海洋生物によるCO2の固定 1
2006年10月8日 寺岡克哉
海を利用する二酸化炭素の処理として、「海洋投棄」や、海の生物による二酸化
炭素の「固定」などが考えられていました。
そして前2回のエッセイでは、そのうちの「海洋投棄」について、お話してきたので
した。
これから、もう一方の、「海洋生物による二酸化炭素の固定」について考えてみた
いと思います。
* * * * *
海洋生物を使った二酸化炭素の固定には、大きく分けて、以下の二つのような
ことが考えられています。
(1)「植物プランクトン」による二酸化炭素の固定
(2)「サンゴ」による二酸化炭素の固定
つぎに、それらについて、もう少し詳しく見て行きたいと思います。
* * * * *
(1)「植物プランクトン」による二酸化炭素の固定
これは、植物プランクトンの「光合成」によって、二酸化炭素を固定しよと言う
ものです。
大気中の二酸化炭素が増えると、それが海に溶け込みます。そうすると、植物
プランクトンの光合成が活発になり、どんどん二酸化炭素を消費するようになり
ます。
その結果として、植物プランクトンがたくさん増殖し、それを餌にしている生き物
たちも増えて行きます。そして、海の生態系がどんどん豊かになるのです。
このように、最終的には「生物体」として、二酸化炭素が固定されるという考え方
です。
もし本当に、そんなことが可能なら、二酸化炭素を問題にする必要がなくなりま
す。なぜなら、人類がいくら二酸化炭素を出しても、海の生態系がどんどん豊かに
なるだけだからです。
それならむしろ、人類が二酸化炭素をだす方が、より望ましいと言うことになる
でしょう。
* * * * *
しかし、そう話はうまく行きません!
なぜなら、海洋の大部分が「貧栄養状態」にあるからです。
田畑や家庭からでる、窒素やリンなどの「富栄養化」により、「赤潮」がよく発生
する日本の沿岸からは想像もできません。
が、しかし外洋のほとんどは、窒素やリンなどの「肥料」が極度に不足して
いるのです。
そのため、二酸化炭素と太陽光が十分にあっても、植物プランクトンは増殖でき
ないでいます。
だから現状においてさえ、じつは海中の二酸化炭素が消費できずに
「余っている」のです。
ゆえに、この先さらに二酸化炭素が増えても、植物プランクトンがそれを消費する
ことは出来ません。
そして、植物プランクトンが二酸化炭素をどんどん消費しなければ、やはり大気中
の二酸化炭素は増えていくのです。
(大気中の二酸化炭素が増えれば、もちろん海に溶け込む量も増えます。しかし
それには限度があり、大気中に増加した分のすべてが、海に溶け込むわけでは
ありません。だから事実、現状において、大気中の二酸化炭素が増えつづけている
のです。)
* * * * *
それならば、海に「肥料」をまけば良いではないか!
とうぜん、そのような考えが湧いてくると思います。
極度に不足している「窒素」や「リン」を補ってやれば、植物プランクトンがどん
どん増殖できるようになり、二酸化炭素をたくさん消費するようになるからです。
それを、「施肥法」といいます。
ところで、植物プランクトンなどの「有機体」として1トンの炭素を固定するのに、
窒素は0.2トン、リンは0.02トンていど必要です。
それから計算すると、化石燃料からでる二酸化炭素のすべてを固定するには、
全世界の肥料生産の、じつに10倍以上が必要となります。
しかしこれは、工業的に生産不可能な量ではありません。そして、貧栄養状態の
外洋にいくら肥料をまいても、環境への悪影響は少ないと期待できます。
しかしながら、リン肥料の資源量に限界があるかも知れません。リン肥料は、
農業による食糧生産にとって必要不可欠なので、そちらとの兼ね合いも十分に
考えなければならないでしょう。
* * * * *
(2)「サンゴ」による二酸化炭素の固定
申し訳ありませんが、それについては次回にお話したいと思います。
目次にもどる