アメリカ民主主義の危機
2021年1月17日 寺岡克哉
アメリカで去年の11月に行われた大統領選挙の結果を確定するため、
連邦議会の上下両院による合同会議が、1月6日に開かれました。
この合同会議では、各州の選挙人による投票結果の集計が行われて
いたのですが、
トランプ大統領の支持者たちが議事堂を包囲し、その一部が暴徒化して、
建物の窓ガラスを割るなどして内部に侵入し、一時的に議事堂を占拠して
しまいました。
そのため、議員たちは避難を余儀なくされて、審議が中断してしまったの
です。
首都ワシントンの警察によると、
この混乱の最中、議事堂内で女性1人が銃で撃たれ、死亡したということ
です(最終的には警官1人を含む5人が死亡)。
ちなみにトランプ大統領は、
この暴動に先立ち、支持者たちに議事堂へ向かうように呼びかけていま
した。
* * * * *
何ということでしょう!
アメリカの議事堂に暴徒が侵入し、銃の発砲によって死者が出るとは!
しかも、その暴徒たちを煽(あお)っていたのが、アメリカ合衆国の大統領
だったとは!
これは、「アメリカ民主主義の崩壊の危機」だと、言わざるを得ません。
* * * * *
この暴動(アメリカの民主主義の危機)にたいして、政治の有力者たちが、
直ちに非難の声を上げました。
まず、アメリカのペンス副大統領はツイッターに、
「議事堂での暴力と破壊はいますぐやめなければならない。建物を直ち
に離れるべきだ。この攻撃は許されず、関わった者は最大限、罪を問う」
と投稿して、デモ隊に強く警告しました。
また、バイデン次期大統領は、地元のデラウェア州で会見し、
「われわれの民主主義が前例のない攻撃を受けている」と述べ、非難し
ました。
その上で、「これは抗議ではなく暴動だ。この混乱を今、終わらせなけれ
ばならない。暴徒は引き下がり、民主的な手続きを前に進めさせるよう求め
る」と、訴えています。
民主党のペロシ下院議長は、ツイッターに投稿し、
「トランプ大統領がすべての支持者に対して、連邦議会とその周辺から
直ちに立ち去るように呼びかけるよう求める」と、非難しました。
トランプ大統領に近い共和党のグラム上院議員もツイッターに、
「暴力をやめ、狂気を終わらせるべきだ」と、投稿しました。
ブッシュ元大統領は、声明を出して、
「おぞましくひどい光景だ。これは政治が不安定な国の選挙結果で争い
が起きたときの様子で、民主国家の私たちの国で起きることではない」
「一部の政治家による無謀なふるまいに、ぞっとする思いだ」
として、トランプ大統領や、一部の大統領の支持者を強く非難しました。
* * * * *
一方、
アメリカ連邦議会の議事堂で起こった、この暴動にたいして、
諸外国からも、非難や、皮肉を交えた批判の声が上がりました。
イギリスの、ジョンソン首相は、
「トランプ大統領が、人々に議会に向かうよう促(うなが)したことや、自由
で公正な選挙の結果を疑い続けていることは、完全に間違っていると思う」
と述べて、トランプ大統領の対応を強く非難しました。
フランスの、マクロン大統領はビデオメッセージを出して、
「世界で最も歴史のある民主主義の国の一つで、現職大統領の支持者
が正当な選挙結果に対して暴力を伴って異議を唱えたことで、投票という
普遍的な理念が傷つけられた」
と、批判をしました。
ドイツの、メルケル首相は、
「怒りと悲しみを感じた。トランプ大統領が去年11月から自分の敗北を
認めてこなかったことを非常に遺憾に思う」
という、コメントを出しました。
イランの、ロウハニ大統領は、
「欧米の民主主義の衰退を示すものだ。大衆に迎合するポピュリストが
この4年間で国に損害を与え、威信を傷つけた」
と、述べました。
ロシア外務省の、ザハロワ報道官は地元メディアに対し、
「アメリカの選挙制度は古びていて、現代の民主主義の基準を満たして
いない」と、批判しました。
また、ロシアのボロジン下院議長は、
「民主主義の手本として(アメリカを)引き合いに出すことには、意味が
なくなった」と指摘し、
「アメリカは、各国の選挙の正当性などを批判する資格はない」と、主張
しました。
中国外務省の、華春瑩(か・しゅんえい)報道官は記者会見で、
「香港で2019年にデモ隊が立法会に乱入した時は、香港の警察が自制
心を保ち、1人の死者も出なかった」
「アメリカのメディアは、今回のことを暴力事件や暴徒、恥とまで言って非難
しているが、香港のデモ隊のことを、アメリカの役人や議員、一部のメディア
は、 ”民主の英雄” などと美化していたではないか」
と述べ、アメリカの対応を皮肉っています。
* * * * *
ところで1月8日。
アメリカ議会・下院のペロシ議長は、軍の制服組トップである、ミリー統合
参謀本部議長と電話で会談し、
「情緒不安定な(トランプ)大統領が、戦争行為や核兵器による攻撃を
始めるのを防ぐための、予防措置などについて議論した」
ということを、同僚議員への書簡で明かしました。
私は思うのですが、
トランプ大統領の正気さが、ここまで疑われていたとは・・・
ほんとうに、「とんでもなく狂気じみた大統領」であると、言わざるを得ま
せん。
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