水虫薬に睡眠導入剤が混入 2
2020年12月27日 寺岡克哉
製薬会社の小林化工(福井県・あわら市)が製造した、
爪水虫など皮膚病の治療に使う経口抗真菌剤(いわゆる飲む水虫
薬)である「イトラコナゾール錠50」の中に、
通常の服用量を超えた睡眠導入剤の成分を、混入させていたという
事件が起こりました。
今回は、
この事件について、これまでに分かっていることを、まとめてみたい
と思います。
* * * * *
しかし、その前にまず、
この事件が、どれほど重大で酷(ひど)いものだったのかを、
ここで確認しておきましょう。
小林化工が製造・出荷した「イトラコナゾール錠50」には、
睡眠導入剤の成分である「リルマザホン塩酸塩水和物」が、
1錠あたり、最大投与量の2.5倍も混入していました。
ちなみに、
「イトラコナゾール錠50」は、通常の皮膚疾患の場合、1日に1回
2錠を服用しますが、
そうすると、睡眠導入剤を、最大投与量の5倍も摂取してしまうこと
になります。
そのため、
車の運転中などに意識を失って、事故を起こしてしまうことなどが
多発しました。
さらには、皮膚病の種類や症状により、
「イトラコナゾール錠50」を、1日に1回4錠を服用する場合もある
のですが、
その場合だと、睡眠導入剤を、最大投与量の10倍も摂取してしまう
ことになり、
重篤(じゅうとく)な健康被害を起こしたり、あるいは死亡の原因に
さえ、なり得るということです。
これでは、まるで、薬と称して「毒」を製造し、出荷したようなもの
です。
小林化工という製薬会社は、これほどまでに酷(ひど)い過失を、
やらかしたのです!
この重大な過失による、「被害」の最新状況ですが、
「イトラコナゾール錠50」を病院で処方された人は、31都道府県の
364人にも及び、服用者のうち2人が死亡しました。
また、12月22日の時点で、
意識消失や記憶喪失、ふらつきなどの健康被害の報告が158人と
なっており、
車などを運転中の事故は21人、救急搬送や入院は35人に上って
います。
* * * * *
さて、このような重大過失が起こった原因ですが、
小林化工などによると、睡眠導入剤の混入は、加工途中に「目減り
した原料をつぎ足す作業」で、発生したといいます。
「イトラコナゾール錠50」の工程は、原料の計量や乾燥、粒子の
均一化など、数日にわたりますが、
有効成分であるイトラコナゾールは、機械に付着するなどして目減り
します。
そのため、「原料のつぎ足し作業」を行うのですが、
この作業は、チェック役と2人一組で行う規程で、原料を取りだす際
や計量する際には、2人による指さし確認が必要となっていました。
が、しかし、当時は1人で作業を行っていたと言います。
ちなみに、
本来投入するイトラコナゾールは、高さ1メートル程度のドラム缶の
ような厚紙の容器に入っているのに対して、
取り違えた睡眠導入剤の成分であるリルマザホン塩酸塩水和物
は、高さ15センチほどの菓子箱のような金属缶です。
小林化工は、「ラベルもロット番号も違う。一般的に取り違えるレベ
ルではない」と、していますが、
この取り違えが起こったのは、今年の6月~7月の製造で、担当者
の記憶もはっきりしないといいます。
その上、
製品の作業記録には、本来なら投入されるはずがない睡眠導入剤
の成分を示す番号が記載されていたほか、
最終的な品質検査でも、異物混入を示すデータが検出されていま
した。
が、しかしながら、それらすべてが「見過ごされて」しまったのです。
* * * * *
ところで・・・
そもそも「原料のつぎ足し作業」というのは、「厚生労働省が承認
した製造手順」では、認められていないといいます。
つまり「イトラコナゾール錠50」は、
厚生労働省が認めていない方法で、作られていたという訳です。
製薬会社で長く新薬などの研究開発に携わった、村上茂・福井県立
大学教授は、
「加工途中で有効成分の量が減ることはあるとしても、あらかじめ
多めに投入すれば済むこと」
「コスト抑制のため、有効成分をぎりぎりの量にして後でつぎ足して
いたのかもしれないが、本来はやらない行為」
「工程が増えれば、その分エラーは起きやすくなる」
と、話しています。
また、同・村上教授は、
最終関門である成分分析の検査でも、睡眠導入剤の混入が見落と
されたことについて、
「情報の引き継ぎなど、現場のコミュニケーションができていたのか
疑問だ」
「間違いは起こり得ることであり、最終チェックを厳密にやるべきだ」
と述べて、異物混入を示すデータが検出されていたのに、最終検査
をすり抜けたことを問題視しています。
* * * * *
以上、ここまで見てきて、私は思うのですが・・・
そもそも「薬」というのは、人の命に係(かか)わるものなので、
細心の注意を行い、厳重な管理の下で製造しなければならない
のは、
まったく当然のことであり、言うまでもありません。
それなのに、小林化工という会社は、
こんなにも酷(ひど)く、杜撰(ずさん)な仕事をしていたとは・・・
このような会社など、
もはや存続する資格が無いとさえ、私には思えてならない次第です。
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