科学の偽宗教化 2006年1月15日 寺岡克哉
最近、韓国において、クローン技術に関連した研究論文の「捏造(ねつぞう)」
が発覚しました。
論文を捏造したのは、韓国政府から大きな支援を受けていた、とても「権威」
のある教授です。
論文が掲載されたのはアメリカの科学誌で、これも、とても「権威」のある
学術誌です。
私はこの事件を聞いて、3年ぐらい前にエッセイ65「科学という宗教」を書いて
いたときに、漠然と心配していたことが起こった気がしたのです・・・
* * * * *
そのエッセイ65で私は、
「科学的な証明」は、あまりにも複雑でむずかしく、普通の一般人にはなかなか
理解できないこと。
しかもそれは、プロの科学者でさえも自分の専門以外の分野になると、なかなか
理解できないほど難解であること。
だから、「この事実は科学的に証明された!」と、その専門分野の科学者に言わ
れれば、ほかの人間はそれを盲目的に信用するしかないこと。
について、お話しました。
私はそのエッセイを書いていたとき、もしも上のような状況につけこんで科学者
たちが「権威主義」に陥ってしまったら、一体どうなるのだろう?
権威をふりまわす一部の偉い科学者や教授が、実験データを自由に改ざんした
り、研究結果を自由に捏造したらどうなるだろう?
そしてそれに対し、だれも異議が唱えられなくなってしまったら、どうなるだろう?
と、漠然と考えていました。
もしも「科学」がそのような権威主義に陥ったら、それはまるで「デタラメな教祖
による偽宗教」と、まったく同じになってしまいます。そんなものは、もはや「科学」
とは言えません。
私は、いずれ近い将来に「科学」がそのようになってしまうのではないかと、少な
からず心の中に不安がよぎっていました。
* * * * *
しかしそれでも、科学は「客観的な実証」を絶対に重んじる学問なので、
「よもや、そんなことは絶対に起こらないだろう」
「そんな心配は、私のとりこし苦労にすぎないのだ!」
と、自分自身を言い聞かせていました。
ところが今回の韓国での事件は、その心配していたことが「現実のもの」になって
来たような気がするのです。
新聞の報道によると、「これだけ大きなスケールで、世界中をペテンにかけた
科学スキャンダルは聞いたことがない」と、科学の歴史に詳しい専門家は言ってい
るそうです。
また、これも新聞の報道によると、世界的にさまざまな学術研究の分野でも、
捏造などの不正が相次いでいるそうです。
しかもそれは、我が国でも例外ではありません。日本の大学でも、論文データの
捏造や改ざん疑惑が、次々と明るみに出ているみたいです。それで文部科学省
では、告発窓口や罰則を設けることを検討しているそうです。
なんとも、嘆かわしい世の中になったものです。
* * * * *
むかし、私が理学部の大学院生だったころ、
「世間を3週間騙せたら、いっぱしの論文」
「3ヶ月騙せたら一流の論文」
「3年騙せたらノーベル賞」
という話を、複数の教授たちから聞かされた覚えがあります。これは、科学の世界
では第三者による追認試験や、第三者による検証実験の手が、とても厳しいことを
言っているのです。
私はその話を聞かされて、
「科学の世界では、データを誤魔化したり、ウソなどをついたら、たった3週間さえ
も騙し通すことはできないのだ!」
「だから自分は、そんなことは絶対にしない!」
と肝に銘じ、堅く決意したものでした。
科学から、このような第三者による厳しい検証が無くなってしまったら、すぐに
「権威主義」と「盲目的な信仰」に陥り、あっと言うまに「偽宗教化」してしまうこと
でしょう。
今回の韓国での事件は、かろうじて捏造が明るみに出ましたが、しかし、その
ような心配は今後も続いて行くような気がしてなりません。
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