コインチェック事件で思うこと
2018年2月4日 寺岡克哉
1月26日。
大手の仮想通貨取引所である「コインチェック」から、
580億円相当の「NEM」と呼ばれる仮想通貨が盗まれました。
今回は、この事件について、私の思ったことを書いてみます。
* * * * *
じつは私は・・・
「仮想通貨」というものに対して、何となく「胡散(うさん)臭い」と
いう印象が、
どうしても拭(ぬぐ)いきれないでいます。
というのは、
たとえば日本の通貨である「円」ならば、「日本銀行」つまり日本国の
中央銀行が、責任を持って計画的に毎年の発行量を決め、通貨を
発行しています。
しかしながら「仮想通貨」は、たとえばビットコインの場合、「マイニン
グ(採掘)」と呼ばれる作業が行われるたびに自動的に発行され、
しかもマイニングという作業には、やろうと思えば誰でも参加すること
ができます。
つまり仮想通貨は、どこの誰とも分からない不特定多数の人々が、
発行する作業を行っているわけです。
また、
日本の通貨である「円」ならば、必要とあれば日本銀行が「公開市場
操作」などを行って、
他の国の通貨(たとえば米ドル)に対し、円の価値が高くなりすぎず、
安くもなり過ぎず、適度に安定した価値を保つようにしています。
しかしながら「仮想通貨」は、価値を安定させるための中央銀行に
相当する機関が存在しないため、
当初の何十倍にも何百倍にも価値が上がったり、いきなり半分の
価値に下がったり、価値の変動がものすごく激しくなっています。
仮想通貨の価値が、こんなに変動していては、
貿易や製造業など、さまざまな事業を行うのに仮想通貨を使うことは、
「事実上不可能」ではないかと思わざるを得ません。
以上のように、仮想通貨は、
●一体、どこの誰が発行しているのか分からない。
●価値の変動が激しすぎて、広く実際の通貨としては、利用できそう
もない。
という2点から、何となく「胡散(うさん)臭い」という印象が、拭いきれ
ないのです。
* * * * *
しかしながら、
このたびの「コインチェック事件」を見て、仮想通貨にも「画期的だ!」
と思える所がありました。
それは、「盗まれた通貨を使えなくすることが出来る」という所です。
つまり、
仮想通貨「NEM」の取引は、ブロックチェーン(分散型台帳技術、
または分散型ネットワーク)によって、記録・公開されています。
なので、
ブロックチェーンの情報を確認すれば、ウォレットアドレス(仮想通貨
の「口座番号」に相当するもの)ごとに、
入金や出金の履歴を確認することができるのです。
だから、
仮想通貨取引所「コインチェック」のウォレットアドレス(口座)から
盗まれた、580億円相当のNEMが、
一体どこのウォレットアドレス(つまり犯人の口座)に送金されたの
か、調べれば誰にでも分かるようになっているのです。
さらには、
犯人のものと見られるウォレットアドレス(口座)に特定のマークを
つけ、資金の移動を追跡するシステムも、すでに開発されています。
そして、
マークが付けられた犯人のウォレットアドレスから、NEMがどこか
へ送金された場合、
送金先のウォレットアドレス(口座)にも、その特定のマークがつく
仕組みになっているのです。
また、
その特定のマークがついたウォレットアドレスの見分け方は、NEM
を扱う各取引所に伝達されています。
なので、
盗んだ580億円相当のNEMを、犯人が取引所を通じて円やドル
などに換金することは、事実上、不可能であると思われます。
このように、「NEM」という仮想通貨は、
「盗まれた場合に、その通貨を使用不能にすること」ができるの
です。
つまり、
「金を盗む」という行為や概念そのものが、まったく無意味に
なってしまうのです!
この点は、
円やドルなどの通貨にはない、「仮想通貨の画期的な所」だと
思いました。
* * * * *
ところが!
NEMを盗んだ犯人のウォレットアドレス(口座)が分かっても、
そのウォレットアドレス(口座)を開設した本人(つまり犯人)を、
特定することができないのです。
というのは、「本人確認(身分証明)」をせずに、口座を開設する
ことが可能だからです。
これは、ほんとうに信じられないことです。
なぜなら、たとえば「銀行口座」の場合で考えてみると、「本人確認」
をせずに口座を開設することなど、とうてい不可能だからです。
もしも、匿名(とくめい)で銀行口座の開設を認めてしまったら、
脱税や振り込め詐欺、資金洗浄などの犯罪に、どんどん利用され
てしまうでしょう。
このたびの「コインチェック事件」でも、
仮想通貨「NEM」の取引口座(つまりウォレットアドレス)を開設
するのに、「本人確認」が絶対必要としていれば、
犯人を直ちに捕まえることが出来たでしょうに・・・
私は思うのですが、
世界中のすべての仮想通貨取引所は、匿名(とくめい)口座の
開設を認めないようにするべきです。
そうしなければ、
「仮想通貨に対する信頼度」が、なかなか上がって行かないので
は、ないでしょうか。
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