大な研究データ」が集まったからでした。
この6年の間に、「実際の観測データ(つまり観測事実)」の量は、およそ3倍
になりました。それだけ、地球温暖化の実情が明らかになったのです。
また、2002年には「地球シミュレーター」が完成して、計算分析の精度もずい
ぶん向上しました。
そして詳しい研究を行った結果、人為的な原因を考慮に入れなければ、現在の
温暖化(観測事実)を説明できないことが明らかになったのです。
もしも、今回の第4次報告の結果を覆(くつがえ)そうと企むならば、これまで以上
の観測事実(実際の証拠)を集め、地球シミュレーターよりも高性能のコンピュー
ターを作らなければなりません。
しかし、もしそのようにしても、地球温暖化の人為的な原因で起こっていることが、
さらに確実(95パーセント以上の可能性とか、99パーセント以上の可能性)になる
公算の方が、はるかに大きいでしょう。
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もはや、「地球温暖化は人為的な原因ではない」などど、嘯く(うそぶく)こと
は出来ません!
アメリカにも中国にも、その他各国の政府にも、より真剣で具体的な対策が迫ら
れることでしょう。
いよいよ地球温暖化対策に、すべての人類で取り組んで行かなければならなく
なったのです。
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