北朝鮮リスクが減少か? 2
                               2018年5月13日 寺岡克哉


 韓国と北朝鮮による「南北首脳会談」が行われ、「板門店宣言」に
両首脳が署名し、

 歴史上初めてとなる「米朝首脳会談」さえも、行われる可能性が
高まってきました。


 これらの動きを見ると確かに、北朝鮮リスクが減少してきたように
思えます。


 ところが!

 北朝鮮が再び、アメリカや日本の批判を始めたのです。


            * * * * *


 たとえば北朝鮮の外務省報道官は5月6日。

 「アメリカは、我々が核を完全に放棄するまで制裁圧力を緩めないと
露骨に騒ぎ立て、朝鮮半島情勢を緊張させようとしている」

 と、アメリカを批判しました。



 これは、

 「北朝鮮と交渉している間も、圧力をかけ続けるべきだ」と強調している、

 アメリカのボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)たちの発言を、
念頭においているとみられます。



 さらに北朝鮮の報道官は、

 「最近アメリカが、歴史的な北南(南北)首脳会談の板門店宣言で明ら
かにした我々の朝鮮半島非核化の意思に関し、制裁と圧力の結果で
あるかのように世論を誘導している」

 と批判しており、その上で、

 「相手を意図的に刺激する行為は、対話の雰囲気に冷や水を浴びせる
危険な試みとしか見られない」と、指摘しています。


                ×   ×   ×


 また、

 北朝鮮・朝鮮労働党の機関紙である労働新聞は、同5月6日の論評で、

 日本にたいして「悪い癖を捨てない限り、一億年がたってもわれわれの
神聖な地を踏めない」と、主張しました。



 同論評では、日本が蚊帳(かや)の外に置かれていると指摘しており、
その上で、

 「今のように制裁だの、圧迫だのと陳腐(ちんぷ)なことばを唱えて、
振る舞っていては、いつになっても仲間外れの身の上を免れない」と、
強調しています。

 そして、「日本は心を入れ替えろ」と要求しました。



 これは日本が、

 「北朝鮮が核放棄に向けた具体的な行動を取らない限り、最大限の
圧力を維持するべきだ」

 と主張しているので、それを「けん制」したものとみられます。


             * * * * *


 そのような状況の中で、5月9日。

 日中韓の3ヵ国による首脳会談が、東京で行われました。



 この首脳会談は、およそ1時間15分ほど行われ、

 その後に、3ヵ国の合意をまとめた「日中韓・共同宣言」というのが
発表されました。

 この共同宣言の要旨から、とくに北朝鮮問題に関する部分を抜粋
すると、以下のようになります。


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       「日中韓・共同宣言」の要旨からの抜粋

●日中韓は朝鮮半島の完全な非核化に取り組む。

●朝鮮半島および北東アジアの平和と安定の維持は、日中韓の共通の
 利益かつ責任であることを再確認する。

●国連安全保障理事会決議に従った、国際的な協力および包括的な
 解決によってのみ、北朝鮮にとって明るい未来が開けることを強調する。

●中韓両国の首脳は、日本と北朝鮮の間の拉致問題が対話を通じて
 可能な限り早期に解決されることを希望する。
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 ところで、

 日本政府の外交筋によると、この共同宣言をまとめるにあたって、

 北朝鮮の非核化が実行されるまで、最大限の圧力を維持するという
立場の「日本」と、

 非核化の進展に応じた段階的な制裁緩和を求める北朝鮮に同調
する「中国」との間で、

 意見が合わなかったといいます。



 そして結局、このたびの共同宣言では、

 「国際的な協力および包括的な解決によってのみ、北朝鮮にとって
明るい未来が開ける」

 という表現に留まり、「北朝鮮への圧力」に関する記述は、盛り込む
ことが出来ませんでした。


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 ところで「アメリカ」もまた、北朝鮮問題にたいする「動き」がありました。


 アメリカのポンペオ国務長官が、5月9日。

 (3月末に続いて)2回目の北朝鮮訪問をし、金正恩(キム・ジョンウン)
朝鮮労働党委員長と、ふたたび面会をしたのです。

 米朝首脳会談の議題や日程などの、「詰めの調整」を行ったとされて
おり、

 北朝鮮の非核化を中心とした議題について、かなり突っ込んだやりとり
をしたと、みられています。



 翌日の5月10日に、ポンペオ国務長官はアメリカに帰国しましたが、

 そのとき国務長官とともに、北朝鮮の拘束から解放された3人のアメ
リカ人も帰国しました。

 これに対してトランプ大統領は、金正恩・委員長に謝意を表明してい
ます。



 そして同日の5月10日。

 アメリカのトランプ大統領は、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員
長との、


 歴史上初めてとなる米朝首脳会談を、6月12日にシンガポール
で行なうと発表しました。




 トランプ大統領は、同日の夜に行なわれたインディアナ州での演説で、

 「米朝首脳会談は、大成功を収めるだろう」と、力説しています。

 また、

 「世界や北朝鮮、韓国、日本、中国のために素晴らしい合意をする
つもりだ」

 と述べて、北朝鮮の完全な非核化を目指す決意を示しました。


             * * * * *


 以上、ここまで見てきましたが、

 いま現在、北朝鮮問題をめぐる情勢は、「激動」していると言っても
過言ではなく、

 まったく目が離せない状況になっています。



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