森林によるCO2の固定 5

                                 2006年11月19日 寺岡克哉


 以前のエッセイ242では、「海洋生物による二酸化炭素の固定」について、
お話しました。
 つまり植物プランクトンや、それを餌にしている海洋生物たちの体(生物体)とし
て、二酸化炭素を固定しようという話です。

 しかしここでは、それ比べて、「森林による二酸化炭素の固定」の方が有利
点について、考えてみたいと思います。

 エッセイ242では、海洋のほとんどが栄養に乏しい「貧栄養状態」にあり、いくら
二酸化炭素や日光があっても、植物プランクトンの光合成ができないことについて
説明しました。
 つまり、「リン」や「窒素」などの栄養が極度に欠乏しているため、いくら二酸化炭
素や日光があっても、それを使い切れずに余しているのです。
 それで、海洋に「リン」や「窒素」などの肥料をまけば良いという、「施肥法」の
考え方が生まれたのでした。

 しかし実は、同じ肥料を使うなら、海にまくよりも森林の育成に使った方が、
効率よく二酸化炭素が固定できるのです。

 以下そのことについて、お話して行きたいと思います。


                  * * * * *


 まず、下の表を見てください。

 これは、亜寒帯から熱帯のさまざまな森林について、そこに生えている木々の
体(組織)を作るのに使われている、化学物質の「比」です。

 そしてその比は、「リン」を基準にしています。
 つまり、たとえば表のいちばん上の、北海道トドマツ天然林に生えている木々
の場合、リンが1の量に対して、窒素が20、炭素が4000、カルシウムが10の
割合で、それら木々の体(組織)が作られているということです。

 しかしこれは、あくまでも「比」なので、それぞれの森林に存在する化学物質の
「絶対量」ではないことに注意してください。

 また比較のため、海洋生物と、海水(表層)についても示しました。

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                   リン    窒素    炭素   カルシウム
  北海道トドマツ天然林     1     20    4000    10
  秋田杉人工林         1     25    8700    10
  温帯落葉広葉樹        1     25    5300    15
  九州照葉樹林         1     35    8600    10
  タイ北東部(熱帯林)      1    15     2200    10

  森林平均            1     25    5800     10

  海洋生物            1     15     120     40
  海水(表層)           0     0      680    3160
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 ところで、「海水(表層)」の化学組成をみると、やはり栄養が極度に欠乏している
のが分かります。
 海洋の大部分がこのような状態では、海に肥料をまくという「施肥法」の考え方が
生まれるのも、まったく当然のように思えます。

 また、「森林平均」のデータでは、亜寒帯から温帯、そして熱帯に生えている木々
を平均すると、リンが1に対して、窒素が25、炭素が5800という組成になっている
のが分かります。

 そして一方、「海洋生物」の体の組成は、リンが1に対して、窒素が15、炭素が
120です。

 つまり、「リン」を基準にすると、森林(平均)は、海洋生物のおよそ50倍の炭素
を固定しているのが分かります。
 5800÷120=48.3

 また、「窒素」を基準にしても、森林は、海洋生物のおよそ30倍の炭素を固定し
ていることになります。
 (5800/25)÷(120/15)=29

 このように森林は、海洋生物にくらべて、肥料が少なくても二酸化炭素をたくさん
固定できるわけです。

 これが、海洋生物にくらべて、森林による二酸化炭素の固定の方が有利な点なの
です。


                  * * * * *


 しかしながら、海洋資源を積極的に活用するという意味では、海洋における「施肥
法」も、まったく無意味であるとは言い切れません。

 とくに、地球人口の増加にたいする食糧の確保という点では、大きな意味を持つ
ように思えます。そして二酸化炭素の固定もできるのならば、まさに一石二鳥です。

 さらには、海産物の食べ残しや廃棄物、あるいは海産物を食べたあとの糞には、
リンや窒素が多く含まれています。今度はそれを回収して、森林の施肥に使うとい
うことも出来るでしょう。

 とにかく、海の生態系と、陸の生態系はつながっているので、それら地球全体の
系にとって、最適な選択をするのが良いのです。



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