学術会議の任命拒否問題
                             2020年10月18日 寺岡克哉


 10月1日。

 学問の立場から政府に提言する「日本学術会議」の新会員について、

 学術会議が推薦した候補者105人のうち6人を、菅・首相が任命しな
かったことが分かりました。

 現行の推薦制度になった2004年以来、推薦した候補者が任命されな
かったのは初めてのことで、

 憲法が保障する「学問の自由」を侵し、学術会議の存立に関わるとして
批判の声が上がっています。


              * * * * *


 たしかに制度上は・・・ 

 日本学術会議の新会員は、学術会議が推薦し、首相が任命することに
なっています。


 だから、学術会議新会員の任命権は首相にあり、

 首相が不適切だと思った推薦候補者を任命しなかったとしても、

 べつに何の問題もないと思う人が、結構いるかも知れません。



 しかしながら、たとえば内閣総理大臣を決めるとき、

 制度上は、国会議員の中から、国会の決議で内閣総理大臣を指名し、

 天皇が任命することになっています。


 しかし天皇が、

 国会で指名された者を、いくら内閣総理大臣として不適切だと思った
としても、

 その者の任命を拒否したりすれば、ものすごく大変な問題になるのは
明らかです。



 ところで一方、日本学術会議は、

 「学問の自由」を守るため、政府による干渉を排し、かなり独立した
組織となっています。


 なので、

 このたびの菅・首相による、学術会議新会員の任命拒否問題は、

 天皇が内閣総理大臣の任命を拒否した場合と似たような、ものすごい
大問題であると、

 私は思っているわけです。


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 さて、

 菅・首相が任命しなかった6名とは、以下のような人々です。



京都大学大学院の芦名定道教授

 専門はキリスト教学で、おととしから宗教倫理学会の会長を務めて
いるほか、宗教哲学会の理事もやっています。

 そして、「安全保障関連法に反対する学者の会」の賛同者の1人
です。



東京大学の宇野重規教授

 政治学者で、専門は政治思想史と政治哲学です。

 集団的自衛権の議論をきっかけに、憲法学や政治学などさまざまな
分野の学者たちが発足させた「立憲デモクラシーの会」や、

 「安全保障関連法案に反対する学者の会」の呼びかけ人の1人
です。



早稲田大学の岡田正則教授

 行政法が専門の法学者です。法務大臣から直接任命される司法試験
考査委員を、3年前まで10年間にわたって務めたほか、
 現在は国立国会図書館の事務文書開示・個人情報保護審査会の会長
代理になっています。

 岡田教授は、アメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐ
り、沖縄防衛局が取った手続きを批判する声明を、ほかの行政法の
専門家とともに2度にわたって出しています。


 また、「安全保障関連法の廃止を求める早稲田大学有志の会」の
呼びかけ人の1人
です。



慈恵会医大の小澤隆一教授

 憲法学が専門の法学者で、5年前、安全保障関連法案を審議する
衆議院の特別委員会の中央公聴会に、野党推薦の公述人として出席
し、


 「歯止めのない集団的自衛権の行使につながりかねず、憲法9条に
反する。憲法上多くの問題点をはらみ廃案にされるべきだ」と、述べて
います。




東京大学大学院の加藤陽子教授

 日本近代史が専門の歴史学者で、6年前、集団的自衛権の議論をきっ
かけに、憲法学や政治学などさまざまな分野の学者たちが発足させた
「立憲デモクラシーの会」の呼びかけ人の1人です。

 この会は、安全保障関連法や、「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等
準備罪」を新設する法律、それに東京高等検察庁の検事長の定年延長
に反対
しました。



立命館大学大学院の松宮孝明教授

 刑法が専門の法学者で、3年前に、「共謀罪」の構成要件を改めて
「テロ等準備罪」を新設する法案をめぐり、参議院法務委員会に共産党
が推薦する参考人として出席し、


 「何らの組織にも属していない一般市民も含めて、広く市民の内心が
捜査と処罰の対象となり、市民生活の自由と安全が危機にさらされる
戦後最悪の治安立法となる」と、述べました。



              * * * * *


 以上、ここまで見てきましたが、どうやら菅・首相は、

 集団的自衛権を認める「安全保障関連法に反対」

 アメリカ軍普天間基地の「辺野古移設を批判」

 「テロ等準備罪の新設に反対」

 という立場をとる学者たちを、学術会議の新会員として任命しなかった
みたいです。



 これを見るかぎり、

 菅・首相が、政府に都合の悪い学者たちを、学術会議から排除したの
は明らかです。



 政府側による、こんな強行手段を許してしまったら、

 「学問の自由」が崩壊して、学者たちが委縮(いしゅく)し、

 政府に都合の良い学者、いわゆる「御用学者」を蔓延(はびこ)らせて
しまうのは、想像に難(かた)くありません。


 そのことが私には、ものすごく気がかりになって仕方がないのです。



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