COの海洋投棄 2      2006年10月1日 寺岡克哉


 前回は、二酸化炭素の「海洋投棄」で考えられている、以下の3つの方法、

(1)二酸化炭素ガスを、そのまま海水に溶かし込む
(2)二酸化炭素を液状にして投棄する
(3)二酸化炭素を固体(ドライアイス状)にして投棄する

 のうち、(1)についてお話しました。今回は、その続きです。


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(2)二酸化炭素を液状にして投棄する方法

 これは、火力発電所などの排気ガスから二酸化炭素を回収し、それに圧力を加え
「液状」にしてから、海洋に投棄しようと言うものです。

 その中で、これからお話する方法は、日本海溝のような「深海」がすぐ近くにある、
日本のような場所でのみ行うことのできる対策です。

 その方法とは、まず液状にした二酸化炭素を、深さ3000メートル以上の深海に
沈めます。
 そうすると、そのような高い水圧では、二酸化炭素の方が海水よりも重くなりま
す。そして液状の二酸化炭素は、どんどん海底まで沈んで行くのです。

 投棄方法については、液状にした二酸化炭素をパイプラインで送るよりも、それ
を船で運び、海上から深海に投入した方が、エネルギー的に有利との試算もある
ようです。
 この船を使った方法は、液状にした二酸化炭素を1ヶ所に集中させないで済むと
いう利点があります。が、しかしその一方で、二酸化炭素の投棄によって酸性化
する地域が広がる恐れもある
ので、それには注意が必要です。


 ところで、火力発電所などの排気ガスから二酸化炭素を分離し、回収し、それを
液状にし、そして3000メートルの深海まで投棄するためには、やはり相当のエネ
ルギーを必要とします。

 つぎの表は、石炭火力で100メガワットの発電をしたときの、海洋投棄に必要な
エネルギーの試算です。

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       CO2の分離回収に必要な熱量    7.9メガワット
       CO2の分離回収に必要な電力    1.1メガワット
       CO2を液状にするための電力    8.3メガワット
       ポンプに必要な電力          0.9メガワット

       海洋投棄に必要な全エネルギー   18.2メガワット
       正味の発電量              81.8メガワット
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 この表によると、普通なら100メガワットの電力が生産できるのに、81.8メガ
ワットの電力しか生産できなくなっています。つまり、18.2パーセントのエネルギー
を、海洋投棄のためにロスしなければならないことが分かります。


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(3)二酸化炭素を固体(ドライアイス状)にして投棄する方法

 これは、二酸化炭素を液状ではなく、さらにドライアイス状の「固体」にしてから、
海洋に投棄しようというものです。

 二酸化炭素をドライアイスにするためには、それを液状にするときの、さらに2倍
ていどのエネルギーが必要になります。

 しかし取り扱いが簡単になり、大きな塊であれば海上からそのまま投棄しても、
海底まで沈んで行くそうです。
 もちろん、沈んで行くときに二酸化炭素の一部が気化したり、海水に溶けたりし
ますが、大部分はそのまま海底まで至ると計算されているみたいです。


 また、ドライアイスとはちょっと違うのですが、「二酸化炭素」と「水」が結合して
固形化したもの。つまりメタンハイドレートと同じような、CO2ハイドレートと言える
ものが、深海では形成されることが分かってきました。

 これは、日本海溝などの深い海底に、「液状の二酸化炭素」を投棄した場合、
海水と触れる部分がハイドレートになって固形化し、ちょうど蓋(ふた)をするよう
な感じになるので、それが活用できるのではないかと期待されています。

 もしもそうなれば、二酸化炭素が海水に溶けだすことを阻止し、海水の酸性化
を防ぐことが出来るわけです。
 そして事実、深海でCO2ハイドレートが形成されることは、潜水艇の「しんかい
2000」によって、すでに自然界にも存在することが確認されています。

 これらのことは、二酸化炭素の海洋投棄に対して、明るい希望を与えていると
言えます。


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 しかしながら、二酸化炭素の海洋投棄は、

1.二酸化炭素の分離、回収、液化または固化、そして投棄には、少なからず
エネルギーをロスすること。

2.人類にとって未知の部分が多い「海」に対して、どんな影響を及ぼすのか分か
らないこと。

3.前回のエッセイ240でお話したように、海水に二酸化炭素を溶かし込むような
対策の場合、1000年後には、ふたたび二酸化炭素が放出されること。

 以上の観点から「二酸化炭素の海洋投棄」は、出来ることならやらなくて済む
方が望ましい、「緊急非難的な対策」である
ことに注意して頂きたいと思います。



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