海洋生物によるCO2の固定 2 
                                   2006年10月15日 寺岡克哉



 海洋生物を利用した二酸化炭素の固定には、

 (1)「植物プランクトン」による二酸化炭素の固定

 (2)「サンゴ」による二酸化炭素の固定

の、大きく二つが考えられていました。そして前回は、(1)についてお話したのでした。
今回は、その続きです。


                   * * * * *


(2)「サンゴ」による二酸化炭素の固定

 これは、サンゴが作りだす「炭酸カルシウム」として、二酸化炭素を固定しようという
考えです。

 サンゴの硬い部分は、貝殻とおなじ「炭酸カルシウム」から出来ています。つまり
サンゴは、海水に溶けているカルシウムと、海水に溶けている二酸化炭素から、炭酸
カルシウムを作っているのです。

 だからサンゴを育成して増やせば、海水中の二酸化炭素が、どんどん炭酸カルシ
ウムとして固定されます
 その結果、海水中の二酸化炭素は減ります。そして海は、大気中の二酸化炭素を
さらに溶かすことが出来るようになります。
 それでサンゴの育成が、温暖化対策になるというのです。

 しかし、この考え方には異論もあり、サンゴの育成がほんとうに温暖化対策にとって
有効なのかどうか、まだはっきりしない所があります。

 次に、そのことについて考えてみましょう。


                  * * * * *


 まずはじめに、海水に溶けているカルシウムや二酸化炭素は、じつは「イオン」とし
て存在しています。
 つまりカルシウムは、カルシウムイオンのCa2+)として、そして二酸化炭素は、
重炭酸イオンの(HCO)として海水に溶けているのです。

 だから正確に言うと、サンゴは「カルシウムイオン」と「重炭酸イオン」から、炭酸カル
シウムを作っています。そして、その化学反応式は次のようになります。

 
Ca2+ + 2HCO  CaCO3 + CO + HO

 上のように化学記号で書くと、分かりにくい人もいるかも知れませんので、言葉でも
書いてみましょう。そうすると、

 カルシウムイオン
2つの重炭酸イオン  炭酸カルシウム二酸化炭素

となります。つまりサンゴは、炭酸カルシウムを作るときに、二酸化炭素も出して
いるのです!


 もちろん、2つの重炭酸イオンのうち、1つは炭酸カルシウムとして固定されていま
す。だから、もともと大気から海に溶けていた二酸化炭素のうち、半分は固定されて
いることになります。
 そして、サンゴから大気に放出された二酸化炭素も、いづれまた海水に溶けて行く
でしょう。だから長い目で見れば、たしかにサンゴは、大気中の二酸化炭素を減少
させているのです。

 しかし、温暖化対策として短期間にサンゴを大量に増殖させたら、逆に二酸化
炭素の発生源になりかねない
わけです。

 そしてこれが、「サンゴによる二酸化炭素の固定」に対して、異論が出されている
理由なのです。


                  * * * * *


 しかしながらサンゴの育成は、温暖化対策にとって有効だとする意見もあり
ます。


 その理由のまず第一に、サンゴ礁は、海の生態系にとって「熱帯雨林」のよう
な存在
だということです。
 つまりサンゴ礁は、たくさんの生き物が集まり、光合成も活発になされるので、他の
海域に比べて「生物の密度」が高いのです。
 だから、前回のエッセイ242でお話したように、サンゴ以外の「生物体」として
も、二酸化炭素が固定されます。


 そして第二に、サンゴは、少ない栄養(リンや窒素)で育つことができるのです。

 まずサンゴは、他の海洋生物にくらべて、「少ないリン」でも育つことができます。なぜ
ならサンゴの体自体が、他の生物に比べてリンの成分が少ないからです。
 またサンゴは、「窒素を固定する植物プランクトン」を体内に共生させています。だか
らサンゴは、リンや窒素が少なくても育つことができるのです。

 そして前回でお話したように、海洋の大部分は、リンや窒素が極度に不足して
いる「貧栄養状態」でした。そのような環境で生物量を増やすためには、サンゴ礁
を育成させるのが、とても有効だと考えられます。


 このように、サンゴ自体は二酸化炭素を出しますが、サンゴ礁全体で見れば、温暖
化対策にとって有効だとする意見もあるのです。


                    * * * * *


 しかしながらサンゴ礁全体として、「正の効果」と「負の効果」の、本当にどちらが勝っ
ているのか、まだ議論に決着がついていないようです。
 だからサンゴの育成が、温暖化対策にとって本当に有効かどうかについては、まだ
明確になっていないと言うのが正直なところでしょう。

 しかし、それだからと言って、サンゴ礁を壊滅するに任せても良いわけはあり
ません。

 やはり、サンゴは長い目で見れば、たしかに大気中の二酸化炭素を減少させ
ている
からです。そのような地球のシステムが、無くなって良いわけはありません。
 そしてサンゴは、共生させている植物プランクトンを通して、窒素を固定してい
ます。これは「貧栄養状態」の海洋にとって、その役割はとても大きい
と思われ
ます。

 そしてまた、地球の多様な生態系を、できる限り守らなければならないのは
当然でしょう。少なくとも、今まで破壊されてきたサンゴ礁の部分を、昔とおなじ
程度まで回復させるべきなのは間違いありません。




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