テロや戦争を根絶するには 2003年12月21日 寺岡克哉


 私は、テロや戦争を人類から根絶させるためには、「生命の肯定」を人類全
体に浸透させるしか、方法がないように思うのです。


 例えば、「なぜ人を殺してはいけないのか?」という質問は、いろいろな所で聞か
れます。
 しかし、「なぜ人間の肉を食べてはいけないのか?」というのは、質問しようとする
人さえいません。
 それほどまでに、「人間の肉を食べてはいけない!」という戒めは、人類全体に
浸透しているのです。
 それと同じぐらいに、「人を殺してはいけない!」という戒めが人類全体に浸透す
れば、テロや戦争は根絶するのです。

 しかし一体どうしたら、「人間の肉を食べてはいけない!」というのと同じぐらいに、
「人を殺してはいけない!」というのを、人類の心に刻みつけることができるのでしょ
うか?
 それにはやはり、「生命の肯定」を人類全体に浸透させるしかないと、私は思うの
です。
 「生きることは素晴らしい!」
 「生命の存在は素晴らしい!」
と、心の底から思うことが出来てはじめて、生命を尊重しようという気持ちが起こる
からです。
 そして人を殺すことに対し、人間の肉を食べるのと同じぐらいの恐ろしさや、おぞ
ましさ、やりきれなさを感じるようになるからです。
 生きることを愛し、生命の存在を愛すること・・・ つまり「生命を肯定すること」が
出来れば、人を殺すことが非人間的で野蛮な行為だと、心の底から感じるようにな
るのです。

 逆に、生きることを憎み、生命の存在を憎むこと・・・ つまり「生命の否定」に取り
憑かれていれば、「人を殺してはいけない!」というのが理解できません。
 なぜなら「生命の否定」は、(自分も含めて)全ての生命の死を望むからです。だか
ら(自殺も含めて)人を殺すことが、そんなに悪いことだと思えないのです。
 そしてテロや戦争もまた、敵の生命(敵の存在)を憎んでこれを殺そうとする、「生
命の否定」のなせる業です。
 だから「生命の肯定」を人類に浸透させて、生命の否定を人類から払拭しなけれ
ば、テロや戦争は根絶しないのです。

 私は、生命の肯定が「生命の真理」だと考えています。
 なぜなら、一般に正しくて善いものとされている、「愛」や「理性」や、さらには「神」
でさえも、それらが「生命の肯定」のためにではなく、「生命の否定」に使われてしま
えば、テロや戦争の原因や手段となってしまうからです。
 宗教も、科学も、政治も、経済も、それらが生命の肯定のためにではなく、生命の
否定に使われてしまえば、テロや戦争の原因や手段となってしまうのです。
 つまり、人類の行うあらゆる思考や活動が、「生命の肯定」のために行われるの
か否かによって、それが善くて正しいことなのか、悪くて間違ったことなのかが決ま
るのです。ゆえに、「生命の肯定」が生命の真理だといえるのです。
 (ここの所の詳しい話は、エッセイ85を見てください。)

 この考察から、テロや戦争を根絶させるためには、科学や経済をいくら発展させ
てもダメめなことが分かります。
 やはり、生命の真理である「生命の肯定」を、人類全体に浸透させるしか方法が
ないのです。
 しかしながら、「生命の肯定」を人類全体に浸透させるには、たいへんに
長い時間と、多くの人々の努力が必要です。

 例えば、「生命肯定の教え」の代表格として、釈迦の説いた「慈悲」やキリストの
説いた「愛」がありますが、これらの教えが人類に説かれ始めたのは、2千年以上
も前です。
 そして、そのころの日本はどうかといえば、それは縄文時代でした。その時代の
日本には、文字も鉄器もなかったのです。
 しかし、2千年の歳月が経つうちに日本人は文字を獲得し、ほとんどの日本人が
文字を読めるようになりました。
 また、サンスクリット語で書かれた仏教経典や、ギリシャ語で書かれた新約聖書
を、日本語に翻訳してくれる人々も現れました。
 そしてまた、命をかけて釈迦やキリストの教えを伝道した、多くの人々の努力も
決して忘れてはなりません。
 だから現代の私たちは、釈迦やキリストの教えを知ることが出来るのです。

 このように、「生命の肯定」が人類全体に浸透するには、何千年もの歳月と、たく
さんの人々の努力が必要なのです。
 しかし現代においてもまだ、「生命の肯定」が人類全体に浸透するには至ってい
ません。
 しかしそれでも、テロや戦争の根絶を本気でまじめに考えるならば、例え
あと何千年の歳月がかかろうとも、例えどんなに回り道であろうとも、生命の
真理である「生命の肯定」を、一人ずつ、一人ずつ、人類に浸透させていくし
か方法がないのです。

 いくらたどたどしくても、いくら地味であっても、それがテロや戦争を根絶するため
の確かな道だと私は信じています。



              
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