米韓関係も悪化か? 1
2019年11月17日 寺岡克哉
このままだと、11月23日の午前0時に、
日本と韓国の間で結ばれたGSOMIA(軍事情報包括保護協定)が、
失効してしまいます。
この、韓国側によるGSOMIAの破棄は、「日韓関係の悪化」を象徴
している出来事ですが、
しかしこれは、「アメリカをも怒らせる」ことになり、米韓関係も悪化して
行きそうです。
しかしなぜ、
日本と韓国との間で結ばれたGSOMIAが破棄されることで、
アメリカがそんなに怒るのでしょう?
* * * * *
その前にまず、「GSOMIA」についてですが、
これは、たとえば弾道ミサイルの発射の兆候など、秘匿(ひとく)性の
高い軍事情報を2国間で交換するために、
「情報を適切に保護する仕組み」などを定めたものです。
それが「GSOMIA」ですが、これを結ぶと、
相手に秘密を伝えても、こちらの同意がないかぎり、そこから先の
「第三者に伝えてはならない」ということを、
厳格に守らなければなりません。
なので「GSOMIA」は、「秘密の話をするための条件」とも言える
もので、
防衛省の関係者は、「これ(GSOMIA)がなければ、防衛相会談を
行っても、秘密の話はできない」とまで、語っています。
これまで私は、
GSOMIAの重要性について、あまり関心をもっていなかったのですが、
それほど「GSOMIA」は、じつは重要なものだったわけです。
* * * * *
自衛隊の元海将で、金沢工業大学院の伊藤俊幸 教授によると、
現状では、「アメリカの情報システム」を介して、日米韓の3ヵ国で情報を
やり取りしているのが実態だといいます。
日本と韓国は、それぞれがアメリカとのGSOMIAを締結していて、アメリカ
のシステムに秘密情報を登録しています。
アメリカによる秘密情報も同様に登録され、そのシステム上で情報を共有
するというのです。
伊藤教授は、
「(アメリカに)共通のサーバーのようなものがあり、日本や韓国は、そこに
アクセスして、情報を見に行くことになる」と説明しています。
この(アメリカの)システム上で、日韓両国がお互いに登録した秘密情報の
閲覧(えつらん)を可能にしたのが、日韓GSOMIAの実態だといいます。
ちなみに、
(軍事)情報の世界には、「情報を提供された国は、入手した国の許可無く、
第3国に情報を提供しない」という、厳密なルールがあります。
このため、日本や韓国が、アメリカのシステムに秘密情報を登録しても、
そのままでは、日本から韓国に、あるいは韓国から日本に、(アメリカは)
情報を渡すことができません。
ところが、
日韓の間にもGSOMIAがあれば、第3国の手に渡る恐れがなくなるため、
日米韓の3ヵ国で、自由に秘密情報を共有できることになるのです。
* * * * *
しかし今後、
日韓のGSOMIAが破棄されてしまったら、一体どうなってしまうのでしょう?
伊藤教授は、
「アメリカが、 ”これ(この秘密情報)を、日本(あるいは韓国)に提供して
よいのか” と、問い合わせる必要が出てくる」といいます。
さらに伊藤教授は、
「日本と韓国の間には、GSOMIAとは別に、ミサイルや核実験などの情報
に限って、アメリカを介して情報を交換する取り決めがあるものの、
アメリカがいちいち、情報の中身を精査して提供可能か判断し、場合に
よっては加工しなければならず、当然、時間のロスも生じてくる」
とも、説明しています。
つまり、
日韓のGSOMIAが破棄されてしまったら、アメリカにとって、ものすごく
面倒なことになるわけです。
さらには、
ミサイル攻撃を受けるなどの「緊急事態」においては、情報伝達の時間
的なロスが、「致命的」となる恐れもあるのです!
このような理由で、
韓国がGSOMIAを破棄することに対して、アメリカは、ものすごく怒って
いるわけです。
* * * * *
日本での勤務経験が長い、アメリカ情報機関の元担当者によると、
「協定の破棄は、驚きでしかない。軍事機密は、それぞれ、”光る宝石”
を含んでいるので、われわれ同盟国どうしが、直接やり取りできなくなるの
は大きな損失だ」
「そもそも、日米韓の3ヵ国は、話す言語すら異なる。韓国は ”アメリカを
介してやり取りできる” というが、そんなに簡単なものではない」
と、話した上で、
「この状況を見て笑っているのは、北朝鮮であり、中国であり、ロシアだ」
「それなのに協定を破棄した韓国は、なぜアメリカが不快に思っているの
か、理解できていないのではないか」
「こうした対応をとるムン大統領は、アメリカにとって ”非協力的” とすら
言える」
と、自らの考えを打ち明けています。
* * * * *
上で紹介した、アメリカ情報機関の元担当者の話は、
ただ彼の個人的な見解にすぎないのではなく、アメリカ政府としての見解
を代弁していると言えます。
その証拠に、今月(11月)に入ると、
アメリカは目に見える形で、ムン・ジェイン政権への圧力を強めているの
です。
11月6日には、
スティルウェル国務次官補や、経済担当のクラーク国務次官が韓国を訪れ、
韓国政府の高官にたいして、GSOMIAの破棄判断の見直しや、中国に
対抗するための同盟強化を相次いで求めました。
11月12日には、
在韓米軍のエイブラムス司令官が、ソウル南方の米軍基地で行われた
記者会見で、
「GSOMIAがなければ、われわれがそれだけ強くないかもしれないという
誤ったメッセージを送る恐れがある」と、懸念を示しました。
これは、北朝鮮・中国・ロシアを念頭に置いて、日韓のGSOMIA維持する
ようにと、韓国のムン・ジェイン政権にクギを刺したものと見られます。
さらに、エイブラムス司令官は、
「GSOMIAは、日韓の歴史的な差よりも、地域の安定と安全保障を最優先
にするという明確なメッセージを投じた」として、その意義を強調しています。
11月13日には、
アメリカ軍の制服組トップである、ミリー統合参謀本部議長が、東京都内で
行った記者会見で、
日韓のGSOMIAについて、「 ”失効させてはいけない” というのが、韓国
へのメッセージだ」と、述べました。
その上で、「GSOMIAが失効して得をするのは、北朝鮮、中国、ロシアだ。
失効させないことが日米韓すべての利益になる」と、語っています。
また、ミリー統合参謀本部議長は11月13日から韓国を訪れて、韓国政府に
GSOMIAの継続を要請する意向を示しています。
そして11月15日には、
韓国を訪れていたアメリカのエスパー国防長官が、ソウルでチョン・ギョンドゥ
国防相と会談し、GSOMIAの延長を検討するように促しました。
エスパー国防長官は、この日の午前に開いた米韓の安保協議会後の記者
会見で
「協定(GSOMIA)は、戦時に日米韓が効果的に情報を共有するために
重要だ。失効して日韓対立が続けば、得をするのは中国と北朝鮮だ」
と、強調しています。
* * * * *
ところが!
上のチョン・ギョンドゥ国防相との会談後、エスパー国防長官は、ムン・ジェ
イン大統領と約50分間の会談をしたのですが、
韓国側の説明によると、ムン・ジェイン大統領は日米韓の安保協力は重要
だと述べる一方で、
「安全保障上、信頼できないという理由で輸出規制をした日本と軍事情報
を共有するのは難しい」と、語ったといいます。
何ということでしょう!
韓国のムン・ジェイン大統領は、アメリカを本気で怒らせるつもりなので
しょうか。
11月23日の午前0時に、日韓のGSOMIAが本当に失効してしまうのか
どうか、
いま現在、まったく目の離せない状況になっています。
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