水虫薬に睡眠導入剤が混入 1
                             2020年12月20日 寺岡克哉


 ここのところ、新型コロナウイルスの報道が世間を騒がせています
が、その陰で、ものすごく大変なことが起こりました。


 それは、

 爪の水虫を治すための薬、いわゆる「飲む水虫薬」に、「睡眠導入
剤」の成分が、多量に混入していた事件です。


 この水虫薬を飲んだ人の中には、

 車の運転中に意識を失って、交通事故を起こしたケースさえありま
した。


 以下、

 この事件の経緯(けいい)について、すこし詳しく見ていきたいと
思います。


             * * * * *


 福井県は12月4日。

 同県あわら市にある製薬会社の「小林化工」が、爪水虫など皮膚病
の治療に使う経口抗真菌剤である、「イトラコナゾール錠50」にたいし、
およそ10万錠分を自主回収すると発表しました。


 薬の製造過程で、通常の服用量を超えた睡眠導入剤の成分が混入
してしまい、
 岐阜、大阪、佐賀の3府県で計12人に、意識消失や強い倦怠(けん
たい)感などの、副作用が確認されたからです。


 小林化工によると、イトラコナゾール錠というのは、

 細菌が感染して爪が白く濁(にご)る、「爪水虫」とも呼ばれる「爪白癬
(つめはくせん)」などの治療薬だといいます。


            * * * * *


 小林化工は12月7日。

 イトラコナゾール錠の3種について、自主回収すると発表しました。

 その理由は、厚生労働省の承認を得ていない工程で製造されたこと
が、判明したからだといいます。


 この薬を巡っては、一部のロット(生産・出荷の最小単位)で、睡眠
導入剤の成分が混入し、12月4日から既に自主回収していますが、
その規模がさらに拡大した形です。


 新たな回収対象は、イトラコナゾール錠50、同100、同200で、使用
期限が2020年12月~23年10月の製品です。

 これらの薬は、医療用の医薬品であり、全国の医療機関などに流通
しているとみられます。


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 福井県によると、12月10日。

 イトラコナゾール錠50は、全国39の都道府県に流通しており、

 小林化工が、実際に処方された患者は31都道府県の364人である
ことを特定し、

 医療機関や薬局を通じて、患者全員に服用中止を求める連絡を、
終えたと言うことです。



 また、

 「意識を失う」などの副作用の報告は、12月10日正午の時点で、
128件にも上っており、

 その中には、車の運転中に意識を失って交通事故の起きたケース
が、14件あるということです。


              * * * * *


 小林化工は、12月12日。

 イトラコナゾール錠50について、含有成分を確認する最終の品質試験
で異変を検出しながら、「厳密なチェックが出来ていなかった」ことを明らか
にしました。

 異物が混入している可能性を示すデータが、出ていたにもかかわらず、
薬を出荷していたといいます。



 また、同・小林化工によると、

 イトラコナゾール錠50を作る過程で、機械への付着などで目減りする
原料を継ぎ足す際に、

 イトラコナゾール錠の主成分と、睡眠導入剤の成分である「リルマザホ
ン塩酸塩水和物」の容器を、取り違えて混入したということです。



 混入した量は、1錠当たり、睡眠導入剤で通常使用する最大投与量の
2.5倍にも及びます。

 なので、

 イトラコナゾール錠50の、1回の最高用量として4錠を飲んだ場合、
睡眠導入剤の成分は、最大投与量の10倍にも及ぶのです。



 さらに、同・小林化工によると、

 睡眠導入剤の混入があったイトラコナゾール錠50を服用した患者で、

 意識消失や記憶喪失、ふらつきなど健康被害の報告は、12月12日の
午前0時までで、延べ134人となりました。

 また、

 車などの運転中の事故は15件で、救急搬送や入院した人は33人に
上っています。


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 12月16日。

 小林化工と福井県が、報道陣の取材にたいして明らかにしたところ、

 小林化工は、「全289製品の出荷を停止した」ことがわかりました。

 すべての製品にたいし、製造時における記録をチェックして、品質を
確認するとしています。

 出荷の停止は、12月14日から行われていますが、再開のめどは
立っていません。



 また小林化工は、同12月16日。

 12月15日の時点で、健康被害を訴えた患者が同日中に8人増え
て、154人になったと発表しました。

 その内の35人が、入院または救急搬送されたといいます。



 ちなみに、この問題をめぐっては、

 薬を飲んだ患者の副作用の報告が、12月15日午前0時までに
146件寄せられており、

 このうち、車の運転中に意識を失うなどして、事故が起きたケース
が19件に上っているほか、

 首都圏に住む70代の女性が死亡しており、

 警察も事実関係を確認するとして、12月14日から会社側に任意で
の聴き取りを始めています。


              * * * * *


 以上、ここまで見てきましたが・・・ 

 とても信じられないような、ものすごく大変なことが起こりました!

 「水虫薬」を飲んだつもりで、「睡眠導入剤」を最大投与量の2.5倍
から、最悪では10倍も摂取(せっしゅ)してしまうのです。

 これでは、車の運転中に意識を失って、事故を起こしてしまうのも
無理はありません。



 しかしなぜ、こんなに大変なことが起こってしまったのでしょう?

 それについては、いま現在でも調査が進められている途中なので、

 次回では、それまでに判明したことをレポートしたいと思います。



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