罪悪感を狂わすもの     2003年11月16日 寺岡克哉


 今の社会には、「罪悪感を狂わすもの」が存在するのではないでしょうか?
 そして、「罪悪感の狂わされた人間」というのが、最近は増えているのではないで
しょうか?

 例えば・・・
 まじめで学業成績の優秀な若者が、突然に起こす殺人。
 自分の子供を虐待し、殺してしまう親。あるいは、自分の親を殺してしまう子供。
 「人を殺してみたかったから殺した」とか、「キレてカーッとなったから殺した」など
という、簡単な理由で行われる殺人。
 そしてまた、
 家庭を持ち、まじめに働いているサラリーマンが、影に隠れてやっている少女買春
や強制わいせつ。
 さほどの罪悪感が持たれずに行われる、不倫や援助交際。
 さらには、飲酒運転や危険な運転によって起こる交通事故。
 これらを見ると、罪悪感が希薄になっているとしか思えません。

 ところが一方では、
 仕事のノルマが達成できないことへの罪悪感から、過労死や過労自殺をするまで
働いてしまう人々。
 定職につけない、金がない、車や家を持っていない・・・などのことに対して、世間
に引け目を感じてしまう人々。
 引きこもりや、うつ病など、社会に適応できないことに対して、強い罪悪感をもって
しまう人々。
 ダサイ、イケテナイ、流行遅れ・・・などと言われることに対して、大きな悩みと苦し
みを感じてしまう人々。
 これらの人々は、法律に触れるような犯罪を犯したわけでもないのに、たい
へん大きな罪悪感に苦しめられている
のです。

 これらをみて比べるとき、今の社会では、何か罪悪感が狂わされているのではな
いか? という感じが、私はどうしてもしてしまうのです。
 「罪悪感を感じるべきもの」に罪悪感を感じることができず、「罪悪感を感じなくて
よいもの」に、たいへん強い罪悪感を感じさせられているのではないでしょうか?

 私は、今の社会ではよほど気をつけていないと、知らず知らずの間に、だんだん
と罪悪感が狂わされるのではないかと思うのです。
 つまり、社会的な価値観(や風潮)が狂っていると、それに応じて罪悪感も狂わさ
れると思うのです。

 その確かな証拠として、「戦争」の例が挙げられます。
 狂った社会的価値観によって、罪悪感が狂わされる最大の例が「戦争」です。
 戦争時には、「殺人」が素晴らしい事だと奨励されます。そして、子供の時からそ
のように教育されます。
 まじめで優秀な人間が、一生懸命に努力して「殺人」の訓練をします。そして、人
をたくさん殺せば殺すほど褒め称えられ、賞賛されます。
 「殺人」が名誉であり、誇りなのです。そしてそのことに、多くの人間が疑問さえも
持たないのです。
 逆に、戦争(つまり殺人)に反対すれば、みんなから「非国民!」と罵られ、大きな
罪悪感を感じさせられます。さらには警察に捕まり、犯罪人として扱われても、誰も
疑問に思わないのです。
 このように、社会的な価値観が狂えば、罪悪感も狂ってしまうのです。

 今の日本の社会的な価値観は、戦争をしていたときに比べれば、はるかに良く
なっています。
 しかしながら、物質的な豊かさと経済の発展(つまり物と金)を重視するあまり、
「人の心」や「思いやり」などと言ったものが軽視されているのではないでしょうか?
 そのことが、今の日本人の「罪悪感」にも反映しているように思うのです。

 仕事のノルマが達成できない。
 学校を卒業しても就職できない。
 社会に適応できず、定職につけない。
 お金が稼げない。
 借金を抱えている。
 流行の洋服や、ブランド品を持っていない。
 車や家を持っていない。
 ・・・・・・。
 ・・・・・・。
 このような、「物と金が絡んだこと」に対しては、たいへん大きな罪悪感を感じさ
せられるのではないでしょうか?

 ところが一方では、
 人を殺して何が悪い!
 人をいじめたり、虐待して何が悪い!
 金で女の体を買って何が悪い!
 不倫や援助交際をして何が悪い!
 このような、「人の心」や「思いやり」を失った人間が、最近は目だっていないで
しょうか?

 「人の心よりも金だ!」という社会的な価値観。これが、罪悪感を狂わせる
正体のように思います。


 しかしながら他方では、
 犯罪被害者の救済。
 虐待を受けている子供や、DVを受けている女性の保護。
 不登校や引きこもり、うつ病に対する支援。
 さまざまな助け合いや、ボランティア活動。
 まだまだ規模が小さく、とても十分とは言えませんが、このような社会的な動きが
着実に起こっているのも事実です。

 「人の心よりも金だ!」という価値観から、
 「金よりも人の心でしょう!」という価値観へ・・・。

 非常にゆっくりですが、日本の社会はこの方向へ進んでいると思います。
 少なくとも、バブル経済が崩壊する前(20年ぐらい前)と比べると、だいぶ世の中
の雰囲気が、そのように変わってきたと思います。
 このように社会的な価値観がまともになって行けば、自ずと「罪悪感」もまともに
なって行くと思います。現在は、まだその過渡期なのだと思います。

 確かにテレビや新聞をみると、毎日のように悲惨な事件が報じられ、正直いって
世の中に悲観したくなるときがあります。
 しかしながら、
 戦争(人殺し)から、戦争なき経済発展(平和)へ。
 経済発展(エコノミックアニマル)から、人間性や人格の尊重へ。
 そしてさらには、自然環境や生態系を大切にし、地球の生命全体の尊重へ。
 このように、たいへん長い目で見れば、社会的な価値観は確実に良くなっ
ています。
 そしてこれからも、さらに良くなって行くことでしょう。だから私は、今の世の中に
悲観しないようにしています。



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