イランの反政府デモ
                              2020年1月19日 寺岡克哉


 1月8日にイランが、ウクライナの旅客機を誤って撃墜しましたが、

 この事件をめぐって、イラン国内では「反政府デモ」が起こっています。


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 1月8日の朝・・・ ウクライナ国際航空のボーイング737-800型機が、

 イランの首都テヘラン近郊にある、イマームホメイニ国際空港を離陸した
直後に、とつぜん墜落しました。

 この旅客機には、乗員9人と乗客を合わせて、およそ180人が乗って
いたと伝えられていますが、現地の消防当局の責任者は、全員が死亡
したと発表しています。

 ウクライナ政府によると、乗客にはイラン国籍の82人と、カナダ国籍の
63人、その他ウクライナ、スウェーデン、アフガニスタン、ドイツ、イギリス
国籍の人々が含まれていたとしています。



 この墜落事故について、カナダのトルドー首相は1月9日に記者会見を
開き、「イランの地対空ミサイルで撃墜されたことを示す証拠がある。誤って
撃墜された可能性もある」と、述べました。

 また、イギリスのジョンソン首相も声明で、「イランの地対空ミサイルで撃墜
されたという情報がある。意図的ではなかっただろう」と述べて、イランが
誤ってミサイルで撃墜したという見方を示しました。

 さらにアメリカのトランプ大統領も同1月9日。「機体の問題だとは思わな
い。誰かが間違いをした可能性がある」と述べて、撃墜の可能性を示唆して
います。



 ちなみにウクライナの旅客機は、1月8日の未明にイランがアメリカ軍の
拠点をミサイルで攻撃した、そのおよそ4時間後に墜落しています。

 アメリカのメディアは政府当局者の話として、偵察衛星がイランの2発の
地対空ミサイルの発射を探知した直後に、ウクライナの航空機が爆発した
として、

 「イランの防空システムで誤って撃ち落とされた可能性がある」と、伝えま
した。



 これに対して、イラン航空当局の責任者は国営テレビで、

 「この空域は国際便や国内便が行き交っており、そうした場所でミサイル
を発射するなどありえない」とした上で、

 「ミサイルで撃墜されたなら、(機体が)バラバラになっているはずだが、
パイロットは機体から火が出たあと、空港に引き返そうとしていた」と、主張
しています。


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 ところが!

 上のように、「撃墜を全面的に否定」していたイランでしたが、

 イラン軍は1月11日に声明を発表し、「ウクライナの旅客機は人為的
なミスによって攻撃された」として、これまでの主張を一転させ、旅客機の
撃墜を認めました。

 この声明でイラン軍は、「旅客機が旋回時に革命防衛隊の重要な施設
に接近し、飛行形態や高度から敵の航空機にみえた」として、敵機と誤認
して攻撃したという認識を示しています。



 これを受けて、イランのロウハニ大統領も声明をだし、「この悲劇の遺族
に深い哀悼の意を表し、必要な手だてをとって罪を償いたい」として、犠牲
者や遺族に謝罪の意を示しました。

 しかし、その一方でロウハニ大統領は、

 「イラン軍はアメリカによる威嚇と攻撃に備えて100%の警戒態勢に
あり、これが人為的なエラーにつながって誤射を起こしてしまった」として、
アメリカが緊張を高めたことが事故につながったと主張しています。


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 このように、イラン軍の声明が発表されると、

 イラン国内では、旅客機に乗っていた多くの自国民(82人)が犠牲に
なったにもかかわらず、当初、撃墜が隠ぺいされたとして、

 イラン指導部への批判が、一気に高まりました。



 1月11日には、イラン国内の各地でデモが起こり、テヘランでは数千人
が参加したとも言われています。

 集まった人たちは、「独裁者に死を」などと叫んで、最高指導者ハメネイ師
を非難しました。

 厳格なイスラム体制下にあるイランで、このように最高指導者を公然と
非難するのは、ものすごく異例のことです。

 テヘラン市民からは、「政府は何が起きていたか、最初からわかっていた
はずだ。最悪のうそをついた」という声もあがっています。



 その後の報道によると、テヘランなどでは、1月11日に続いて、12日と
13日もデモが行われたもようです。

 アメリカとの関係が緊迫(きんぱく)していることに加えて、旅客機の撃墜
に対する国内からの批判も高まり、

 イラン指導部としては、とても厳しい状況に直面していると言えるでしょう。


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 ところで!

 イランでは昨年(2019年)の11月にも、大規模なデモが起こっています。

 そのデモは、「ガソリンの値上げ」をきっかけにして起こったのですが、

 イラン革命(1979年)以降の約40年間で、最大ともいわれる反政府デモ
となったのです。



 そして、ものすごく酷(ひど)いことに、

 この反政府デモにおける犠牲者(死者)が、1500人にも上ったことが
明らかになっています。

 また、治安部隊による、このような酷い「デモの弾圧」は、イランの最高
指導者であるハメネイ師自身が、指示したものであることもわかっています。



 それは、ハメネイ師の側近に近い複数の政府筋が、アメリカの報道機関
に明かしたもので、

 これらの政府筋によると、ハメネイ師自身が抗議デモを「何としてでも終わ
らせろ、これは命令だ」と指示し、弾圧を命じたそうです。

 その指示は、ロウハニ大統領および閣僚らが出席した会議で、伝えたと
しており、

 ハメネイ師は、「デモ隊が自分の写真を燃やしている」という報告に、激怒
していたといいます。


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 以上、ここまで見てきて、私は思うのですが・・・ 


 たしか、最近の「香港デモ」における犠牲者(死者)は、2人ぐらいで
したから、

 それに比べると、昨年の11月に起こったイラン反政府デモにおける
1500人という死者数は、まったくもって酷い弾圧です。

 いま現在のイランは、「人権も何もあったものではない!」という状況
なのだと、言わざるを得ません。



 それにしてもイランの人々は、

 本当に殺されるかも知れないのに、反政府デモに参加するなんて、
ものすごく勇気があると思います。


 しかし裏を返せば、

 イランの国民は、イランの指導部にたいして、それほどまでに大きな
怒りや不満を、持っていると言うことなのです。



 今後も、イラン指導部による国民への厳(きび)しい弾圧は、必要に
応じて実行されるのでしょう。

 そのたびに、イラン国民の怒りや不満が爆発しそうになるのは、想像
に難(かた)くありません。

 激しい内乱などが起こることなく、平和的な手段によって、イランがもっ
と自由で民主的な国になってほしいと、私は願うばかりです。



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